06年10月15日(日)

朝、目を覚ましてテントから外を見ると、スモッグだらけで何も見えません。うーん、今日も天気が悪いのかしら。

寝袋から出ると、とても寒い。お湯を沸かして、ラーメンとスープを作って朝食。食後にコーヒーを淹れて、体を温めます。
さて。
もしも今日も天気が悪かったら、一日テントの中で過ごすことになってしまいます。それはちょっと嫌だ。どうしましょう。

とりあえずテントから出ると、とてもかわいい猫がごろにゃんと寄ってきました。わお。すげーかわいい。とても人なつこい猫で、なでても全然いやがりません。ここまで人を怖がらないということは、地元の人たちからも観光客からも大切にされているのでしょうね。マハトマ・ガンディーさん曰く、「国の偉大さや、道徳の高さはその国の動物の扱い方で判断できる」。ここは、アメリカではありますが、ナホバ独立共和国。ナホバの国の人たちは、人間には無愛想でも動物にはやさしいみたいです。

猫と遊んでいると、こんどは犬が寄ってきました。これまた全然人を怖がらず。

そして、猫と犬と遊んでいると、さらに一匹の犬が現れました。これまた全く人見知りもせず。三匹ともお互いを牽制するわけでもなく、なんだか素敵な共生関係。この子たちは野良なのかな?それとも、ビジターセンターのペットなのかな。

そんなこんなで猫と犬と犬と遊んでいたら、雲の隙間から青空が顔を出してきました。おっ。いい感じ。

ビジターセンターで確認したところ、今日は雲は多いけれど雨は降らないようです。そういうわけで、本日はモニュメントバレーをトレッキングできることになりました。よかったー!

さて。
本日のトレッキングコースは、ワイルドキャット・トレイルです。モニュメントバレーで個人で歩けるトレイルは、これしかありません。全長5kmのそれほど長くないトレイルです。

スタート地点。いい感じ。ぼくの他に、人影はまったくありません。

昨日あれだけ雨が降ったのに、土がそれほどぬかるんでいないのは、水の吸収力が強いのかな。歩くのに、全然不便じゃない。

一応iPodも持ってきたけど、必要なさそうです。音楽がなくても、自然の素敵な音々が常に耳にあふれていますから。

人の影がまったくない荒野を、一人楽しく歩いていると、前方から、

あれ?なにかくるぞ。

馬だ。

馬が、ゆっくりとぼくの方に向かって歩いてきます。ちらりとこちらを見て、なんのリアクションもなくそのまま通り過ぎていきます。野性ということはないでしょうから、放牧なのかしら。

荒野を歩いていて馬に出会うなんて、なんだかぼくまるで映画の主人公みたい。なんてことを考えながらも、こんな荒野で馬に蹴られて死んでしまってはたまりませんので、ちょっと離れてみました。

気温がちょうどよく、湿気もほとんどないので、歩いていてもまったく汗をかきません。

なんだかんだで晴れてきました。風が、気持ちいい。

本当に、つくづく荒野なんです。ぼくは今、トレイルのコースを歩いているからこんなにも楽しい気持ちになっているけど、もしこれが観光じゃなくて、さまよい歩いて行き着いた先がここだったりしたら、ちょっとした絶望よね。想像しただけで絶望よね。

歩いていると、ときどき野ねずみのような、野リスのような、小さな生き物がタタタタタと走っているのに気がつきました。

再び、馬に遭遇。今度はぼくの前方にいたので、ぼくの方が彼らの後を追う形になりました。馬の後を追って歩く。何となく、楽しい。

三時間近くかけて、ゆっくりと荒野を堪能。とんでもなく贅沢な時間でした。

夕方前に、少し離れた場所にあるストアまで買い出しに出かけました。昨日も走った道なのに、雨の時と晴れの時では、全然違う道を走っているようです。

っていうか、太陽が調子にのって顔を出してきて、暑いです。この国の太陽は、本当に空気を読まないというか、間が悪いというか、なんというか。

昨日に引き続き、もう一度テントの写真。いや、本当にすばらしい場所にテントをはっているでしょう。今でも、この写真を見る度に、ぼくの心の奥がキュンとなるわけですよ。

夕方。雲が消えて、夜の深淵が少しずつモニュメントバレーを包んでいきます。ぼくも一緒に包まれて。毎日がスペシャル。

06年10月14日(土)

今回の旅行先としてアメリカの南西部を選んだのには、いくつか理由があります。ひとつは、そもそもアメリカが大好きだったから。
ひとつは、先にも書いたとおり、アメリカのナチュラリストのエッセイに取り憑かれて、アメリカの大自然に触れたくなったから。
ひとつは、ポール・オースターの『ムーンパレス』の世界を実際に体験してみたかったから。
そしてもうひとつは、この本。

