06年10月02日(月)

今年は、とにかくたくさんのナチュラリストの本を読みました。ほとんど、ナチュラリストの本しか読んでいないかもしれません。その中でも、一番感動したのは、エドワード・アビーくんの文章です。

双眼鏡越しに目の届くかぎり遠くまで北のほうを見た。10マイル、20マイル、いや40マイルほども先を。ぼくは注意深く見ていった。古代インディアンの廃墟、意味ありげなケルン、廃鉱、想像を絶した富をもたらす秘宝、根源中の根源・・・・・なんてものがあるかと思って。
だが何もありはしなかった。何もだ。あるのはただ砂漠。沈黙の世界だけだった。

これだ、探していたものは。

エドワード アビー『グレート・アメリカン・デザート』

そういうわけで、アメリカン・デザートを体験するために、やってきました、ユナイテッド・ステイツ。もちろんチャリ持参です。これから一ヶ月の間、なーんにもないアメリカの道路を、ただひたすらに走りまくる予定です。

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LAXです。自転車とリュックとサイドバッグと大荷物。飛行機でこれだけ運んでも、追加料金は取られませんでした。

今日は初日なので無理はしません。LAXからオンタリオ空港付近まではバスでのんびーりとやってきて、一ヶ月お世話になる自転車を愛情を込めて組み立て、ロス郊外ののどかな風景を楽しみながら、先への期待と希望を胸にゆっくりとペダルを踏みます。

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オンタリオ空港の近くです。実際には、もっとごみごみとした道路を走っていたのですが。

二ヶ月も前の日記を今さらアップするのは若干気がひけるのですが、おつきあいのほどなにとぞよろしくお願いします。

06年10月03日(火)

サン・ベルナルディオのモーテルを朝六時過ぎに出発。半袖半ズボンという軽装でもまったく寒くありません。っていうか暑いです。

さて。
本日よりしばらくの間、おそらく一週間は走りつづけることになるであろうルート66が、いよいよお目見えです。実は昨日も少しだけルート66を走ったのですが、昨日までの彼と今日からの彼はちょいと違うみたいです。走り初めてすぐに気づきました。ぼくをくたばらせてやろうという野郎の気迫が、ひしひしと伝わってきます。負けてたまるものですか。

今日の目的地は砂漠の町Barstowです。予定走行距離は約130km。やる気まんまんすぎて気持ち悪いでしょう。本当は一日の走行距離は100kmぐらいで抑えておきたいのですが、途中に宿泊ができそうなちょうどよい町がないのです。I-15に沿って走っているルート66を、気合いを入れて走ります。

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ルート66。雲がひとつもありません。写真ではあまりよく分からないかもしれませんが、太陽がぎらつきまくりでした。

ルート66を走る車はほとんどありません。ときどき、トラックやらなんやらが通るくらいで、道路を走っているのは、ほとんどぼく一人だけです。楽しい。坂道が多くて少しつらいけど、楽しいです。ルート66は、山々の間を走っているので、風景にそれほどの変化はないのですが、ぼくはこういう景色が大好きなので、まったく苦になりません。この道路は、どこまで続くのかしら。左手に流れる線路は、どこまで走っているのかしら。上に広がる青空は、どこまで澄んでいるのだろう。奥村くんのちんちん(驚異的な長さ)は、いったいどこまで伸びるのだろう。

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道路の横に広がるのは、ずーっとこんな風景。最初はおもしろかったけど、途中からは見向きもしなくなりました。

しばらく走りつづけると、フリーウェイI-15と合流しました。アメリカでは、基本的に自転車でフリーウェイを走ることは禁止されているのですが、場所によってはフリーウェイでしか通過できないところが結構あり、その場合はその区間のみ、特別に自転車でフリーウェイを走ることが許されています。ここから先、しばらくの間は、フリーウェイ上を走ります。日本でいえば高速道路を自転車で走るようなものですが、日本と違って路肩が非常に広いため、走っていてもそれほど恐くはありません。

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フリーウェイです。RIGHT LANE SLOW VEHICLES AND BICYCLES ONLY!

I-15を走り始めてしばらく経つと、前方にとんでもない坂道が見えてきました。今回のアメリカ旅行、最初の峠、Cajon pass標高4190フィート(1361メートル)です。空には太陽がぎんぎらぎんに輝いています。すぐ横を、車がびゅんびゅんに飛ばしています。気温と排気ガスで、すでにのどがからからです。途中の自動販売機で、水を2リットル分ほど買い込んでおいたのですが、足りないかもしれません。

十回以上の休憩を経て、水もほとんど飲み干して、ようやく登頂。Tシャツが、汗でびっしょびしょです。これから先、いったいいくつの峠を越えることになるのだろう。楽しみな気持ちよりも、不安な気持ちの方が強いです。

このフリーウェイは、barstowまで続いています。このままフリーウェイを自転車で爆走してしまおうかしらとも考えましたが、やはりルート66を走ったほうが面白そうなので、大量の水を買い込んで、フリーウェイを降りました。Victorvilleを過ぎると、それまで並走していたI-15から大きくはずれ、再び人通りも車通りも少ない、素敵な道が現れました。

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コンテナ?なのかな。写真では一部しか写っていませんが、これがずーっと先まで続いていました。

ここから先、しばらくの間はセメント工場が続きます。土地が広いので、工場の規模も馬鹿でかくて、まるで自分が小人になったみたいな感じがします。

ごほんごほん!!突然、風と共に道路が石灰で覆われました。道路が真っ白になって、息ができないぐらいほどです。風景が一分前と完全に変わってしまいました。しかも坂道だったので、息はできないは石灰は体にまとわりつくはで大変でした。

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突然の石灰塵。これはまじできつかったです。写真を撮った後、カメラの調子がおかしくなりました。

工場地帯を過ぎると、さらに視界が広がります。一直線に伸びる道路を、「気持ちEー!」と叫びながら、走りつづけます。

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廃墟です。もともとはなんだったのでしょう。この種の廃墟も、これから先死ぬほど出てきます。

この、VictorvilleからBarstowに至る道は、ぼくが人生で走ってきた道路の中でも、ほとんど一、二を争うぐらい素敵な道路でした。本当に楽しくて、走っているだけで嬉しくて、いつまでもどこまでもこの道路が続けば良いのに、と思いました。あまりの幸せに泣きそうになりましたが、涙を流すには、魂があまりにも汚れすぎていました。

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道路の横に続く道。本当は、こういう道を進みたかった。

まだ二日目なのに。こんなに楽しくていいのかな。

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こんな車は誰も買わないと思う。

見渡す限りに広がった、あのそーらーをーみよーと大声で歌ってみたり。本当に大声で。

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ずーっと続く道路。すみません、同じような写真ばかりで。これから先、これと同じような写真が死ぬほど出てきますから。

そんなこんなでBarstowに到着。砂が、風に乗って道路の上を舞っています。

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ようやく到着Barstow。写真ではわかりませんが、砂っぽい町でした。

モーテルの受付のお兄さんに、チャリでどこからどこまで行くのか聞かれたので、目的のコースを教えると、「まじかよ、お前きちがいだろう」と言われました。イエス、アイムキチガイと答えると、「おい、こいつきちがいだぞ」と外にいる他のスタッフに声をかけます。外にいたスタッフが二三人やってきて、「おまえきちがいなのか」と聞いてきたので、「イエス、アイムキチガイ」と答えました。「そうか、きちがいか。ならしょうがないな」と言われました。今後一ヶ月間、同様の会話を何度も何度も繰り返すことになるので、この会話のパターンを、「会話A」と記すことにします。

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モーテルの近くで撮った写真。明日もがんばろう、と思いました。

明日はいよいよモハベ砂漠です。今日はゆっくり眠りましょう。

06年10月04日(水)

