
春の日和に誘われて、奥多摩方面の電車に乗りそうになる誘惑に抗しつつ、どうにかこうにか乗り込んだ列車は、休日の午前中にもかかわらずがらがらでした。みんなお花見に行ってしまったのかしら。いちばん後ろの車両に行くと、八人掛けのイスの両側に三人ずつ、お相撲さんが座っています。あら素敵。とても良い感じに肥えている。ああまさしくファット。よく見るとファットはみんな若くて、どうも見習いお相撲さんっぽい。ああ、我慢できません。ファットたちの座っている座席の一番左端、どうにか一人分ぐらい開いているイスに座ってみました。
ファットのみなさん、ファットだけあって全員が居眠りしております。ううむ、ファット。居眠りしながら内股を掻いたりして、まさしくファット。ぼくはスモールなので、こうしてファットに紛れても彼らの仲間には見えないでしょうが、もしかしたら彼らのマネージャーなんかに見えたりするのかしら、と考えたら嬉しくなってしまいました。うわ!ファットの左手が触れたよ。ぷよぷよしてるよ。嬉しくてにやにやしていたら、いつの間にかぼくも眠ってしまい、素敵なファッツに囲まれた夢を見ました。
しばらくして目を覚ますと、ファッツはいなくなっていました。あれは夢だったのかしらと思っていると、目の前でぶさいくな女子小学生が踊りながらアイドルの歌らしきものを歌っています。なんだこのぶすと思って聞いていると、歌も上手いし踊りも上手で、ぶさいくなこと意外はなかなか素敵な子でした。しかしなぜ電車の中で歌うのかしら、それはやはりぶさいくだからなのかしら、などと思いながら、再びうたた寝。
再度目を覚ますと、一時間以上経過しておりました。ずいぶん長いこと眠ったのだなと思って周りを見ると、向かいの座席にヤンキーさんが三人座っていて、ぼくに思いっきりメンチきっています。あれ、ぼく何かしたかしら。寝惚けて三人のことぶん殴ったりしたのかしら。うわーこえー。三人とも見事なぐらいそり込み入ってるし。これ写真撮りてー、天然記念物だろうこれは、などと思いながらもメンチきられちゃってます。こわい、こわいよ。もしかしたら、ぼくのそり込みを見て、同類と勘違いしちゃったのかしら。これは違うのです、天然そり込みなのです、と弁解をしようと思っていたら、停車駅で三人は降りてしまいました。降りるときも降りてからも、ずーっとぼくにメンチきっています。何年ぶりだろう、メンチきられるのなんて。早く電車発車して。
そんなこんなで、ようやく実家に到着。
世事に疎いぼくでも、さすがにここ数ヶ月の世界の動向に関しては無視を決め込むこともできず、この戦争を七歳の甥にどのように説明をしようかなどと、浅はかなりにも考えたりしているのですが、今日Sankei.co.jpをみていたら、『ドン・キホーテ』の登場人物サンチョ・パンサのこんな言葉を引用しているコラムがありました。
警鐘を鳴らす奴(やつ)は、いつも安全なところにいる
そんでそのコラムは、武力行使反対のフランスやロシアが戦後の復興計画に口を出していることに言及したりして、最後をこんなふうに締めくくったり。
そうなのである、反戦にしろ、平和にしろ、かっこいいことをいう奴は大概安全なところにいる。
ちょっとそこのあんた、なんかむかつかない?これってどうなのかしら。安全なところにいたらかっこいいこと言っちゃいけないってこと?反戦を貫くならみんな人間の盾になりやがれってこと?つーかやたらと偉そうじゃない?一歩離れたところにいるからこそ見えることもあるわけでしょうに。
武力行使に賛成する人にも反対する人にも、いずれも正当な言い分はあるのでしょうが、こういう何かわかったようなこと言う奴って大嫌い。ちょーむーかーつーくーばーかばーか、うんこ詰まって死んじまえ!
ゲーム中心の怠惰な生活が祟ってすっかり太ってしまったので、夜が暇な時には可能な限りマラソンをすることにしているのですが、本日も石神井池のまわりを走っていたところ、数日前には咲いていなかった桜が、二分ほどではありますが咲いておりました。ようやく春がきたようです。
痩せるためのマラソンではありますが、初桜を前にして走ってなんかいられません。近くのコンビニでビールを一本だけ買って、プチお花見をしました。ベンチに座り、ひとり桜を愛でる。ふと、中原中也の詞を思い出したり。
トタンがセンベイを食べて
春の日の夕暮れは穏やかです
アンダースローされた灰が蒼ざめて
春の日の夕暮れは静かです
(『春の日の夕暮れ』)
あっ、誰かに手紙を書きたくなってきた。
今年は、戌井さんと藤原さんと内倉君と並木さんが石神井公園に花見に来てくれるということなので、今からとても楽しみです。