Lonely Planet Southwest America。その表紙のこの写真。

この写真に一目惚れをして、このまっすぐな道を走りたいと思ったこと。この本が、決定打になりました。

もともとこの本を手にしたのは、旅行のためではなく別の理由(西部史を調べていたときに、ガイドブックとして使用)だったのですが、以前から人に邪魔されずに、とにかくひたすらに自転車で走りたいと考えていたぼくにとって、この写真はとんでもなく魅力的に映りました。裏表紙のクレジットをみると、「Cover photograohs by Lonely Planet Images: Monument Valley」という文字が。

Monument Valley。

モニュメントバレーと言えば,汗臭いカウボーイの印象しかありません。そこに行けば、この道に出会えるのか!この道を走ることができるのか。

そんなわけで、はるばるアメリカくんだりまで来たわけです。そして本日、とうとう夢にまで見たモニュメントバレーへと到着します。さすがに興奮してしていたのか、目覚ましの音よりも早く目を覚まして、さてさて今日も晴れ男、晴天の下を走りましょう。ぼくは晴れ男なので、雨が降るはずはありませんが、それでも特に今日だけは、絶対に雨が降ってはいけないのです。ようやくここまで来て、一番行きたかった場所に到着するというのに、雨が降るは図ありません。だってぼくは晴れ男

雨です。結構な雨です。

昨日までの晴天が嘘のように、空には一面の雲。

ぼくの人生ってね、いつもこんな感じなんですよ。今回の旅行も、あまりにも順調にいきすぎていたので、なんだか嫌な予感はしていたのですが、晴れなくても良い砂漠のど真ん中では灼熱の太陽が出ていたのに、一番楽しみにしていた場所に行くとなったとたん、この天気です。まあ、もうぼくの人生のこういう性格にも慣れてはきましたが、さすがに若干がっくりとしてしまいました。

とはいえ、いじけていても仕方がないので、カッパを着て出発します。幸いなことに、ここからモニュメントバレーまではそれほど距離はありません。ゆっくりと走りましょう。

地図によると、ここからkayentaに向かう途中に、Marsh Passという2000m級の峠があるみたいです。雨の中、峠を登るのはちょっと嫌だ。

気がつくとkayentaに到着。あらら。峠なんてなかったぞ。雨に気をとられて、気づかなかったのかしら。いえいえ、アメリカの坂はそんなに甘くありません。地図の間違いかしら。

163号線に入ると、少しずつ晴れてきました。うーん、やっぱりぼくは晴れ男なのかしら。

うっひょー、来た来た。モニュメントなバレーが現れてきましたよ。

またまた雲がガスってきました。

風景に、素敵な残丘が目につくようになってきました。

ガスと雨のせいでよくわかりませんが、とりあえずLonley Planetの表紙のようなまっすぐな道が続きます。しかし、この道に感動するには、あまりにも長い時間まっすぐな道を走りすぎました。つーかよ、アメリカに来てからまっすぐな道しか走ってねーからよ、感動しろっつても無理だっつーの。いきなりこの道だったらよ、そりゃ感動してすげーとか叫ぶかもしれないけど、もう何日まっすぐな道を走り続けていると、高校の通学路を走っているのと同じようなものよ。しかもよ、雨だし。ガスだし。タイヤはパンクするし。感動どころか怒りさえ覚える始末です。いえ、嘘です。感動して、涙か雨か分からないぐらいでした。というのも嘘です。

ところで、雨の日の自転車はどんな感じになっているかというと

こんな感じです。また数日テント生活になるので、寝袋は絶対にぬらしてはいけません。

さて、そんなこんなでモニュメントバレー到着です。雨のせいで、バレーのツアーが中止になったらしく、入園料も無料でした。ラッキー。

きたー!モニュメントバレー!!すげー!いやー、あまりにも有名なこの場所ですけど、やっぱり全身で感じると、すげー!!

しかも、運良く、一番良い場所にテントを張ることができました。この場所ね、テントをあけると目の前にモニュメントバレーが、どーんと現れます。朝も、昼も、夜も、テントをあけるとモニュメントバレーがどーん。どーん。

ビジターセンターでちょっと遅めの昼食をとります。ジョン・フォードバーガー。なにがジョン・フォードなのかよくわかりませんが、多分チーズのあたりがジョン・フォードなのでしょう。カロリーたっぷりでうまかったです。

テントに戻って本を読んでいると、突然雨が激しさを増して降ってきました。激しすぎてちょっと引きました。風も暴風に近くなり、雷まで鳴り出しました。

あれ、もしかして、ここがぼくの人生の執着地点?と本気で考えるほど、激しい雷雨。もしも、ここに到着する前にこの嵐にあっていたら、と考えるとぞっとします。テントが軋むし揺れるし。ま、まさか風でテントごと飛ばされないよね。

30分ほどして、ようやく雨が上がりました。ほっとして、おそるおそる、テントから出ると、

なんとまあ

夢のような風景が

広がっているではありませんか。

雨の中を自転車で走るのは、本当に大変で、何度もぶちきれて大声で「くおあー」叫んでしまったけれど、雨が降っていなければこの景色はなかったわけで、そっか、このためにぼくはあんなに苦労をしたのか。そんな風に考えたら、なんだかうれしくなりました。どこの偉大な力か知らないけど、おつな計らいしますね。