ミニマートでバナナマフィンとコーヒーの朝食を取っていると、隣接するガソリンスタンドからトラック野郎がやってきて話しかけてきました。よう、ボーイ。お前はいったいどこへ行くつもりだ?ぼくはすこし微笑んで答えます。兄弟、その答えはな、風の中にあるさ。おれの行く場所は、風の中に舞っているんだよ。彼は肩をすくめて、ハブアグッドトリップと言い残して去っていきました。そんな夢を見て、朝五時に起床、シャワーを浴びて、自転車のチェックをして、まだ薄暗いうちにモーテルを出ました。ミニマートでバナナマフィンとコーヒーの朝食をとって、大量の水を購入。

本日は、barstowからneedlesへ向かいます。お店はおろか自動販売機もほとんどないモハベ砂漠が、300km近く続きます。どこまで進めるか分からないけど、とりあえず行けるところまで行きましょう。今日も暑くなりそうです。

昨日に続いて、ひたすらにルート66を進みます。ただひたすらにまっすぐに、まっすぐに。時間が早いせいか、道路が廃れているせいか、通る車はほとんどありません。

これだ。ぼくの求めていた自転車の旅は。まっすぐな道を、どこまでもまっすぐな道を、奥村くんのちんちん(驚異的な長さ)のようなまっすぐに続く道を、いつまで走りつづけるような自転車の旅。

一時間走りつづけても、景色はほとんど変わりません。信号もないし、人もいない。店もないし、音さえもほとんどしません。自転車のタイヤが道路を擦る音と、チェーンが回る音、風の音、そんな静かな音の中を、走る。走る。

二時間後。徐々に、太陽が姿を現してきました。道路の状態が良くなったり悪くなったりするので、タイヤがパンクしないように、気をつけて走ります。

途中、映画『バグダット・カフェ』の舞台になった町を通過しました。バグダット・カフェという名前のカフェが本当に存在するらしいのですが、見付けることができませんでした。まあいいや。まっすぐな道が続いているし。

三時間後。まっすぐな道最高!と叫びながら走り続けます。ときどき通り過ぎるバイクライダーたちは、ほぼ全員ぼくにイエーイと合図を送ってくれます。いいやつらだ。

道路に並走して続いている線路の上を、電車が通過します。進行方向がぼくと同じ時は、「競争だ!」と叫んで猛スピードでペダルを回しますが、勝てるはずがありません。時には負けると分かっている勝負に挑まなくてはならないなんて、男って本当に辛いよな。ところで、アメリカの電車ってすごくかっこいい!

昼前に、Ludlowという町に到着しました。なにもない場所かと思っていたのですが、ミニマートがあり、中では食糧やバーガーが売っていました。今日の分の食糧はすでに購入してあるのですが、念のために水やチョコレートを追加で購入。女性の店員さんに、モハベ砂漠内でキャンプできるような場所はありますか?と聞いたら、「まあ、人が近くに住んでいない場所ならどこでも大丈夫じゃない?さそりとかガラガラ蛇とかコヨーテとかいるから、死ぬかもしれないけど」と言われました。チャリでどこまで行くつもりなのか聞かれたので、目的のコースを教えると、「まじなの?あなたきちがいでしょう」と言われました。(以後、会話A)。

四時間後。あいかわらずまっすぐに道が続きます。いくら走っても全然飽きません。刺激がないことに、とても強い刺激に感じます。少し疲れてきたけど、まだまだ走れます。

五時間後。

六時間後。
飽きた。

七時間後。
なんかむかついてきた。

八時間後。
刺激を、もっと刺激をくれ!爆発とか!なんでもいいから!

太陽の光がとても強くなってきました。いくら水を飲んでも、すぐに喉がからからになります。水は、4リットル近く持ってきたけど、足りないかもしれません。

木陰で一休み。今日はどこまで行こうかしら。

へっとへとになってくったくたになって、最高に疲れている時に、後ろのタイヤがパンクしました。見ると、暑さのせいでタイヤがへろへろになっています。替えのタイヤは持ってきていません。うひゃー、これ大丈夫かな。needlesまで到着できればなんとかなるんだけど、needlesまであと200kmぐらいあるよなー。とりあえず太陽の光を浴びながらチューブのパンクを直して、空気を入れて、再出発します。タイヤがバーストしなければ良いけれど。

モーテル発見!と思ったら、つぶれていました。残念。すぐそばに郵便局(砂漠の郵便局ってなんか素敵)があって、その隣に自動販売機がありました。ペプシコーラを一気飲み!コーラがこんなにおいしいなんて!

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完全に無人のモーテル。不法侵入すれば、一泊ぐらいできそうでしたが、大人なのでそういうことはしませんでした。

さすがに疲れてきたので、この辺でキャンプを張ろうかしらと思っていたら、不思議なものを見つけました。木に、たくさんの靴が吊るされています。なんだこれ。干しているようには見えません。木の下に、大量の靴が落ちているし!ひえーこえー!この辺でキャンプをしたら、呪われそうなので、もう少し先まで進みましょう。

そろそろ本当に疲れてきたので、この辺でキャンプを張ろうかしらと思っていたら、再び不思議なものを発見。石で、字が記されています。なんだこれ。しかも、ずーっと先まで続いている。うーん。神さまでも呼んでいるのかしら。なにかの儀式とかだったら申しわけないので、キャンプをするのはもう少し先にしましょう。

暑い。確実に気温は35度を越えています。40度近いような気がする。10月でこの気温ですから、夏なんかは一体どんなことになっているのだろう。

レストラン発見!と思っていたら、またまたつぶれていました。さっきのモーテルも、このレストランも、フリーウェイができる以前の、ルート66がまだ健在だった頃のものなのかな。

やばい。目がくらくらしてきた。

本日はここまで。道路から少し離れた、人目のつかない場所にテントを張ることにします。ローインパクトを心がけて、今回の旅行初のキャンピングです。大地にキスをして、ペグを打ち込みます。

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この後、もっと日陰にテントを移動しました。それでも暑くてなかなか眠ることができませんでした。

夕方の六時を過ぎても、気温が下がる気配は一向にありません。水がどんどん減っていきます。この水は、明日の分も含まれているので、すこし節約しなくちゃ。

明日は少し早起きをして、すずしいうちに砂漠を抜けてしまいましょう。そういうわけで、熱帯夜の中、おやすみなさい。

06年10月05日(木)

ちょいとぼーっとしていたら、何時の間にか2007年になってしまいました。明けましておめでとうございます。今年もよろしくおねがいします。
今年の目標は、正しく生きることです。
さて、日記の続きに戻ります。

あまりの暑さに夜中の三時に起床。どんな場所でも、どんな状況下でも、熟睡できるということがぼくの特技だったのですが、暑さと不安でほとんど眠ることができませんでした。こりゃ、このままテントの中にいても、朝まで眠れそうにないな。水も残りが少ないことだし、夜中のうちに行けるところまで行ってしまおう。と思いたち、出発することにしました。

ヘッドライトをつけて、テントの外にでます。空に星や月の光はまったくなく、ライトの光が飲み込まれてしまいそうな暗闇です。テントの周りを照らしてみると、おや、砂の一部が丸く濡れているぞ。うーん、雨でも降ったのかしら。どうみても、動物のおしっこの跡なのですが、この部分だけピンポイントレインが降ったのだと、自分に嘘をつきました。っていうか、恐いので、さっさとテントをたたみましょう。

せっせとテントをたたんでいたら、なぜか砂漠で死体を埋めているマフィアの気分になってきました。ふふふ。ボスの言いつけに背いたお前が馬鹿なのさ、とつぶやいたり。砂漠には、無数の死体が埋まっているんだぜ。

さて、出発です。ここから、約30kmほど進むと、Fennerという小さな町に到着します。そこまでの辛抱すれば、水も食糧も手に入ります。頭のヘッドライトと、自転車のライトの光のみを頼みにして、自転車を走らせます。
時おり、はるかかなたに、対向車線側を走る車のランプの光が見えます。道路は、数キロ先まで延びているので、光はなかなか近付いてきません。光が見えてから、実際に通り過ぎるまでが、とてもとても長く感じます。暗闇のせいでしょうか、とてもとても長く感じます。

こんなに完全な暗闇の中にいると、考えずにはいられません。ぼくは、宇宙の、どこにいるのだろう。

しばらく進むと、灯りと共に小さな町が現れました。時計を見ると、五時前です。自動販売機でもないかな、と思って少し探してみたのですが、見当たりません。工場らしき場所に、数人の人影が見えたのですが、さすがに恐かったので話かけませんでした。砂漠には、無数の死体が埋まっているのですから。

ようやく、朝焼けが見えてきました。あー、なんかいい感じ。喉がからからで死にそうだけど、いい感じだから許してあげよう。

虹だ!遠くの方に虹が見える!っていうかいつ雨が降ったのさ!?やっぱりあのピンポイントは雨だったのか?

