夜中。
テントの外から聞こえてくる荒い鼻息で目を覚ましました。あら、獣かしら。しかし眠気には勝てず、そのまま無視して再び寝りにつきました。
朝方、眠い目をこすりながら起床。テントサイトから少し離れたマーサポイントまで、日の出を見にいきました。激寒です。とても綺麗で感動したのですが、寒すぎます。しかもカメラを忘れた。
その後、テントに戻り、コーヒーを入れて一段落。とにかく寒い。体感的には、5度以下に感じます。パンとハムの朝食をとって、ほっとしていたら、少しずつテントの中が暖かくなってきて、とても幸せな気持ち。
さて、そんなこんなでぐだぐだしていたら、あっという間に七時を過ぎてしまいました。太陽もすっかり上がって、今日も良い天気になりそうです。
最近、どうもタイやがパンクしがちなので、チューブを交換しました。
ぼくはアメリカの道路をかなり甘く見ていたらしく、替えのタイヤを持ってきていません。チューブの替えはいくつか持ってきているのですが、連日のパンクで残りひとつになってしまいました。
ロスからここまで、ぼくが走ってきたところには、自転車屋さんは一軒もありませんでした。これから先の道のりは、これまでよりもさらに荒野になっていく予定なので、自転車屋さんがある可能性はより少なくなります。
さて。どうしましょうね。
それでは出発です。
本日は、イーストリムの終点、グランドキャニオン国立公園の東端まで走ります。
距離にすると40km少々。二日ぶりの自転車にまたがります。
道路の左側の絶景に目を奪われながら、自転車を走らせます。グランドキャニオンの国立公園内であることに変わりはないのに、走っている車の数がやたらと少ない。脇見運転をしても、ぜーんぜんあぶなくありません。
途中、リパンポイントに立ち寄りました。うーん、わずか数十キロしか移動していないのに、心なし景色の感じが変わっているような気がします。
本日の宿泊先であるデザートビューに14時到着。無人テント使用料支払機に若干手間取りながらも、今日もとてもナイスな場所にテントを張ることができました。ありがとうございます。
グランドキャニオンも今日で最後です。近くにあるウォッチタワーから、雄大な景色を目に焼き付けておきましょう。
しっかし本当にすげーなー。慣れてきたとはいえ、この果てしない雄大な景色は、何度観ても心になにかを感じさせてくれます。
歴史の本によると、最初にこのグランドキャニオンを調査にきたアメリカの陸軍隊は、「何の価値も見いだせない不毛の荒れ地。ここにくるのは、我々が最初で最後になるだろう」と報告したといいます。
おそらく彼らは、今よりもずっと未開だったアメリカの土地を、数ヶ月の時間をかけて、本当の意味での「自然」を感じながら、ここにたどり着いたのでしょう。
自然を求めてここに来た現代のぼくたちとは、来た目的が根本的に異なるわけで、何らの物質的な価値も与えてくれない土地に魅力を感じなかったことは、当然だったと思います。
でも、現代の自然とかけ離れた世界に生きるぼくたちにとって、この大なる不毛の荒れ地は、不毛であるというだけで大きな価値があります。
勝手に自分たちで自然を破壊しておいて、今度は自分たちが破壊してきた自然を求めるなんて、人間って本当に不思議な生き物です。
そういうわけでグランドキャニオンとも本日でお別れです。たった3日間の短いおつきあいではありましたが、とても楽しかったです。涙が出るくらい楽しかった。
本当に色々なことを感じることができたわけですが、もしここまで自転車ではなくてバスとか車で来ていたとしたら、感じたことも違っていたような気がします。
自転車旅行は面倒だし疲れるし、不安だし、本当に利便性では最悪ではありますが、それもひっくりめて、こんなに楽しい旅行は他にはないと思います。(あるとしたら、徒歩旅行ぐらい)
夜。
テントの中で本を読んでいたら、おしっこがしたくなったので、テントを出てトイレに向かいました。
空を見上げると凄い星空が広がっています。キャンプ場では、馬鹿騒ぎするようなキャンパーはおらず、みんな火を囲んで静かに話をしています。おしっこをして、テントに戻り、コーヒーを淹れて、再び読書。幸せだ。