06年10月12日(木)

起床。今日もとっても天気が良い。
テントをたたんで自転車に乗って、出発。
本日の目的地は、約100km先にあるTubaCity。さて、ゴーウエストです。

64号線をひたすらに下ってしばらく進むと、風景が少しずつ変わってきました。

砂が少しずつ赤みを帯びてきて、砂山が続きます。視界もどんどん開けてきてきます。

さらに進むと、ネイティブアメリカンのおみやげやさんがちらほらと現れ始めました。
うーん、この辺でおみやげを買いたいところですが、今買ってしまうと荷物になります。旅行はまだまだ続きますから。

道路の脇に、誰もいないおみやげ屋さんらしき小屋が続きます。オープンって書いてあるけど、誰もいません。

なぜだろう。こういう、誰もいない掘っ立て小屋を見ると、わくわくしてくる。

なんかね、土地の感じが本当に変化してきました。うまく表現できないのですが、体が感じる空気の質が、変わってきた。少し乾いてきたような、そんな気がします。

なにもない広漠に、小屋がぽつりと。
まじやばい。心がどきどきする。
その先に見える岸壁も素敵だ。

89号線に合流。TubaCityまで、あと半分です。

なんという空の色してるんだ、アメリカ。雲。ひとつ。ない。おい、アメリカ。まじ澄んでるな、お前。

84号線に入ると、民家がちらほらと現れました。
突然、犬がすごいいきおいで舌をべろんべろんに出しながら、まるで親の敵に出会ったかのように、ぼくのことを追いかけてきました。
お前死ぬぞ!ってなぐらい大声でほえています。殺(や)られる!そう思ったぼくは、全速力で逃げました。まじ怖かった。
犬がマジになると、マジで怖いということを知りました。もしかしたら、生まれて初めて犬がマジになっているところをみたかもしれません。
そして、人間もマジになるとマジな力が出るということも知りました。疲れきっているはずなのに、自転車のスピードがびゅんびゅんでました。おれ、まだやれる。

犬は好きだけど、もし銃を持っていたら、間違いなくぶっぱなしていたでしょう。それぐらいの恐怖でした。

車とか転がっているし。

このりっぱな橋は、いったい何なのだろう。入り口がふさがれているので、通ることができません。

土地の感じがまた変わってきました。砂はすこしずつ白くなり、岸壁は砂丘に姿を変えました。標高をみると、1200m台まだ下がっています。今日一日で、1000m以上下ってきたことになります。

160号線に突入です。TubaCityまであとちょい。
と思っていたら、いきなり上り坂。しかも半端ない上り坂がやってきました。今日はもう上り坂はないだろうと安心していたので、余計につらいです。

ようやくTubaCityに到着です。
チェックインしたモーテルの受付の方は、ばりばりのネィティブアメリカンで、良い感じにでぶで、なかなか無愛想でした。

TubaCityは、小さくて、砂っぽくて、ネィティブ率がとても高いチャーミングな町です。
町を歩いていると、大音量でカントリー・ミュージックが流れています。
フリーマーケットもなんだかのほほほほんとした感じ。

そして、皆さん不機嫌で、無愛想です。

06年10月11日(水)

夜中。
テントの外から聞こえてくる荒い鼻息で目を覚ましました。あら、獣かしら。しかし眠気には勝てず、そのまま無視して再び寝りにつきました。

朝方、眠い目をこすりながら起床。テントサイトから少し離れたマーサポイントまで、日の出を見にいきました。激寒です。とても綺麗で感動したのですが、寒すぎます。しかもカメラを忘れた。

その後、テントに戻り、コーヒーを入れて一段落。とにかく寒い。体感的には、5度以下に感じます。パンとハムの朝食をとって、ほっとしていたら、少しずつテントの中が暖かくなってきて、とても幸せな気持ち。