六時過ぎ、Fenner到着。喉の渇きが限界を越えています。お店を見つけて、急いで一番でかいサイズのコーラを購入。フランクフルトも購入。んもー、こんなにうまいコーラを飲んだのは、生まれて初めてだよ。うめー。

ここからは、しばらくの間フリーウェイを走ります。なんとなく、空模様が怪しい感じ。

アメリカは、送電線までも馬鹿でかい。いや、実際には日本と変わらないのだろうけれど、空が広いせいか、やたらと馬鹿でかく感じます。迫力満点。

東に向かうにつれ、少しずつ天気も回復してきました。今日は、アリゾナへの入口、Needlesに宿泊する予定です。あともう少し!

すっげーなげー登り坂が続いたと思ったら、今度はすっげー長い下り坂が続きます。なんだか、アメリカに来てから、のぼっておりてのぼっておりてを繰り返しているような気がする。そしてこれからも、のぼっておりてのぼっておりてを繰り返すような気がします。

あー、やっと町が見えてきた!愛しのマクドナルドまであと7マイル、11kmちょいだ!っていうか、まだ午前中だ!気温上がりまくりだ!

そんなこんなそんなでようやくNeedlesに到着。午前11時。まだモーテルにチェックインするには早すぎるので、少し町をぶらぶらしましょう。

Needlesは、とても静かで小さな町です。特になにか名所のような場所があるわけではないのですが、雰囲気がとても良い。人通りも、走る車の数もそれほど多くない。どうしてこんなに気持ちが落ち着くのだろうと思っていたら、路上にゴミがほとんど落ちていないことに気づきました。素敵だ。

午後二時すぎにモーテルにチェックインして、少し離れた場所にあるお店でリップや日焼止めなど、旅の前に揃えるべきだったものをようやく購入しました。もはや手遅れかもしれませんが、明日からはちゃんと肌のお手入れをしていきたいと思います。

どうにも日記の更新が遅くて申し訳ありません。今後とも、よろしくおねがいします。

06年10月06日(金)

昨晩は18時に就寝して、本日は朝の4時に起床。準備をして、日の出と共にモーテルを出て、近くのストアでお水と食糧を買い込みます。

昨日にひきつづき、行く先に虹が。虹だ。虹です。うーん、とても良い一日になりそうだ。

本日は、Kingmanまでの約100kmの道を走る予定です。さて、はりきっていきましょう。

ルート66を少しそれて、少しだけ近道をします。平らな田舎道を、まっすぐまっすぐ。

本日走る予定の道は、なんでも相当にscenicらしく、地図の上に「この道まじすげえからマーク」がついています。楽しみだ。

うーん、風景が少しずつ男らしくなっていくなあ。砂漠とはまた違った、ごつごつとした感じがなかなかよいね。

あいかわらず、車はほとんど通りません。信号機も、もちろんありません。ストアももちろん見当たらないし、自動販売機なんて影も形もありません。そりゃそうだ。電線がないのですから。

そしてルート66と再開。お久しぶりです、お手やわらかにと挨拶をして、再び厳しい彼との旅が始まります。東風が、雲をどんどん西へ追いやっていきます。

まるで西部映画のような風景をしばらく進むと、小さな町があらわれました。おやおや、「books」の看板が出ています。ちょいと中に入りたかったのですが、人影がまったくありません。車はあるんですけどね。なんとなく、「テキサス・チェーンソー」を思い出して、恐くなったのでさっさと退散しました。

坂道をひーこらとのぼると、今度は少し大きめのoatmanという町に到着しました。あちらこちらにロバがたむろっています。途中の道がうんこだらけだったのは、こいつらの落し物だったのね。

この町は、100年以上前のゴールデンラッシュ時に作られ、一時期は数千人の人々が生活をしていたこともあるそうです。現在は、観光客のためのドライブインのような場所になっています。ここにたどり着くまでに、車なんてほとんどすれ違わなかったのに、なぜか観光客でそれなりに賑わっています。不思議だ。この人たちは、どこから湧いてきたのだろう。

ううっ。坂道が厳しくなってきました。太陽も本格的に顔を出し始めました。地図をみると、本日の峠の頂点は、3523ft。現時点で高度が800mちょいだから、まだあと300m以上はのぼらなくてはならない。ひえー。

のぼるにつれて、景色がどんどん素晴らしくなっていきます。坂道を、荷物を積んだ自転車でゆっくりゆっくりとのぼっているので、風景をじっくりと眺めることができます。これぞ自転車旅行の醍醐味だね。

おー、壮大!

んー、雄大!

あのね、申し訳ないけど書くことないのよ。ただ走っていただけなので、別になにもイベントもなかったし。とにかくもう、暑くて、辛くて、なのに景色がすごすぎて、疲れていいのか感動していいのか、分からないままにただペダルを踏み込みます。ふみふみと。

やーっと下り坂だー!!!いやっほうー!時速50kmでふっとばします。

と思ったら、またすぐに上り坂です。アメリカ名物「やっと下りで楽ができると思ったら、すぐにもっとすごい上り坂が現れるよ攻撃」です。この攻撃に、このあともずーっとずーっと悩まされることになるのですが、この時のぼくは、知る由もありませんでした。

やっと登頂しました、Sitgreaves Pass!ここが本当の頂上だー!今日一日で1000m近く上ったぞ!足ががくがくだぞ!!疲れすぎて背中が変な形になっているぞ!吐き気も!寝たらもう二度と目を覚まさないような気がする!明日死ぬかも!

あー、しかし、苦労して上った甲斐がありました。素晴らしい景色です。車で来ていた夫婦連れのおじさんが、「ユーアーユーパーボーイ」と言ってくれました。ボーイじゃないんですけどね、結構なおっさんなんですけどね。

さて、ここからようやく本当の下り坂が始まります。もう1mも上ってやるものか。下るぞ!時速50km!

下って下って下ります。おくむらくんのちんちんのように長い坂道を、下って下って下って下って下って。やーーっふーー!

すげー、何キロ下ってきたのだろう。死ぬほど下って、さすがにブレーキを握る両手が痛くなってきたころに、ようやく道路が平坦になってきました。まーたまっすぐな道だ。目指すKingmanまでは、ここからまだ10km以上あります。

とにかく体がへっとへとです。早くバーガーにかぶりつきたい。っていうか、今日の日記長くないですか。

Kingmanなんて町はこの世界に存在しないのではないかしら。などと思い始めて。

どういう育ち方をしたらこんな風景になるのかしら。親の顔がみてみたいわ。そんなことを考えながら。

ようやく、Kingmanに到着です。こんなところに隠れていやがったのか。会いたかったぜ。

Kingmanは、なーんにも見どころがない、ふつーの町です。モーテルにチェックインして、アメリカにきて初めての洗濯をして、マクドナルドでバーガーを食って(アメリカのマクドナルドって、なぜか店員さんがアレな感じの人の多かったのだけど、どうしてかしら)、明日の道程を地図で確認して、さっさと眠りました。

06年10月07日(土)

