
鉄割の稽古が始まってしまったので、みんなが遊んでくれなくなってしまいました。そういうわけで今月は、自分でも驚くほどに飲みに行っていません。夜はゆっくりと読書をしています。
今日の読書は、『アメリカの夢、アウトローの荒野』。アメリカの人気もの悪党、ジェシー・ジェイムズについての本です。アメリカって、本当に面白い国だ。
19世紀から20世紀前半のアメリカの歴史を読んでいたら、アメリカン・ルネサンス期のアメリカ文学に興味がわいてきました。そういえばぼくは、19世紀のアメリカの小説というもの、いわゆる「でっかい物語」をほとんど読んでいません。
何年か前に、ぼくがとても尊敬していた人に「最近はどんな本を読んでいるのですか?」と聞いたところ、「最近はこれを読んでいます。」と言って鞄の中からメルヴィルの『白鯨』をとりだし、「メルヴィルがこれを書いたのが、ちょうど今のぼくと同じ歳なのですよ」と言っていました。この野郎は本当に素敵だなあと思ったことを、今この日記を書きながら思い出しました。あれ!いつのまにやらぼくもその歳ではないですか。
長編小説って、どちらかといえば苦手なのですが。メルヴィルが白鯨を書いた年齢になったことだし、がんばって読んでみたいと思います。あの人が読んでいたのだから、絶対におもしろいはずだ。
お店の中はほとんど満席です。テーブル席で箱もり蕎麦を食していると、向かいには一組の恋人たち。焼味噌をおつまみにして、日本酒を飲んでいます。とはいっても、飲んでいるのはほとんど男性の方。話をしているのもほとんど男性の方。女性は静かな佇い。
お酒が一本飲み終わると、男性は女性に「もう一本飲む?」と尋ねます。女性はちょっと笑って、首を少し傾げます。「もう一本だけ頼んじゃおう。俺が飲むから」と言って、男性はもう一本注文をします。店員さんが「お蕎麦はどうしますか?」と聞くと、「もう少ししてから注文します」。
ふたりは、会話をしています。女性の口数は少ないものの、とても楽しそうに男性の話を聞いています。
お酒がきて、男性が手酌で自分のコップにつぐと、女性はちょっと恥ずかしそうにはにかみながら、人差指と中指で自分のコップを男性の方へつつっと押しやります。男性はそれに気づくと、笑って日本酒をついであげました。
ああ、ぼくが人生に求めているのは、こんな風なちょっとした幸せなんだよなあ、休日の昼下がりに、好きな人と日本酒を飲みながら蕎麦屋でゆっくりと過ごす、そんな幸せなんだよなあ、などと思いながら、まばたきもせずにふたりをずっと凝視していました。ほとんど、メンチ切っていたといっても過言ではありません。けれども、ふたりはぼくの視線になんかまったく気づきません。ふたりにとって、ぼくの存在は無も同然なのです。店員さんは気づいていたと思います。蕎麦を食べながら、素敵な恋人たちにガンつけているぼくに。
蕎麦屋をでて、善福寺公園へ行きました。桜はまだ咲いていなかったけれど、かすかに新緑の香りがしてとても気持ちが良かったです。家に帰ったら、たくさん読書をしようと思いました。