さて、そんなこんなでぐだぐだしていたら、あっという間に七時を過ぎてしまいました。太陽もすっかり上がって、今日も良い天気になりそうです。

最近、どうもタイやがパンクしがちなので、チューブを交換しました。
ぼくはアメリカの道路をかなり甘く見ていたらしく、替えのタイヤを持ってきていません。チューブの替えはいくつか持ってきているのですが、連日のパンクで残りひとつになってしまいました。
ロスからここまで、ぼくが走ってきたところには、自転車屋さんは一軒もありませんでした。これから先の道のりは、これまでよりもさらに荒野になっていく予定なので、自転車屋さんがある可能性はより少なくなります。
さて。どうしましょうね。

それでは出発です。
本日は、イーストリムの終点、グランドキャニオン国立公園の東端まで走ります。
距離にすると40km少々。二日ぶりの自転車にまたがります。

道路の左側の絶景に目を奪われながら、自転車を走らせます。グランドキャニオンの国立公園内であることに変わりはないのに、走っている車の数がやたらと少ない。脇見運転をしても、ぜーんぜんあぶなくありません。

途中、リパンポイントに立ち寄りました。うーん、わずか数十キロしか移動していないのに、心なし景色の感じが変わっているような気がします。

本日の宿泊先であるデザートビューに14時到着。無人テント使用料支払機に若干手間取りながらも、今日もとてもナイスな場所にテントを張ることができました。ありがとうございます。

グランドキャニオンも今日で最後です。近くにあるウォッチタワーから、雄大な景色を目に焼き付けておきましょう。

しっかし本当にすげーなー。慣れてきたとはいえ、この果てしない雄大な景色は、何度観ても心になにかを感じさせてくれます。

歴史の本によると、最初にこのグランドキャニオンを調査にきたアメリカの陸軍隊は、「何の価値も見いだせない不毛の荒れ地。ここにくるのは、我々が最初で最後になるだろう」と報告したといいます。
おそらく彼らは、今よりもずっと未開だったアメリカの土地を、数ヶ月の時間をかけて、本当の意味での「自然」を感じながら、ここにたどり着いたのでしょう。
自然を求めてここに来た現代のぼくたちとは、来た目的が根本的に異なるわけで、何らの物質的な価値も与えてくれない土地に魅力を感じなかったことは、当然だったと思います。
でも、現代の自然とかけ離れた世界に生きるぼくたちにとって、この大なる不毛の荒れ地は、不毛であるというだけで大きな価値があります。
勝手に自分たちで自然を破壊しておいて、今度は自分たちが破壊してきた自然を求めるなんて、人間って本当に不思議な生き物です。

そういうわけでグランドキャニオンとも本日でお別れです。たった3日間の短いおつきあいではありましたが、とても楽しかったです。涙が出るくらい楽しかった。
本当に色々なことを感じることができたわけですが、もしここまで自転車ではなくてバスとか車で来ていたとしたら、感じたことも違っていたような気がします。
自転車旅行は面倒だし疲れるし、不安だし、本当に利便性では最悪ではありますが、それもひっくりめて、こんなに楽しい旅行は他にはないと思います。(あるとしたら、徒歩旅行ぐらい)

夜。
テントの中で本を読んでいたら、おしっこがしたくなったので、テントを出てトイレに向かいました。
空を見上げると凄い星空が広がっています。キャンプ場では、馬鹿騒ぎするようなキャンパーはおらず、みんな火を囲んで静かに話をしています。おしっこをして、テントに戻り、コーヒーを淹れて、再び読書。幸せだ。

06年10月10日(火)

ゆく河と時の流れは無情なものでして、ちょっと日記をさぼると過ぎにひと月ふた月が過ぎてしまうものです。っていうか、旅行に行ってからもう一年以上が過ぎてしまいました。いやはや、本当に、人生というやつはちょっと油断をするとすぐに逃げて行ってしまうので、追いついていくだけで精一杯です。

この日記は、日付が10月10日になっておりますが、2006年の10月10日の日記でございます。2008年に2006年の日記っていかがなものさとも思うのですが、どうしてもこの日記だけは書いておきたいのですよ。さて、何事もなかったかのように日記を続けましょう。