本日も朝五時に起床して、ストレッチをして、自転車の点検をして、ストアで水と食糧を買い込んで、雄叫び(「今日もがんばるぞー!!」)をあげて出発です。さすがに六日目になると、アメリカの空気にもなれてきました。体調もなかなかよい感じ。ちなみにこの旅行では、アミノバイタルプロを大量に持参して、毎日かかさずに飲んでいます。おかげさまで、夜はぐっすり眠れるし、朝はぱっちりと目を覚ますことができます。健康はばっちり!だから、膝がみしみしと音を立てて痛むのはたぶん気のせいでしょう。

本日は、ルート66を北西に進み、Hackberry、Valentine、Truxton、PeachSpringsをすぎて、ロックンロールの町Seligmanまで走る予定です。約140km、若干長めのルートになるので、気合いを入れていきましょう。

アメリカの風景は、どこまでも続きます。

クロッシングレイルロード。とはいうものの、交差する先にみえるのはなーんにもない土と草の大地のみ。この線路を渡る人は、いったいどこへ行くのでしょうね。

九時前に、Hackberryの近くに到着。道路から少し離れた先に、Hackberryの集落がみえます。

ストアを発見。水も食糧も十分にあるので、通り過ぎました。しかし、今こうして改めて写真をみると、なんだか素敵だ。寄っておけばよかったかな?と少し後悔。

Valentineに到着。途中、パッツンパッツンのウェアを着てカーボンのロードバイクに乗っている自転車乗りが、すごいスピードで僕を抜かして行きました。アメリカに来て、まともに自転車に乗っている人に初めて会った!たぶん、Kingmanかどこか、この周辺に住んでいる人なのだろうけど、週末にこの辺を自転車で走ることがきるなんて、羨ましいな。

途中で廃墟を見つけたので、ちょいと立ち寄ってみました。なんなんだろう、これ。なーんにもないところにぽつんと一軒。自宅という感じではないので、公民館かなにかだったのかな。

またまた、何にもないすてきな道路が続きますよ。誰にも邪魔されずに、音楽を大音量で聞きながら、ひゃっほーう!!

道路の脇に、牛や馬たちを囲っている柵があり、カウボーイをちらりほらりと見かけます。カウボーイにカメラを向けるのは失礼かと思ったので、写真を撮るのは控えましたが、きゃつら、マジでカウボーイハットをかぶってましたぜ。

さて、ここで驚くべきことが起こりました。ロサンゼルスを出発して丸六日、自転車乗りといえば、先ほどあったぱっつんぽっつんさんだけだったのに、本日さらに二人の自転車乗りに遭遇したのです。しかも二人とも自転車旅行者!

一人目は、韓国からやってきたキュー君。まだ大学生なのですが、休学をして自転車で世界一周をしているそうです。すげーなー。話を聞いてみると、宿もほとんど野宿で、テントを張っているとのこと。インドへ行って中国を横断して、今はアメリカを横断中。うーん、老いたぼくにはちょっと真似ができませんね。

もうひとりは、ニューヨークからオレゴンまで、自転車で大陸横断をしているおじいさん。まじでおじいさん。こちらも野宿ばりばりで旅行を続けているそうです。おじいちゃーん、静かな老後はどこへいったのさ。毎日モーテルに泊まっているぼくの立場がないじゃない。

ちなみに、最初に出会ったのはキュー君で、目的地が同じだったので、そこまで一緒に走ろうということになり、その途中でおじいちゃんに出会いました。普段の旅行では、あまり友だちを作ったり人に話しかけたりはしないぼくではありますが、さすがに今回の旅行は不安が大きいことと、同じ自転車旅行者という仲間意識から、「もしよかったら一緒に走ろうぜ!」なんてことを提案してしまったりで、お恥ずかしいかぎり。

おじいちゃんとお別れして、キュー君とSeligmanへ向かいます。キューくんの自転車はマウンテンバイクなので、耐久性は高いけどスピードはそれほど出ません。まあ、ゆっくり走るのもたまにはいいか。暗闇も、二人だったら恐くないし。もう夕方だけど、目的地まではあと50kmぐらいだね。でも二人だったらなんにも恐くないさ!

道路の両脇に続く田んぼの向こう側で、ネイティブアメリカンの子供たちが遊んでいます。手を振ると、おもいっきり無視されました。長閑でとてもよい風景です。今日はなんだか、ゆっくりでとても良いなあ。

そんなわけで、夜も遅くにSeligmanに到着。ルート66の町Seligmanです。うわ、ダンスパーティーやってるぞ。CCRを大音量で流してみんなで踊っている!なんだこの町は!

へっとへとの体でどうにかモーテルを見つけてチェックインし(なぜか今日はどこま満室でした)、キュー君と街中のステーキハウスにステーキを食べにいきました。ロンリープラネットに、「Seligman来たらここ行かねえやつは奥村くんのちんちんだぜ」と書いてあったステーキハウスです。せっかくお友だちができたのですから、今日はパンにスパムはさんでケチャップかけたような食事ではなく、良いものを食べたいですからね。

ステーキハウスに入ると、カウボーイハットをかぶった恐そうな人たちがたくさん座っていて、ぼくたちをじろっ!とにらみつけました。わお!こえー!アメリカに来て初めて差別されるかも!と思ったのも束の間、みなさん僕たちの存在なんかすぐに忘れて、仲間たちと談笑を再開しました。ぼくたちも負け時と談笑して、分厚いステーキを食べて、今後のお互いの検討をたたえあって、お別れしました。またどこかで会えるとよいね。

自転車仲間との出会いが嬉しくて気づかなかったけど、今にして思うと、Seligmanってとても面白い町でした。ウエスタンな男の世界って感じ。

06年10月08日(日)

昨日の日記に書くのを忘れていましたが、Seligmanは町もモーテルもハロウィンモード全開でした。他の町はまだここまで盛り上がっていないのですが、どうしてこの町だけ?

朝6時に起きて、さて出発です。キューくんはまだ寝ている模様なので、心の中でさようならを言ってモーテルを後にしました。いやー、それにしても天気が良いね。ぼくは生まれついての晴れ男なわけですが、今回の旅行でも本当に天気に恵まれている。これまでのところは。

本日は、Williamsまでの約70kmの道のりです。相変わらずのぼり坂は続きますが、いつもよりも距離が短いので余裕なものです。

送電線をつなぐ木柱が、まるで十字架のように道路の側に連なっています。道路と一緒に、どこまでもどこまでも。

それにしても、日記上ではアメリカに到着してからまだ一週間経っていないというのに、現実の世界では、この日記を書き始めてからもうすぐ半年が経とうとしているじゃない。七日分の日記を書くのに半年かかったということは、残りの日記を書き終えるのは2009年になってしまいますね。それは困る。すこしペースをあげて行きましょう。

しかしアメリカという国は、本当にでかいよなー。なにもかもがでかい。奥村くんのちんちんぐらいでかい。ちょっと気を抜くとすぐに地平線が現れるし、すぐに一人きりになってしまう。あっ。今自分で書いていて、あの感覚を思い出して泣きそうになった。あの時の感覚。むかつくぐらいに地平線なんですよ。

空も広いし、雲もでかい。ただでさえ小さいぼくは、アメリカにいると完全に***です。アメリカに来て驚いたのが、事前の予想に反して人々がとても親切でやさしかったということなのですが、小さな***が黄色い服来て変な自転車でひーこらいいながら阿呆みたいな坂をのぼっているんですからね、さすがに親切にならざるを得ないのでしょうね。

特にトラブルもなく、Williamに到着。Williamsの標高は6762フィート。本日は400mほどのぼってきたことになります。っていうか、ここ標高2000メートル越えているのね。心なしか、少し気温が下がったような気がします。

最初に目についたモーテルにチェックインすると、なんとインターネットカフェがあるではないですか。カフェと言っても、普通の部屋にパソコンがどーんと置いてあるだけですけど。一週間ぶりのパソコンに心を踊らせながらメールのチェック等を行いました。

シャワーを浴びた後に部屋の鏡で自分の体を見ると、たった一週間でカメダコウキみたいな肉体になってしまってました。顔も腕も日焼けでぼろぼろ。こりゃ男性フェルモン出まくりだな。まいったね。

