03年08月22日(金)

 あっぢー日々が続きますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。こんな日には外に出ずに、アルカリイオン水でも飲みながら家で読書をするに限ります。ぼくは本日、「チェーホフの明晰なリアリズムを、フランツ・カフカの謎めいた表現主義に融合させている(By春樹)」といわれる、レイモンド・カーヴァーさんなどを読んで日を過ごしております。

 改めてこの方の作品を読む返すと、とにかく感心感動感銘一入、つくづく偉い方だなあと感心し、ひとつひとつの作品に新たな感動を発見し、書かれている風景に心の底より感銘し、読みに耽るまさしく至福の時間、中でも特に感涙したのが『Fires』というエッセイです。

 このエッセイは、カーヴァーさんが「影響」について書いたもので、村上春樹氏の翻訳で『ファイアズ(炎)』という全集の四巻に収録されておりますが、ぼくが読んだのは越川芳明氏の訳で、ユリイカの一九八七年十月号に掲載されていたものです。とにかく感動してしまい、すべてを読まないとこの良さは伝わらないと思いつつも、以下にそのほんの一部を引用します。

 一九六十年代の半ばに、わたしはアイオワ・シティの混み合ったコイン・ランドリーにいた。五つも六つもある衣類の山—ほとんどが子供たちのだが、わたしたち夫婦の衣類もいくらかあった—を洗濯しようとしていた。妻は、その土曜日の午後、大学のアスレチック・クラブでウェイトレスの仕事をしていた。わたしは家事をしたり、子供の世話をしていた。子供たちは、その日の午後、たぶん誕生日パーティーか何かで、どこか友達のところにいっていたのだろう。ちょうどそのとき、わたしは洗濯をしていた。わたしはすでに意地の悪そうな老婆と、わたしが使わねばならない洗濯機の数をめぐって、くち汚く口論したばかりだった。わたしはいま彼女と、あるいは彼女に似たほかの人とともに、次の番をまっている。いらいらしながら、満員のコイン・ランドリーで、稼働している乾燥機から目を離さずに。乾燥機の一つが止まったら、湿った衣類の入った買い物籠を持ったまま、そこまでダッシュしよう。わたしはこのランドリーで、籠いっぱいの衣類を持って、チャンスを待ちながら三十分かそこら、ただぶらぶらしていたというわけなのだ。すでに乾燥機二つを見逃してしまっていた—ほかの誰かにとられてしまったのである。わたしはやっきになっていた。承知のように、子どもたちがどこにいるのか、わたしにははっきり分からない。どこかに迎えに行かなければならないかもしれない。もう遅くなりかけている。こうしたことが、わたしの精神状態にいいはずがない。わたしには分かっていたが、喩え衣類を乾燥機のなかにいれることができたにしても、乾くまでに—それを籠に詰め込んで、学生夫婦用のアパートに帰るまでに—もう一時間以上はかかるだろう。ついに乾燥機の一つが止まった。止まったとき、わたしはその真ん中にいた。なかの衣類は回るのを止め、動かない。三十秒かそこらで、もし誰も取りに現れなければ、その洗濯物を取り出し、自分のを代わりに入れるつもりでいた。それが、コイン・ランドリーのしきたりなのだ。しかし、そのときひとりの女がやってきて、乾燥機の扉を開けた。わたしは立ったまま、待っていた。この女は片手を乾燥機のなかに突っ込み、いくつかの洗濯物に触ってみる。まだ十分に乾いていない、そう女は判断したらしい。扉を閉め、十セント硬貨をもう二枚投入したのだった。呆然としたまま、わたしは買物車とともにその場を離れ、ふたたび待つはめになった。しかし、いまでも覚えているが、そのように涙も出んばかりの、どうしようもない欲求不満を感じている最中に、わたしは思ったのである。自分に二人の子がいるという事実に比べれば、この世でわたしの身に降りかかることなど、何一つ—ほんとうに何一つ—深刻でも、重要でも、大切でもない、と。つねに子どもたちから逃れられないし、つねに免れるころのない責任と果てしない苦労につきまとわれるのだ、と。

 ふうう、とため息をひとつ。

 現在、ぼくが所有するカーヴァー氏の書籍は昔に中央公論社から出版された短編集が二冊、それと傑作選が一冊だけで、全集が出てはいるのですが、どうにも高価で手が届きません。図書館で借りても良いのですが、ぼくは図書館でフィクションを借りるのがとても嫌いなので、出来れば自分で購入をしたいのですが、さっさと安価な文庫判が出ないかしら。


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大根雄
栃木生まれ。
鉄割パソコン担当。
いたりいなかったりする。

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