前回までのあらすじ。アメリカで自転車に乗って砂漠を走っていたらカメダコウキみたいな体になってしまったのですが、それでも走り続けたらグランドキャニオンに到着しました。

さて、日記を続けます。朝、日の出を見ようと思っていたのに、目を覚ましたらすでに八時過ぎでした。テントの中の寒さが心配でしたが、温かい寝袋の中でぐっすりと眠り、疲れもすっかりとれた模様です。

本日は、グランドキャニオンをトレッキングしましょう。本当は、一日ぐらい休めばよいのですけどね、なにせ貧乏性なもので、もうしわけないです。

本日向かう先は、ブライト・エンジェルというトレイルです。とりあえずインディアンガーデンまで降りて、時間的に余裕があったらその先のプラトーポイントまで行ってみましょう。
コーヒーを淹れて、サンドイッチとバナナで朝食を済ませ、テントを出ます。

上の写真の下の方に道が続いているでしょう。あれが本日向かうトレイルです。あの道の先に、目指すプラトーポイントがあります。

空に雲は広がっているものの、気温は20度を越えています。トレイルをするには少し暑いかな。水も、一リットルしか持ってきていないので、やばそうになったらすぐに引き返すぐらいの気持ちで、ゆっくり歩きます。

なんだか、景色が広すぎて本当にめまいがします。とにかくも視界が広いのよね。日本の北アルプスなんかも、空の景色の広がりはすごいけれど、アメリカの景色の広がり方はもっと野蛮な感じにすごい。

小動物なんかを結構見かけるのですが、みなさん人慣れしすぎていて、ぜんぜん逃げていきません。エサをあげる人がたくさんいるからなのですが、よくありませんね。

本日のトレイルの標高差は、大体600mぐらい。ならされた道があるので、歩くのは苦痛ではないのですが、道がミュールのうんこだらけなのが苦痛です。

1.5マイルのポイント、3マイルのポイントと通過して、13時過ぎにインディアン・ガーデンに到着。ここまで約二時間。帰りは、登りになるので来たときの二倍の時間がかかるとして、ここで引き返したとしても、上に着くのは夕方になってしまう。
うーん、せっかくここまで来たのだから、プラトーポイントまで行きたいなあ。

インディアン/ガーデンに、うんこの犯人がいました。お金を払うと、こいつらが上まで載せて行ってくれるそうです。うんこしながら。

とりあえず、あと一時間だけ行けるところまで行ってみましょう。ここから先は、ずっと平地だから、体力はあまり消耗しないはず。たぶん。

インディアン・ガーデンを過ぎると、一気に人影がなくなりました。
あー、やっぱりまわりに人がいないのは楽しいなー。聞こえてくるのは、風の音と、ぼくの歩く音だけ。
やっぱりぼくはひとりが好きなようです。

と、ひとりを楽しむのもつかの間、ふと気がつくと時刻はすでに14時近く。懐中電灯もなにも持ってきていないので、夕方前にはテントに戻りたいので、途中で引き返すことにしました。
プラトーポイントまではたどり着けなかったことは残念だけど、まあよしとしましょう。
本当に、あと少しで到着すると思うんですけどね。ゴルゴ13も言っています、俺が生き残っているのは、臆病だからだ。勇気を持って帰りましょう。

そんな感じで、帰りもがしがしと登って、夕方前にテントまで戻りました。
アメリカに来て、始めて観光らしいことをしましたよ。

それにしても、アジアの国に旅行に行くと、観光地には外国人しかいないけれど、アメリカの観光地にはアメリカ人ばっかりですね。しかも白人ばっかり。トレッキングをしている日本人なんてひとりもいませんでした。たまたまかもしれませんが。

夜。
テントの前で火を焚いて、火を眺めて山川草木悉皆大好なんてことを考えてぼーっとしていたら、三時間ぐらい経過していました。すっかり寒くなっていたので、ミルクを温めて飲んで、こんな日々があと十年続けばよいのになんてことを思いながら、友達に手紙を書いたり。


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大根雄
栃木生まれ。
鉄割パソコン担当。
いたりいなかったりする。

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