さすがに一週間も坂道をのぼり続けると、ひざが少々痛み始めました。まだまだ先は長いので、気を付けて行きましょう。

さて。明日はとうとう最初の目的地、グランドキャニオンに到着です。ロスを発って一週間、ようやく観光地らしい観光地に到着だー。

06年10月09日(月)

5:30起床。モーテルを出ようとしたところ、自転車の後ろのタイヤがパンクしている。ここ数日、何度もパンクしているので、チューブを交換しようとしたところ、交換用のチューブにもでかい穴があいていた。チューブと一緒にいれておいたスパナで傷がついてしまったみたい。うーん、困った。新しいチューブを買うまでは、とりあえずこの穴をふさいで自分の心をごまかしておこう。

さて、本日はとうとうグランドキャニオンです。旅行を初めてから一週間を共にすごしたルート66とも、ここでお別れです。これからは別々の道を進むことになるけれど、元気でがんばってね。とルート66くんとお別れをして、本日はすげー谷を目指して64号線を北上します。予想走行距離は110km。頑張っていきましょう。

本日も快晴快晴。喜ばしいことです。この道路がグランドキャニオンに続いているのかと思うと、自然とペダルを回す足も軽やかになります。iPodで落語を聞きながら、急ぐことなく走りつづけます。

途中、ばかでかい送電線の真下を通り過ぎました。きらきらと輝く送電線の真下を通ると、ばりばりびりびりぶりぶりと、大きな音が聞こえてきます。電気が流れる音なのかしら。恐いので、さっさと通り過ぎました。

グランドキャニオンに近づくにつれ、気温が少しずつ下がっていきます。汗をあまりかかないので、水を飲む量も減っています。できるだけ雲の影に隠れないように、先に広がる日なたを目指して走っているのですが、空に広がる雲の速度と進行方向がぼくと同じために、いつまでたっても雲の影から出ることができません。うー寒い。この間までは、すこしでも雲の影に隠れるように走っていたというのに。

途中で見つけたファミリーキャンプ場。場合によってはここで一泊していこうかとも思っていましたが、体力に余裕があるので通り過ぎました。ちょっと楽しそうな場所ではあったのですが。

64号線を走りながら、何度も動物が死んでいるのを目にしました。ほとんどが、車に轢かれた動物の死体です。この道路を走る車は、相当スピードを出しているので、轢いた本人は気付いてすらいないかもしれないですね。道路全体に死臭がただよっていて、ゆるやかに自転車で走っている身には、この匂いは、ちょっとつらい。

首を切られた動物の死体が道路脇に横たわっていました。どう考えても人間の仕業としか思えません。どう考えても、必要に迫られて殺したようには見えません。ひどいことをする人がいるものだ。本当に、ひどいことをする人間が存在するものだ。

しかし、死んでいる動物ばかりではありません。生きている動物もちらほらと姿を現し始めました。かわいいぞ。

うひー!グランドキャニオン国立公園の入口に到着です。遠かったなー!

入場券を購入するために、ゲート前で車と一緒に並ばなくてはなりません。マナーを守って、車が一列に並んでいる後ろに自転車で並びました。若干、他の車からの視線が痛いです。他の車を見ると、恋人同士か家族連ればかり。ひとりで来ている人も、自転車で来ている人もぜーんぜんいません。えへ。

自分の番まであと少しというところで、とつぜん雨が降ってきました。しかも、とんでもない土砂降りです。あっというまにびしょぬれです。若干、他の車からの視線が気にはなりますが、ここまでくるとやけくそになれるもので、この雨を楽しんでいるふりをしました。

雨でびしょびしょになりがら、どうにかチケットを購入します。チケット販売の受付をしていたレンジャーのおばさんは、びしょびしょで、自転車で、小さくて、黄色の服を着て、英語もろくにしゃべれないぼくにびっくりして、「なんでそんなことをするの」と聞いてきました。

入園すると、雨がパタっとやみました。ここからキャンプ場まで、あと5マイルぐらいあります。今日はもうくったくたですよ。さっさと眠りたい。

キャンプ場へ向かう途中、道路の右側の駐車場の先に、信じられないような光景が突然広がりました。なんだあれは。あれがグランドキャニオン??。すげー!!

ようやくMather CampGroundに到着。テントを張っていたら、もう夕方近くになってしまいました。グランドキャニオン探索は明日の楽しみに取っておいて、今日の夕食と、明日の食糧を買いにマーケットプレイスへ。マーケットプレイスは、郊外の大型スーパーマーケット並になんでも揃っていてびっくりです。カップラーメンと、肉と、コーヒーと、スナックと、そんなものを買い揃えました。

テントに戻ると、すっかり夜です。気温は10度以下まで下がり、さすがに短パンではつらくなってきました。どこかで防寒具を買わないといけないかもしれません。

テントの中で寝袋にくるまり、コーヒーを飲みながら本を読んでいると、突然なんともいえない幸福感がわきあがってきました。とりあえずここまで来たという安心感と、達成感。まだまだ先は長いですが、とりあえず今は幸せだ。

ようやく、第一の目的地であるグランドキャニオンに到着です。ここで数日を過ごす予定です。とっても静かで寒い夜を、寝袋の中で楽しみます。

おやすみなさい。

06年10月10日(火)

ゆく河と時の流れは無情なものでして、ちょっと日記をさぼると過ぎにひと月ふた月が過ぎてしまうものです。っていうか、旅行に行ってからもう一年以上が過ぎてしまいました。いやはや、本当に、人生というやつはちょっと油断をするとすぐに逃げて行ってしまうので、追いついていくだけで精一杯です。

この日記は、日付が10月10日になっておりますが、2006年の10月10日の日記でございます。2008年に2006年の日記っていかがなものさとも思うのですが、どうしてもこの日記だけは書いておきたいのですよ。さて、何事もなかったかのように日記を続けましょう。

前回までのあらすじ。アメリカで自転車に乗って砂漠を走っていたらカメダコウキみたいな体になってしまったのですが、それでも走り続けたらグランドキャニオンに到着しました。

さて、日記を続けます。朝、日の出を見ようと思っていたのに、目を覚ましたらすでに八時過ぎでした。テントの中の寒さが心配でしたが、温かい寝袋の中でぐっすりと眠り、疲れもすっかりとれた模様です。

本日は、グランドキャニオンをトレッキングしましょう。本当は、一日ぐらい休めばよいのですけどね、なにせ貧乏性なもので、もうしわけないです。

本日向かう先は、ブライト・エンジェルというトレイルです。とりあえずインディアンガーデンまで降りて、時間的に余裕があったらその先のプラトーポイントまで行ってみましょう。
コーヒーを淹れて、サンドイッチとバナナで朝食を済ませ、テントを出ます。

上の写真の下の方に道が続いているでしょう。あれが本日向かうトレイルです。あの道の先に、目指すプラトーポイントがあります。

空に雲は広がっているものの、気温は20度を越えています。トレイルをするには少し暑いかな。水も、一リットルしか持ってきていないので、やばそうになったらすぐに引き返すぐらいの気持ちで、ゆっくり歩きます。

なんだか、景色が広すぎて本当にめまいがします。とにかくも視界が広いのよね。日本の北アルプスなんかも、空の景色の広がりはすごいけれど、アメリカの景色の広がり方はもっと野蛮な感じにすごい。

小動物なんかを結構見かけるのですが、みなさん人慣れしすぎていて、ぜんぜん逃げていきません。エサをあげる人がたくさんいるからなのですが、よくありませんね。

本日のトレイルの標高差は、大体600mぐらい。ならされた道があるので、歩くのは苦痛ではないのですが、道がミュールのうんこだらけなのが苦痛です。

1.5マイルのポイント、3マイルのポイントと通過して、13時過ぎにインディアン・ガーデンに到着。ここまで約二時間。帰りは、登りになるので来たときの二倍の時間がかかるとして、ここで引き返したとしても、上に着くのは夕方になってしまう。
うーん、せっかくここまで来たのだから、プラトーポイントまで行きたいなあ。

