

突然に発熱してしまい、終日横臥。
借りておいたビデオ、泉鏡花原作・坂東玉三郎監督『外科室』を観ました。昔、まだ田舎にいた頃に、テレビでこの『外科室』の特番(といっても五分程度のもの)を観て、小石川なる植物園での伯爵夫人(吉永小百合)と高峰(加藤雅也)が出会うシーンのあまりの美しさに深く感動した記憶があります。時を経て改めて観て思うのは、未だ鏡花を知らず、もちろん劇中に使われている曲がラフマニノフであることも知らなかった十年前のぼくの感動は、間違いなく現在のぼくに共通しているということで、成長していない自分が嬉しかったり悲しかったり。上京してから観た『天守物語
』も大好きな映画の一本ですが、坂東玉三郎の三本の映画の中ではやはりこの『外科室』が一番好きです。
ちなみに、『天守物語』を観たとき、観客の数はぼくを含めて三人でした。

風が吹き、日本に生まれて良かったなあとしみじみ実感。
古本屋で『西田幾多郎との対話—宗教と哲学をめぐって』を購入。最近は『善の研究
』などを解説と併せて熟読しておりまして、せめて年内中に、西田哲学の入り口ぐらいまではたどりつきたいと思っているわけです。
夜、ヴィンッチェンゾ・ナタリ監督『カンパニーマン』を観ました。『CUBE』と同様に、独特の映像の奇抜な感じがとても良かった。ルーシー・リュー最高。

今年はこれまでになく多く山に登ったような気がしますが、数えてみればほんの四回、しかもそれぞれが近場であるか友人と共でありますから孤独ということもなく、そうしてみるとぼくの今年は未だ孤独な旅を経験していないということになります。これは良くない。年が明ける前に、どこかへひとりで旅行へ行きたい。寺を訪れ仏像を拝したいけれど、あるいは。
吉田健一氏の『金沢』を読んで以来ずっと、金沢という町に心を魅かれているのですが、何度も訪れる機会がありながらも、都度の事情で行くことができずにここ数年、未知の土地でありますので、誰と誰の出身地とかいうことも考えて、最近の個人的なブームである泉鏡花に併せ、尊敬する西田幾多郎・鈴木大拙、彼らを育てた風土というものを感じたく、再び強く金沢に魅かれているわけであります。来月か、あるいは再来月。
これは加賀の金沢である。尤もそれがこの話の舞台になると決める必要もないので、ただ何となく思いがこの町を廻って展開することになるようなので初めにそのことを断って置かねばならない。併しそれで兼六公園とか誰と誰の出身地とかいうことを考えることもなくて町を流れている犀川と浅野川の二つの川、それに挟まれて又二つの谷間に分けられてもいるこの町という一つの丘陵地帯、又それを縫っている無数の路地というものが想像出来ればそれでことは足りる。
吉田健一『金沢』より