06年10月13日(金)

6時起床。あれ?ここはもうUTA時刻で考えた方がよいのかな。だとすると、7時起床。

本日は、モニュメントバレーのちょい手前、Kayaentaまで行く予定です。

またまた始まりました、まっすぐな道地獄。間違えました、地獄じゃない。ぼくはこれを楽しみにアメリカに来たのですから。まっすぐな道天国。

走れども走れどもまっすぐな道天国。いいかげん、うざい。いやいや、うそうそ、楽しいです。えへへ。

今日も雲一つない晴天です。すばらしい。つくづくぼくって晴れ男。

なーんにもない風景に、ところどころ自然のモニュメントが現れます。
一休みして、モニュメントを眺めながら、パンをぱくり。

Cow Springに到着。この町、ぼくの使っている地図に乗っていません。そして、奥に見えるのは

廃墟ですね。名前を残して、町自体はなくなってしまったのかしら。

道の端で、放牧されている馬たちが草を食べています。なんだかどんどんほのぼのーんっとしてきましたよ。

今日も、なーんにもない道をただただ楽しく走っていますよ。

禅とオートバイ修理技術』という本のなかで、パーシグさんは次のように書いています。

オートバイに乗って休暇を過ごすのは、ほかにはない一種独特の趣がある。車は、いわば小さな密室であり、いったん慣れ親しんでしまえば、自然の何たるかを知りえない。(中略)だがオートバイにはその枠がない。私たちは完全に自然と一体になる。もはや単なる傍観者ではなく、私たちは自然という大きな舞台のまんなかにいて、溢れんばかりの臨場感に包まれる。足下を唸るように流れてゆくコンクリートは、現実のものであり、足を踏みしめて歩く道路そのものである。ぼんやりとして焦点を定めることはできないが、それは確かにそこにあり、その気になればいつでもこの足を降ろして触れることができる。すべてのもの、すべての経験、これらは決してじかの意識から逸脱することはない。
ロバート M.パーシグ「禅とオートバイ修理技術」

パーシグさん、もしぼくがあなたの友だちだったら、教えてあげます。バイクもいいけど、自転車だったらさらに自然と一体になれますよ。だって、自分が足を動かすのを止めたら、前に進まないのですから。風の音も土の匂いも空の色も動物の声も、素通りすることなくすべてを感じることができますから。自分の運んでいる荷物の重さを感じながら、自分がこれから行く場所までの距離を感じながら、自分が登っている傾斜の角度を感じながら、ペダルを踏むことができるのですから。バイクでは見逃してしまう自然の隅々を、自分自身の隅々を、自転車だったら見逃すことはないのですよ。


14時過ぎに、Tsegiという町にモーテルがあるのを発見。Kayaentaは、ここからさらに16kmほど先になります。がんばれば行けないことはないけれど、この先まだまだ旅は続きます、無理をせずに今日はここで休みましょう。

昨日と同様、本日も受付のネイティブアメリカンのおばさんが、とーっても無愛想に対応してくれました。ネイティブな方々はみなさんこんな感じに無愛想なのかしら、とちょっと不安に。

チェックインをすませて、シャワーを浴びて、一休みしたあとに、モーテルに隣接するカフェで、食事をしました。おすすめは?と無愛想なネイティブアメリカンのおばさんに聞くと、ナバホの揚げパンがうまいんじゃねえのと無愛想に教えてくれたので、それを注文しました。

うん、確かにこりゃうまい。

カフェには、他にも何人かお客さんがいますが、ぼくの他は全員ネイティブアメリカンのようです。時刻は夕方前。みなさん、ビールを飲んだり、たばこを吸ったり、肉を食べたり。女性はみな、戌井さんのお父さんみたいな感じ。男性もみな、戌井さんのお父さんみたいな感じ。スピリチュアル的なことはなーんにもありませんけれど、神秘的なこともなーんにもありませんけれど、ぼくは神聖なネイティブアメリカンの聖地なんかよりも、こういう場所の方がずっと好きです。