インディアン/ガーデンに、うんこの犯人がいました。お金を払うと、こいつらが上まで載せて行ってくれるそうです。うんこしながら。

とりあえず、あと一時間だけ行けるところまで行ってみましょう。ここから先は、ずっと平地だから、体力はあまり消耗しないはず。たぶん。

インディアン・ガーデンを過ぎると、一気に人影がなくなりました。
あー、やっぱりまわりに人がいないのは楽しいなー。聞こえてくるのは、風の音と、ぼくの歩く音だけ。
やっぱりぼくはひとりが好きなようです。

と、ひとりを楽しむのもつかの間、ふと気がつくと時刻はすでに14時近く。懐中電灯もなにも持ってきていないので、夕方前にはテントに戻りたいので、途中で引き返すことにしました。
プラトーポイントまではたどり着けなかったことは残念だけど、まあよしとしましょう。
本当に、あと少しで到着すると思うんですけどね。ゴルゴ13も言っています、俺が生き残っているのは、臆病だからだ。勇気を持って帰りましょう。

そんな感じで、帰りもがしがしと登って、夕方前にテントまで戻りました。
アメリカに来て、始めて観光らしいことをしましたよ。

それにしても、アジアの国に旅行に行くと、観光地には外国人しかいないけれど、アメリカの観光地にはアメリカ人ばっかりですね。しかも白人ばっかり。トレッキングをしている日本人なんてひとりもいませんでした。たまたまかもしれませんが。

夜。
テントの前で火を焚いて、火を眺めて山川草木悉皆大好なんてことを考えてぼーっとしていたら、三時間ぐらい経過していました。すっかり寒くなっていたので、ミルクを温めて飲んで、こんな日々があと十年続けばよいのになんてことを思いながら、友達に手紙を書いたり。

06年10月11日(水)

夜中。
テントの外から聞こえてくる荒い鼻息で目を覚ましました。あら、獣かしら。しかし眠気には勝てず、そのまま無視して再び寝りにつきました。

朝方、眠い目をこすりながら起床。テントサイトから少し離れたマーサポイントまで、日の出を見にいきました。激寒です。とても綺麗で感動したのですが、寒すぎます。しかもカメラを忘れた。

その後、テントに戻り、コーヒーを入れて一段落。とにかく寒い。体感的には、5度以下に感じます。パンとハムの朝食をとって、ほっとしていたら、少しずつテントの中が暖かくなってきて、とても幸せな気持ち。

さて、そんなこんなでぐだぐだしていたら、あっという間に七時を過ぎてしまいました。太陽もすっかり上がって、今日も良い天気になりそうです。

最近、どうもタイやがパンクしがちなので、チューブを交換しました。
ぼくはアメリカの道路をかなり甘く見ていたらしく、替えのタイヤを持ってきていません。チューブの替えはいくつか持ってきているのですが、連日のパンクで残りひとつになってしまいました。
ロスからここまで、ぼくが走ってきたところには、自転車屋さんは一軒もありませんでした。これから先の道のりは、これまでよりもさらに荒野になっていく予定なので、自転車屋さんがある可能性はより少なくなります。
さて。どうしましょうね。

それでは出発です。
本日は、イーストリムの終点、グランドキャニオン国立公園の東端まで走ります。
距離にすると40km少々。二日ぶりの自転車にまたがります。

道路の左側の絶景に目を奪われながら、自転車を走らせます。グランドキャニオンの国立公園内であることに変わりはないのに、走っている車の数がやたらと少ない。脇見運転をしても、ぜーんぜんあぶなくありません。

途中、リパンポイントに立ち寄りました。うーん、わずか数十キロしか移動していないのに、心なし景色の感じが変わっているような気がします。

本日の宿泊先であるデザートビューに14時到着。無人テント使用料支払機に若干手間取りながらも、今日もとてもナイスな場所にテントを張ることができました。ありがとうございます。

グランドキャニオンも今日で最後です。近くにあるウォッチタワーから、雄大な景色を目に焼き付けておきましょう。

しっかし本当にすげーなー。慣れてきたとはいえ、この果てしない雄大な景色は、何度観ても心になにかを感じさせてくれます。

歴史の本によると、最初にこのグランドキャニオンを調査にきたアメリカの陸軍隊は、「何の価値も見いだせない不毛の荒れ地。ここにくるのは、我々が最初で最後になるだろう」と報告したといいます。
おそらく彼らは、今よりもずっと未開だったアメリカの土地を、数ヶ月の時間をかけて、本当の意味での「自然」を感じながら、ここにたどり着いたのでしょう。
自然を求めてここに来た現代のぼくたちとは、来た目的が根本的に異なるわけで、何らの物質的な価値も与えてくれない土地に魅力を感じなかったことは、当然だったと思います。
でも、現代の自然とかけ離れた世界に生きるぼくたちにとって、この大なる不毛の荒れ地は、不毛であるというだけで大きな価値があります。
勝手に自分たちで自然を破壊しておいて、今度は自分たちが破壊してきた自然を求めるなんて、人間って本当に不思議な生き物です。

そういうわけでグランドキャニオンとも本日でお別れです。たった3日間の短いおつきあいではありましたが、とても楽しかったです。涙が出るくらい楽しかった。
本当に色々なことを感じることができたわけですが、もしここまで自転車ではなくてバスとか車で来ていたとしたら、感じたことも違っていたような気がします。
自転車旅行は面倒だし疲れるし、不安だし、本当に利便性では最悪ではありますが、それもひっくりめて、こんなに楽しい旅行は他にはないと思います。(あるとしたら、徒歩旅行ぐらい)

夜。
テントの中で本を読んでいたら、おしっこがしたくなったので、テントを出てトイレに向かいました。
空を見上げると凄い星空が広がっています。キャンプ場では、馬鹿騒ぎするようなキャンパーはおらず、みんな火を囲んで静かに話をしています。おしっこをして、テントに戻り、コーヒーを淹れて、再び読書。幸せだ。

06年10月12日(木)

起床。今日もとっても天気が良い。
テントをたたんで自転車に乗って、出発。
本日の目的地は、約100km先にあるTubaCity。さて、ゴーウエストです。

64号線をひたすらに下ってしばらく進むと、風景が少しずつ変わってきました。

砂が少しずつ赤みを帯びてきて、砂山が続きます。視界もどんどん開けてきてきます。

さらに進むと、ネイティブアメリカンのおみやげやさんがちらほらと現れ始めました。
うーん、この辺でおみやげを買いたいところですが、今買ってしまうと荷物になります。旅行はまだまだ続きますから。

道路の脇に、誰もいないおみやげ屋さんらしき小屋が続きます。オープンって書いてあるけど、誰もいません。

なぜだろう。こういう、誰もいない掘っ立て小屋を見ると、わくわくしてくる。

なんかね、土地の感じが本当に変化してきました。うまく表現できないのですが、体が感じる空気の質が、変わってきた。少し乾いてきたような、そんな気がします。

なにもない広漠に、小屋がぽつりと。
まじやばい。心がどきどきする。
その先に見える岸壁も素敵だ。

89号線に合流。TubaCityまで、あと半分です。

なんという空の色してるんだ、アメリカ。雲。ひとつ。ない。おい、アメリカ。まじ澄んでるな、お前。

84号線に入ると、民家がちらほらと現れました。
突然、犬がすごいいきおいで舌をべろんべろんに出しながら、まるで親の敵に出会ったかのように、ぼくのことを追いかけてきました。
お前死ぬぞ!ってなぐらい大声でほえています。殺(や)られる!そう思ったぼくは、全速力で逃げました。まじ怖かった。
犬がマジになると、マジで怖いということを知りました。もしかしたら、生まれて初めて犬がマジになっているところをみたかもしれません。
そして、人間もマジになるとマジな力が出るということも知りました。疲れきっているはずなのに、自転車のスピードがびゅんびゅんでました。おれ、まだやれる。

