
先日、ビデオレンタルで『イレイザー・ヘッド』を借りて久しぶりに観賞していた折、ふとイワモトケンチさんのことを思い出しました。
イワモトケンチさんはもともとは漫画家さんでした。というか映画監督を志した漫画家さんで、映画を撮るには金がない、漫画を書けば金になる、ならば漫画をかこうかしらん、ということで漫画を描いていた漫画家さんでした。ぼくが彼の作品に初めて出会ったのは、本屋で『精神安定剤』という作品を立ち読みをしたときなのですが、おそらくはギャグ漫画であろうその作品を読んで、げらげらと人目を憚らず笑い転げ、読後、あまりの衝撃に立ちすくみました。なんなんだ、この漫画は。こんな漫画が存在するはずがない。ぼくは夢でも見ているのかしら。その衝撃は、それまで経験したことがない感覚でした。
本来であれば直ぐにでも購入をしたかったのですが、なにせ金のない学生でありましたから、その時は購入することはできませんでした。仕方がないので、毎日のように学校帰りに本屋に立ち寄り、誰も買うはずのない『精神安定剤』を何度も何度も立ち読みし、その漫画の存在が夢ではないことを確認しました。しかしある日、いつものように本屋に行くと、『精神安定剤』は姿を消していました。あの漫画を買う人間がこの辺りにいるとは思えないので、おそらく出版社に返品されたのだろう、と思いました。
その後バイトなどを始めて、ある程度金を自由に使えるようになってから、都内に遊びに来た折などに、本屋をあちらこちらと巡って『精神安定剤』を探し求めたのですが、不思議なことにどこに行っても売っておらず、調べてみるとなんと版元が倒産したとか。泣きそうになりながら古本屋を巡っても一向に見つからず、あげげと思ってがっかりしていたところ、なんと『ライフ』というイワモトケンチの新しい単行本が発売されました。喜び勇んで買い求め、貪るように読みあさりました。
『ライフ』の後書きには、漫画家イワモトケンチのファンであったぼくにとって、衝撃的な決意が表明されていました。もうマンガを書くのはやめて、本業である映画撮影を開始する、と。
そんである朝起きて、テレビでニュースを観ていたら、「元漫画家イワモトケンチさん、ベルリン映画祭で新人賞受賞」などというニュースが放送されており、たいそうたまげたわけであります。有言実行だなイワモトさん、と。
受賞したのは、『ライフ』の後書きに書いてあったとおり『菊池』という作品でした。当時まだ地元にいて、且つお受験などを控えていた僕は、東京の単館でのみ上映されていたその映画を観ることは出来ませんでした。今にして思えば、受験なんかよりも『菊池』を優先するべきだったのですが、ぼくもまだ若かったのですね。
大学に入学して上京し、一年ほど経ったある日、イワモトケンチさんの新作『行楽猿』が公開されました。もちろん、先行ロードショーを観に行きました。それまで僕が観てきた数少ない映画とは、質が全く異なる作品で、終了後もしばらく席から動くことが出来ませんでした。劇場を出ると、奇妙な風貌のイワモトさんが立っていて、勇気を出して話しかけようとしたのですが、あまりにも佇まいが恐ろしくて、話しかけることが出来ませんでした。
後日、『菊池』と『行楽猿』の両方を観た方から、『菊池』は『行楽猿』の数倍おもしろかったと聞いたとき、やはり『菊池』は観に行くべきだったと、心から後悔しました。
その翌年、今度はテレビで『CONFIG.SYS』という、複数の監督によるショートドラマのオムニバスが、イワモトさんの総合演出により放映されました。もちろんS-VHSで録画して永久保存版にしました。とても短くて連続性のないお話を連続して放映するという、現在の鉄割と同じようなスタイルのその番組を、当時の大学の同級生や先輩の中で唯一観ていたのが戌井さんで、この番組の話がきっかけで彼とはお友達になりました。あのきっかけがなかったら、友達になったかどうかは怪しいものだと、未だに思っております。