モーテルの後ろの風景が、なんだか素敵だったので写真を撮ってみました。

 

それにしても、走れば走るほど、アメリカという土地と人が文化にどんどん惹かれていきます。まだまだこれからだけど、これから先が本当に楽しみ。本当に素敵な場所だな、いろんな意味で。

06年10月12日(木)

起床。今日もとっても天気が良い。
テントをたたんで自転車に乗って、出発。
本日の目的地は、約100km先にあるTubaCity。さて、ゴーウエストです。

64号線をひたすらに下ってしばらく進むと、風景が少しずつ変わってきました。

砂が少しずつ赤みを帯びてきて、砂山が続きます。視界もどんどん開けてきてきます。

さらに進むと、ネイティブアメリカンのおみやげやさんがちらほらと現れ始めました。
うーん、この辺でおみやげを買いたいところですが、今買ってしまうと荷物になります。旅行はまだまだ続きますから。

道路の脇に、誰もいないおみやげ屋さんらしき小屋が続きます。オープンって書いてあるけど、誰もいません。

なぜだろう。こういう、誰もいない掘っ立て小屋を見ると、わくわくしてくる。

なんかね、土地の感じが本当に変化してきました。うまく表現できないのですが、体が感じる空気の質が、変わってきた。少し乾いてきたような、そんな気がします。

なにもない広漠に、小屋がぽつりと。
まじやばい。心がどきどきする。
その先に見える岸壁も素敵だ。

89号線に合流。TubaCityまで、あと半分です。

なんという空の色してるんだ、アメリカ。雲。ひとつ。ない。おい、アメリカ。まじ澄んでるな、お前。

84号線に入ると、民家がちらほらと現れました。
突然、犬がすごいいきおいで舌をべろんべろんに出しながら、まるで親の敵に出会ったかのように、ぼくのことを追いかけてきました。
お前死ぬぞ!ってなぐらい大声でほえています。殺(や)られる!そう思ったぼくは、全速力で逃げました。まじ怖かった。
犬がマジになると、マジで怖いということを知りました。もしかしたら、生まれて初めて犬がマジになっているところをみたかもしれません。
そして、人間もマジになるとマジな力が出るということも知りました。疲れきっているはずなのに、自転車のスピードがびゅんびゅんでました。おれ、まだやれる。

犬は好きだけど、もし銃を持っていたら、間違いなくぶっぱなしていたでしょう。それぐらいの恐怖でした。

車とか転がっているし。

このりっぱな橋は、いったい何なのだろう。入り口がふさがれているので、通ることができません。

土地の感じがまた変わってきました。砂はすこしずつ白くなり、岸壁は砂丘に姿を変えました。標高をみると、1200m台まだ下がっています。今日一日で、1000m以上下ってきたことになります。

160号線に突入です。TubaCityまであとちょい。
と思っていたら、いきなり上り坂。しかも半端ない上り坂がやってきました。今日はもう上り坂はないだろうと安心していたので、余計につらいです。

ようやくTubaCityに到着です。
チェックインしたモーテルの受付の方は、ばりばりのネィティブアメリカンで、良い感じにでぶで、なかなか無愛想でした。

TubaCityは、小さくて、砂っぽくて、ネィティブ率がとても高いチャーミングな町です。
町を歩いていると、大音量でカントリー・ミュージックが流れています。
フリーマーケットもなんだかのほほほほんとした感じ。

そして、皆さん不機嫌で、無愛想です。

06年10月11日(水)

夜中。
テントの外から聞こえてくる荒い鼻息で目を覚ましました。あら、獣かしら。しかし眠気には勝てず、そのまま無視して再び寝りにつきました。

朝方、眠い目をこすりながら起床。テントサイトから少し離れたマーサポイントまで、日の出を見にいきました。激寒です。とても綺麗で感動したのですが、寒すぎます。しかもカメラを忘れた。