周りを見ると、他のキャンパーたちもこの美しい風景に見入っています。さっきまで嵐だったのに、今はこんなに穏やか顔を見せるなんて。自然って、すごい。これが噂の雨と鞭ってやつなのかしら。

虹ってこんなに綺麗だったんだと気づく、三十路の秋。

そして日も暮れて。
今日の夜は、本を読まないで、自然の音に静かに耳を傾けて、黙想することにしました。

10分で黙想に飽きたので、本を読んで、眠りにつきました。

06年10月13日(金)

6時起床。あれ?ここはもうUTA時刻で考えた方がよいのかな。だとすると、7時起床。

本日は、モニュメントバレーのちょい手前、Kayaentaまで行く予定です。

またまた始まりました、まっすぐな道地獄。間違えました、地獄じゃない。ぼくはこれを楽しみにアメリカに来たのですから。まっすぐな道天国。

走れども走れどもまっすぐな道天国。いいかげん、うざい。いやいや、うそうそ、楽しいです。えへへ。

今日も雲一つない晴天です。すばらしい。つくづくぼくって晴れ男。

なーんにもない風景に、ところどころ自然のモニュメントが現れます。
一休みして、モニュメントを眺めながら、パンをぱくり。

Cow Springに到着。この町、ぼくの使っている地図に乗っていません。そして、奥に見えるのは

廃墟ですね。名前を残して、町自体はなくなってしまったのかしら。

道の端で、放牧されている馬たちが草を食べています。なんだかどんどんほのぼのーんっとしてきましたよ。

今日も、なーんにもない道をただただ楽しく走っていますよ。

禅とオートバイ修理技術』という本のなかで、パーシグさんは次のように書いています。

オートバイに乗って休暇を過ごすのは、ほかにはない一種独特の趣がある。車は、いわば小さな密室であり、いったん慣れ親しんでしまえば、自然の何たるかを知りえない。(中略)だがオートバイにはその枠がない。私たちは完全に自然と一体になる。もはや単なる傍観者ではなく、私たちは自然という大きな舞台のまんなかにいて、溢れんばかりの臨場感に包まれる。足下を唸るように流れてゆくコンクリートは、現実のものであり、足を踏みしめて歩く道路そのものである。ぼんやりとして焦点を定めることはできないが、それは確かにそこにあり、その気になればいつでもこの足を降ろして触れることができる。すべてのもの、すべての経験、これらは決してじかの意識から逸脱することはない。
ロバート M.パーシグ「禅とオートバイ修理技術」

パーシグさん、もしぼくがあなたの友だちだったら、教えてあげます。バイクもいいけど、自転車だったらさらに自然と一体になれますよ。だって、自分が足を動かすのを止めたら、前に進まないのですから。風の音も土の匂いも空の色も動物の声も、素通りすることなくすべてを感じることができますから。自分の運んでいる荷物の重さを感じながら、自分がこれから行く場所までの距離を感じながら、自分が登っている傾斜の角度を感じながら、ペダルを踏むことができるのですから。バイクでは見逃してしまう自然の隅々を、自分自身の隅々を、自転車だったら見逃すことはないのですよ。


14時過ぎに、Tsegiという町にモーテルがあるのを発見。Kayaentaは、ここからさらに16kmほど先になります。がんばれば行けないことはないけれど、この先まだまだ旅は続きます、無理をせずに今日はここで休みましょう。

昨日と同様、本日も受付のネイティブアメリカンのおばさんが、とーっても無愛想に対応してくれました。ネイティブな方々はみなさんこんな感じに無愛想なのかしら、とちょっと不安に。

チェックインをすませて、シャワーを浴びて、一休みしたあとに、モーテルに隣接するカフェで、食事をしました。おすすめは?と無愛想なネイティブアメリカンのおばさんに聞くと、ナバホの揚げパンがうまいんじゃねえのと無愛想に教えてくれたので、それを注文しました。

うん、確かにこりゃうまい。

カフェには、他にも何人かお客さんがいますが、ぼくの他は全員ネイティブアメリカンのようです。時刻は夕方前。みなさん、ビールを飲んだり、たばこを吸ったり、肉を食べたり。女性はみな、戌井さんのお父さんみたいな感じ。男性もみな、戌井さんのお父さんみたいな感じ。スピリチュアル的なことはなーんにもありませんけれど、神秘的なこともなーんにもありませんけれど、ぼくは神聖なネイティブアメリカンの聖地なんかよりも、こういう場所の方がずっと好きです。

モーテルの後ろの風景が、なんだか素敵だったので写真を撮ってみました。

 

それにしても、走れば走るほど、アメリカという土地と人が文化にどんどん惹かれていきます。まだまだこれからだけど、これから先が本当に楽しみ。本当に素敵な場所だな、いろんな意味で。


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大根雄
栃木生まれ。
鉄割パソコン担当。
いたりいなかったりする。

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