犬は好きだけど、もし銃を持っていたら、間違いなくぶっぱなしていたでしょう。それぐらいの恐怖でした。

車とか転がっているし。

このりっぱな橋は、いったい何なのだろう。入り口がふさがれているので、通ることができません。

土地の感じがまた変わってきました。砂はすこしずつ白くなり、岸壁は砂丘に姿を変えました。標高をみると、1200m台まだ下がっています。今日一日で、1000m以上下ってきたことになります。

160号線に突入です。TubaCityまであとちょい。
と思っていたら、いきなり上り坂。しかも半端ない上り坂がやってきました。今日はもう上り坂はないだろうと安心していたので、余計につらいです。

ようやくTubaCityに到着です。
チェックインしたモーテルの受付の方は、ばりばりのネィティブアメリカンで、良い感じにでぶで、なかなか無愛想でした。

TubaCityは、小さくて、砂っぽくて、ネィティブ率がとても高いチャーミングな町です。
町を歩いていると、大音量でカントリー・ミュージックが流れています。
フリーマーケットもなんだかのほほほほんとした感じ。

そして、皆さん不機嫌で、無愛想です。

06年10月13日(金)

6時起床。あれ?ここはもうUTA時刻で考えた方がよいのかな。だとすると、7時起床。

本日は、モニュメントバレーのちょい手前、Kayaentaまで行く予定です。

またまた始まりました、まっすぐな道地獄。間違えました、地獄じゃない。ぼくはこれを楽しみにアメリカに来たのですから。まっすぐな道天国。

走れども走れどもまっすぐな道天国。いいかげん、うざい。いやいや、うそうそ、楽しいです。えへへ。

今日も雲一つない晴天です。すばらしい。つくづくぼくって晴れ男。

なーんにもない風景に、ところどころ自然のモニュメントが現れます。
一休みして、モニュメントを眺めながら、パンをぱくり。

Cow Springに到着。この町、ぼくの使っている地図に乗っていません。そして、奥に見えるのは

廃墟ですね。名前を残して、町自体はなくなってしまったのかしら。

道の端で、放牧されている馬たちが草を食べています。なんだかどんどんほのぼのーんっとしてきましたよ。

今日も、なーんにもない道をただただ楽しく走っていますよ。

禅とオートバイ修理技術』という本のなかで、パーシグさんは次のように書いています。

オートバイに乗って休暇を過ごすのは、ほかにはない一種独特の趣がある。車は、いわば小さな密室であり、いったん慣れ親しんでしまえば、自然の何たるかを知りえない。(中略)だがオートバイにはその枠がない。私たちは完全に自然と一体になる。もはや単なる傍観者ではなく、私たちは自然という大きな舞台のまんなかにいて、溢れんばかりの臨場感に包まれる。足下を唸るように流れてゆくコンクリートは、現実のものであり、足を踏みしめて歩く道路そのものである。ぼんやりとして焦点を定めることはできないが、それは確かにそこにあり、その気になればいつでもこの足を降ろして触れることができる。すべてのもの、すべての経験、これらは決してじかの意識から逸脱することはない。
ロバート M.パーシグ「禅とオートバイ修理技術」

パーシグさん、もしぼくがあなたの友だちだったら、教えてあげます。バイクもいいけど、自転車だったらさらに自然と一体になれますよ。だって、自分が足を動かすのを止めたら、前に進まないのですから。風の音も土の匂いも空の色も動物の声も、素通りすることなくすべてを感じることができますから。自分の運んでいる荷物の重さを感じながら、自分がこれから行く場所までの距離を感じながら、自分が登っている傾斜の角度を感じながら、ペダルを踏むことができるのですから。バイクでは見逃してしまう自然の隅々を、自分自身の隅々を、自転車だったら見逃すことはないのですよ。


14時過ぎに、Tsegiという町にモーテルがあるのを発見。Kayaentaは、ここからさらに16kmほど先になります。がんばれば行けないことはないけれど、この先まだまだ旅は続きます、無理をせずに今日はここで休みましょう。

昨日と同様、本日も受付のネイティブアメリカンのおばさんが、とーっても無愛想に対応してくれました。ネイティブな方々はみなさんこんな感じに無愛想なのかしら、とちょっと不安に。

チェックインをすませて、シャワーを浴びて、一休みしたあとに、モーテルに隣接するカフェで、食事をしました。おすすめは?と無愛想なネイティブアメリカンのおばさんに聞くと、ナバホの揚げパンがうまいんじゃねえのと無愛想に教えてくれたので、それを注文しました。

うん、確かにこりゃうまい。

カフェには、他にも何人かお客さんがいますが、ぼくの他は全員ネイティブアメリカンのようです。時刻は夕方前。みなさん、ビールを飲んだり、たばこを吸ったり、肉を食べたり。女性はみな、戌井さんのお父さんみたいな感じ。男性もみな、戌井さんのお父さんみたいな感じ。スピリチュアル的なことはなーんにもありませんけれど、神秘的なこともなーんにもありませんけれど、ぼくは神聖なネイティブアメリカンの聖地なんかよりも、こういう場所の方がずっと好きです。

モーテルの後ろの風景が、なんだか素敵だったので写真を撮ってみました。

 

それにしても、走れば走るほど、アメリカという土地と人が文化にどんどん惹かれていきます。まだまだこれからだけど、これから先が本当に楽しみ。本当に素敵な場所だな、いろんな意味で。

06年10月14日(土)

今回の旅行先としてアメリカの南西部を選んだのには、いくつか理由があります。ひとつは、そもそもアメリカが大好きだったから。
ひとつは、先にも書いたとおり、アメリカのナチュラリストのエッセイに取り憑かれて、アメリカの大自然に触れたくなったから。
ひとつは、ポール・オースターの『ムーンパレス』の世界を実際に体験してみたかったから。
そしてもうひとつは、この本。

Lonely Planet Southwest America。その表紙のこの写真。

この写真に一目惚れをして、このまっすぐな道を走りたいと思ったこと。この本が、決定打になりました。

もともとこの本を手にしたのは、旅行のためではなく別の理由(西部史を調べていたときに、ガイドブックとして使用)だったのですが、以前から人に邪魔されずに、とにかくひたすらに自転車で走りたいと考えていたぼくにとって、この写真はとんでもなく魅力的に映りました。裏表紙のクレジットをみると、「Cover photograohs by Lonely Planet Images: Monument Valley」という文字が。

Monument Valley。

モニュメントバレーと言えば,汗臭いカウボーイの印象しかありません。そこに行けば、この道に出会えるのか!この道を走ることができるのか。

そんなわけで、はるばるアメリカくんだりまで来たわけです。そして本日、とうとう夢にまで見たモニュメントバレーへと到着します。さすがに興奮してしていたのか、目覚ましの音よりも早く目を覚まして、さてさて今日も晴れ男、晴天の下を走りましょう。ぼくは晴れ男なので、雨が降るはずはありませんが、それでも特に今日だけは、絶対に雨が降ってはいけないのです。ようやくここまで来て、一番行きたかった場所に到着するというのに、雨が降るは図ありません。だってぼくは晴れ男

雨です。結構な雨です。

昨日までの晴天が嘘のように、空には一面の雲。

ぼくの人生ってね、いつもこんな感じなんですよ。今回の旅行も、あまりにも順調にいきすぎていたので、なんだか嫌な予感はしていたのですが、晴れなくても良い砂漠のど真ん中では灼熱の太陽が出ていたのに、一番楽しみにしていた場所に行くとなったとたん、この天気です。まあ、もうぼくの人生のこういう性格にも慣れてはきましたが、さすがに若干がっくりとしてしまいました。

とはいえ、いじけていても仕方がないので、カッパを着て出発します。幸いなことに、ここからモニュメントバレーまではそれほど距離はありません。ゆっくりと走りましょう。

地図によると、ここからkayentaに向かう途中に、Marsh Passという2000m級の峠があるみたいです。雨の中、峠を登るのはちょっと嫌だ。

気がつくとkayentaに到着。あらら。峠なんてなかったぞ。雨に気をとられて、気づかなかったのかしら。いえいえ、アメリカの坂はそんなに甘くありません。地図の間違いかしら。