その後、テントに戻り、コーヒーを入れて一段落。とにかく寒い。体感的には、5度以下に感じます。パンとハムの朝食をとって、ほっとしていたら、少しずつテントの中が暖かくなってきて、とても幸せな気持ち。

さて、そんなこんなでぐだぐだしていたら、あっという間に七時を過ぎてしまいました。太陽もすっかり上がって、今日も良い天気になりそうです。

最近、どうもタイやがパンクしがちなので、チューブを交換しました。
ぼくはアメリカの道路をかなり甘く見ていたらしく、替えのタイヤを持ってきていません。チューブの替えはいくつか持ってきているのですが、連日のパンクで残りひとつになってしまいました。
ロスからここまで、ぼくが走ってきたところには、自転車屋さんは一軒もありませんでした。これから先の道のりは、これまでよりもさらに荒野になっていく予定なので、自転車屋さんがある可能性はより少なくなります。
さて。どうしましょうね。

それでは出発です。
本日は、イーストリムの終点、グランドキャニオン国立公園の東端まで走ります。
距離にすると40km少々。二日ぶりの自転車にまたがります。

道路の左側の絶景に目を奪われながら、自転車を走らせます。グランドキャニオンの国立公園内であることに変わりはないのに、走っている車の数がやたらと少ない。脇見運転をしても、ぜーんぜんあぶなくありません。

途中、リパンポイントに立ち寄りました。うーん、わずか数十キロしか移動していないのに、心なし景色の感じが変わっているような気がします。

本日の宿泊先であるデザートビューに14時到着。無人テント使用料支払機に若干手間取りながらも、今日もとてもナイスな場所にテントを張ることができました。ありがとうございます。

グランドキャニオンも今日で最後です。近くにあるウォッチタワーから、雄大な景色を目に焼き付けておきましょう。

しっかし本当にすげーなー。慣れてきたとはいえ、この果てしない雄大な景色は、何度観ても心になにかを感じさせてくれます。

歴史の本によると、最初にこのグランドキャニオンを調査にきたアメリカの陸軍隊は、「何の価値も見いだせない不毛の荒れ地。ここにくるのは、我々が最初で最後になるだろう」と報告したといいます。
おそらく彼らは、今よりもずっと未開だったアメリカの土地を、数ヶ月の時間をかけて、本当の意味での「自然」を感じながら、ここにたどり着いたのでしょう。
自然を求めてここに来た現代のぼくたちとは、来た目的が根本的に異なるわけで、何らの物質的な価値も与えてくれない土地に魅力を感じなかったことは、当然だったと思います。
でも、現代の自然とかけ離れた世界に生きるぼくたちにとって、この大なる不毛の荒れ地は、不毛であるというだけで大きな価値があります。
勝手に自分たちで自然を破壊しておいて、今度は自分たちが破壊してきた自然を求めるなんて、人間って本当に不思議な生き物です。

そういうわけでグランドキャニオンとも本日でお別れです。たった3日間の短いおつきあいではありましたが、とても楽しかったです。涙が出るくらい楽しかった。
本当に色々なことを感じることができたわけですが、もしここまで自転車ではなくてバスとか車で来ていたとしたら、感じたことも違っていたような気がします。
自転車旅行は面倒だし疲れるし、不安だし、本当に利便性では最悪ではありますが、それもひっくりめて、こんなに楽しい旅行は他にはないと思います。(あるとしたら、徒歩旅行ぐらい)

夜。
テントの中で本を読んでいたら、おしっこがしたくなったので、テントを出てトイレに向かいました。
空を見上げると凄い星空が広がっています。キャンプ場では、馬鹿騒ぎするようなキャンパーはおらず、みんな火を囲んで静かに話をしています。おしっこをして、テントに戻り、コーヒーを淹れて、再び読書。幸せだ。


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大根雄
栃木生まれ。
鉄割パソコン担当。
いたりいなかったりする。

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