02年04月05日(金)
久しぶりに吉田健一の「東京の昔」を読み返したのですが、やはり素晴らしいので、ちょっとだけ以下に引用させて頂きます。

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そういうどうでもいいような話をしながら飲んでいるのはおしま婆さんと湯豆腐を突いているのくらいの位楽しかった。そこの店の熱燗というのは酒が通っていく喉が焼けそうな本当の熱燗でまたそうしなければ飲めないほどの辛口でもあったから酔うよりも先にその熱いのと酒が強烈なので却って暫くのうちは改めて目が覚める思いをする按配だった。そしてその店は前に一度来たときも気が付いたことだったが新たに一本持ってきても前の空になった銚子を下げずにいて勘さんの前にも二本そのいかついのが並んでいた。
「こうしておくと何本飲んだか分かるからなんですよ」と勘さんがその町の先輩らしく説明した。
「併し気をつけないとね、この酒は酔います。」
「それで尚更何本飲んだか知っておく必要があるわけですか。」そう言えば前に来たときも初めの感じに似ずかなり酔ってその店から帰ったことを思いだした。これに対抗するには食べるのに限るのでおでんの方は袋にがんもに爆弾を頼んだ。この他にその頃はおでんの種に何があっただろうか。その晩もこの三つを頼んだ覚えがあるのからすればおでんの中でもこういう脂っこいものをいつも頼んでいたらしい。そのおでんも熱くて辛子も飛び切りよく利いた。それに熱燗の酒でそういうものを飲んだり食べたりしていると寒さを忘れるばかりでなくて勘さんが言った通り酔わないでいることの方も危なくなってきた。
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こんな感じで、句読点のあまりない文章が延々と書き連なっていくのですが、これがね、読んでいくうちにどんどんと心にはまっていくのですよ。この引用だけでは分からないかもしれませんが。
食べ物がとても好きな方で、文章の至る所で酒を飲んだり物を食べたりする描写が出てくるのですが、それが素敵でね。友人との会話とかも、たいした会話でなくても、とても魅かれるのです。ああいうのを粋というのかしら。僕も大人になったらこういう生活を送りたいよ。(銚子を下げないで並べていくとかやってみたいね、と以前に誰かに言ったら、本当に粋な人は、その銚子を横にして並べていくのだよ、と教えていただいた記憶があります。誰かは忘れたけど。)
で、何を言いたいのかと言いますと、吉田さんは最近はあまり人気がないようで、本も絶版にはならなくとも重版もされずといった状態ですが、やはり僕はこの人の小説が大好きで、一生読んでいきたいと思いました。

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大根雄
栃木生まれ。
鉄割パソコン担当。
いたりいなかったりする。

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