02年10月25日(金)
 Sは骨休めにイチゴミルクを飲んだ、煙草は吸わない、ここ7日ばかり、バーボンを飲み続け胃の中に栗を放り込まれたような有り様だった。昼も夜も朝も飲んでいて、いつ寝たのかもよく覚えてない。
 悲しい出来事が起きたのは、10日前だった、その日は雨だった、圧迫したニビ色の空から煙のように沸いてくる嫌な雨。路地裏のガード下、配線が絡まったような場所には、ろくでも無い奴等ばかり集まってくる、頭の配線がショートした奴ばかりだ。しかし始終気を張ってなくてはならない街中よりは楽だ。それに、香水の匂いや、美味そうなソースの匂い、良い女や金持ち男の匂いのする場所より。煮えたぎる臓物、腐れうどん、メンス、ザーメンの匂いのするこの場所の方がましだと思ってる。
 その日Sは路地のどんずまりにあるうどん屋で、素うどんに七味唐辛子を大量にぶっ掛けて食った。思ってたように寒かった身体は温まった。
 Sは幼少の頃から薄着である。毎日ランニングシャツだった。中学高校はガクランの下にランニングを来て、学校に着くなり、ガクランを脱いだ。その後、社会に出てスーツを買う、三つ揃えの地味な紺色のを、しかし、どうも上着がうっとうしくて仕方なく、上着を脱いで、素肌に着てるベストだけになり、それと同時に小さなボタン工場の営業も辞めた。3ヶ月働いた。働いたと言っても、殆ど喋らないSに営業が勤まる筈もなく、業績はゼロだった。
 上着を脱いで素肌にベストだけになったSに勤まる仕事といえば、まともな仕事はない。しかし人の下で働くのはもうごめんだ、皆、「どうして薄着なの?」「素肌にスーツ着ちゃうの?」「シャツ持ってないの?」と、うっとおしい質問ばかりしてくる。Sはそのつど思った、自分が社長になった暁には部下全員、薄着を強要しようと。しかしSは社長になる人望や一緒に起業しようという人間は一人も居なかったし、友達自体が居なかった。中学時代のあだ名はクチナシ君だった、その後クチナシの花君になって、それでは呼ぶのが面倒だからハナちゃんにった、しかし喋らなかったので、あだ名を付けられても、彼を呼ぶ奴なんていなく、あだ名の意味など殆ど無かった。つまりSは驕り高ぶって馬鹿相手に喋ってられねえ、と言うような無口では無く、単に馬鹿だと思われてた。
 Sは会社を辞めてから3日後、ガード下の易者と並んで、板切れに「人捜し 請け負う」と書いて突っ立った。つまり、この腐れ路地のガード下で立派に開業し、独りぼっちの社長(気分)になった日の始まりだった。客が来て話が出来るか心配であったが、だいたい人を探して欲しいなんて言うやつは切羽詰まってる場合が多いから、相手がベラベラ喋ってくれるだろうと思った。

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雑記書手紹介

戌井昭人
東京生まれ(調布育ち)
鉄割の台本を書くの担当。あと変な動きとか考えるのも担当。
最近声がガラガラになってきている。だいたい変なおっさんの役担当。
趣味は歩くこと

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