163号線に入ると、少しずつ晴れてきました。うーん、やっぱりぼくは晴れ男なのかしら。

うっひょー、来た来た。モニュメントなバレーが現れてきましたよ。

またまた雲がガスってきました。

風景に、素敵な残丘が目につくようになってきました。

ガスと雨のせいでよくわかりませんが、とりあえずLonley Planetの表紙のようなまっすぐな道が続きます。しかし、この道に感動するには、あまりにも長い時間まっすぐな道を走りすぎました。つーかよ、アメリカに来てからまっすぐな道しか走ってねーからよ、感動しろっつても無理だっつーの。いきなりこの道だったらよ、そりゃ感動してすげーとか叫ぶかもしれないけど、もう何日まっすぐな道を走り続けていると、高校の通学路を走っているのと同じようなものよ。しかもよ、雨だし。ガスだし。タイヤはパンクするし。感動どころか怒りさえ覚える始末です。いえ、嘘です。感動して、涙か雨か分からないぐらいでした。というのも嘘です。

ところで、雨の日の自転車はどんな感じになっているかというと

こんな感じです。また数日テント生活になるので、寝袋は絶対にぬらしてはいけません。

さて、そんなこんなでモニュメントバレー到着です。雨のせいで、バレーのツアーが中止になったらしく、入園料も無料でした。ラッキー。

きたー!モニュメントバレー!!すげー!いやー、あまりにも有名なこの場所ですけど、やっぱり全身で感じると、すげー!!

しかも、運良く、一番良い場所にテントを張ることができました。この場所ね、テントをあけると目の前にモニュメントバレーが、どーんと現れます。朝も、昼も、夜も、テントをあけるとモニュメントバレーがどーん。どーん。

ビジターセンターでちょっと遅めの昼食をとります。ジョン・フォードバーガー。なにがジョン・フォードなのかよくわかりませんが、多分チーズのあたりがジョン・フォードなのでしょう。カロリーたっぷりでうまかったです。

テントに戻って本を読んでいると、突然雨が激しさを増して降ってきました。激しすぎてちょっと引きました。風も暴風に近くなり、雷まで鳴り出しました。

あれ、もしかして、ここがぼくの人生の執着地点?と本気で考えるほど、激しい雷雨。もしも、ここに到着する前にこの嵐にあっていたら、と考えるとぞっとします。テントが軋むし揺れるし。ま、まさか風でテントごと飛ばされないよね。

30分ほどして、ようやく雨が上がりました。ほっとして、おそるおそる、テントから出ると、

なんとまあ

夢のような風景が

広がっているではありませんか。

雨の中を自転車で走るのは、本当に大変で、何度もぶちきれて大声で「くおあー」叫んでしまったけれど、雨が降っていなければこの景色はなかったわけで、そっか、このためにぼくはあんなに苦労をしたのか。そんな風に考えたら、なんだかうれしくなりました。どこの偉大な力か知らないけど、おつな計らいしますね。

周りを見ると、他のキャンパーたちもこの美しい風景に見入っています。さっきまで嵐だったのに、今はこんなに穏やか顔を見せるなんて。自然って、すごい。これが噂の雨と鞭ってやつなのかしら。

虹ってこんなに綺麗だったんだと気づく、三十路の秋。

そして日も暮れて。
今日の夜は、本を読まないで、自然の音に静かに耳を傾けて、黙想することにしました。

10分で黙想に飽きたので、本を読んで、眠りにつきました。

06年10月15日(日)

朝、目を覚ましてテントから外を見ると、スモッグだらけで何も見えません。うーん、今日も天気が悪いのかしら。

寝袋から出ると、とても寒い。お湯を沸かして、ラーメンとスープを作って朝食。食後にコーヒーを淹れて、体を温めます。
さて。
もしも今日も天気が悪かったら、一日テントの中で過ごすことになってしまいます。それはちょっと嫌だ。どうしましょう。

とりあえずテントから出ると、とてもかわいい猫がごろにゃんと寄ってきました。わお。すげーかわいい。とても人なつこい猫で、なでても全然いやがりません。ここまで人を怖がらないということは、地元の人たちからも観光客からも大切にされているのでしょうね。マハトマ・ガンディーさん曰く、「国の偉大さや、道徳の高さはその国の動物の扱い方で判断できる」。ここは、アメリカではありますが、ナホバ独立共和国。ナホバの国の人たちは、人間には無愛想でも動物にはやさしいみたいです。

猫と遊んでいると、こんどは犬が寄ってきました。これまた全然人を怖がらず。

そして、猫と犬と遊んでいると、さらに一匹の犬が現れました。これまた全く人見知りもせず。三匹ともお互いを牽制するわけでもなく、なんだか素敵な共生関係。この子たちは野良なのかな?それとも、ビジターセンターのペットなのかな。

そんなこんなで猫と犬と犬と遊んでいたら、雲の隙間から青空が顔を出してきました。おっ。いい感じ。

ビジターセンターで確認したところ、今日は雲は多いけれど雨は降らないようです。そういうわけで、本日はモニュメントバレーをトレッキングできることになりました。よかったー!

さて。
本日のトレッキングコースは、ワイルドキャット・トレイルです。モニュメントバレーで個人で歩けるトレイルは、これしかありません。全長5kmのそれほど長くないトレイルです。

スタート地点。いい感じ。ぼくの他に、人影はまったくありません。

昨日あれだけ雨が降ったのに、土がそれほどぬかるんでいないのは、水の吸収力が強いのかな。歩くのに、全然不便じゃない。

一応iPodも持ってきたけど、必要なさそうです。音楽がなくても、自然の素敵な音々が常に耳にあふれていますから。

人の影がまったくない荒野を、一人楽しく歩いていると、前方から、

あれ?なにかくるぞ。

馬だ。

馬が、ゆっくりとぼくの方に向かって歩いてきます。ちらりとこちらを見て、なんのリアクションもなくそのまま通り過ぎていきます。野性ということはないでしょうから、放牧なのかしら。

荒野を歩いていて馬に出会うなんて、なんだかぼくまるで映画の主人公みたい。なんてことを考えながらも、こんな荒野で馬に蹴られて死んでしまってはたまりませんので、ちょっと離れてみました。

気温がちょうどよく、湿気もほとんどないので、歩いていてもまったく汗をかきません。

なんだかんだで晴れてきました。風が、気持ちいい。

本当に、つくづく荒野なんです。ぼくは今、トレイルのコースを歩いているからこんなにも楽しい気持ちになっているけど、もしこれが観光じゃなくて、さまよい歩いて行き着いた先がここだったりしたら、ちょっとした絶望よね。想像しただけで絶望よね。

歩いていると、ときどき野ねずみのような、野リスのような、小さな生き物がタタタタタと走っているのに気がつきました。

再び、馬に遭遇。今度はぼくの前方にいたので、ぼくの方が彼らの後を追う形になりました。馬の後を追って歩く。何となく、楽しい。

三時間近くかけて、ゆっくりと荒野を堪能。とんでもなく贅沢な時間でした。

夕方前に、少し離れた場所にあるストアまで買い出しに出かけました。昨日も走った道なのに、雨の時と晴れの時では、全然違う道を走っているようです。

っていうか、太陽が調子にのって顔を出してきて、暑いです。この国の太陽は、本当に空気を読まないというか、間が悪いというか、なんというか。

昨日に引き続き、もう一度テントの写真。いや、本当にすばらしい場所にテントをはっているでしょう。今でも、この写真を見る度に、ぼくの心の奥がキュンとなるわけですよ。

夕方。雲が消えて、夜の深淵が少しずつモニュメントバレーを包んでいきます。ぼくも一緒に包まれて。毎日がスペシャル。


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大根雄
栃木生まれ。
鉄割パソコン担当。
いたりいなかったりする。

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