大学を卒業して都内に引っ越し、イワモトケンチの名前をすっかり忘れていたある日、近所にある小さな古本屋で本をあさっていたところ、あるはずがない本が目の前に現れました。真赤な表紙には、見覚えのある絵が描かれており、その上には白抜きで「TRANQUILIZER KENCHI IWAMOTO」とありました。本を持って手が震えたのは、後にも先にもあのときだけです。上京したての頃に探し求めていた『精神安定剤』が、ようやく手に入ったのです。
ぼくが人生の中で影響を受けてきたものの中で、イワモトケンチという方はとても特殊な位置にいると思います。中学、高校と、姉の影響もあっていろいろな漫画を読んだし、いろいろな音楽を聴いたし、いろいろな絵を観たし、いろいろな映画を観てきましたが、『精神安定剤』を読んだことによって、その後のぼくの進む道(というと格好悪いけど)が一気に折れ曲がったように感じます。今、ぼくが本を読んだり、映画を観たりすることによって得ようとしている「何か」は、昔本屋で『精神安定剤』を読んだときに感じた、絶対に言葉にすることはできない「あの感覚」なのだと思います。大人になってしまったぼくは、学生だった頃のぼくと同じように本を読むことはできません。「あの感覚」は、おそらくあの時にしか得られない感覚だったのでしょう。けれども、今のぼくにしか感じることの出来ない「あの感覚」は確実にあるはずで、それを探し続けているのです。
それで、イワモトさんのことを思いだしたついでにYahooで検索をしてみたところ、イワモトさんのサイトを発見しました。
以前に観たときは日記が掲載されていたのですが、現在はリニューアル中とのことです。早く再開しないかしら。一ファンとして、とても楽しみです。
『菊池』を作った時はとにかく全部がノーだったのです。ひとつもイエスはなくて、全ての現状にノーだったのです。パンク少年みたいなものです。(イワモトケンチ)
タイトルがどうしても思い出せないけれどももう一度観たい作品、ということで思いだしたのですが、超常現象を完全に否定するある大学教授が、心霊現象の原因を探って欲しいと招かれたある家で、世にも奇妙な体験をする、というストーリーの映画を数年前に観ました。イギリスが舞台で、映像がとても美しいのが印象的な作品だったのですが、タイトルド忘れ、監督ド忘れ、役者ド忘れ、でビデオレンタルに行ってもどこを探しゃいいのかわかりまへん。
そんなときはやっぱりGoogleです。「超常現象 否定 教授 イギリス 映画」で検索したところ、おー!出てきました。タイトルは『月下の恋』。プロデューサーはコッポラ。ビデオでは、原題に合わせて「ホーンテッド」にタイトルが変更されているらしい。早速ビデオレンタルで借りてきて観ました。
1928年のある日、超心理学を研究する大学教授デビッド(クイン)の元に、幽霊に取りつかれたという老婦人から相談の手紙が舞い込む。「幽霊など存在しない」という持論のデビッドは、彼女の住むウエスト・サセックスの屋敷を訪れ、若い娘クリスティーナ(ベッキンセール)と出会う。
イギリスの田舎の映像は美しいし、物語もぼく好みだし、映画全体の雰囲気もとても良く、やっぱり面白かった。ヒロインのケイト・ベッキンセールがとてもいい感じなのですが、服を脱ぐ瞬間にカメラが切り替わって別人のおっぱい!で、それがちょっと残念でした。別におっぱいが見たいわけではないけど。
ケイト・ベッキンセールって、もう少し売れても良いと思うのですが、やっぱちょっと地味顔なのかしら。一応、ファンサイトをリンク。
ニューズウィーク2002年12月18日号に、「もう止まらない、グーグル革命」というコラムが掲載されました。ニューズウィークのサイトでメンバー登録をすれば、記事のバックナンバーを読むことが出来ます。
上の記事では、Googleを利用して刑事事件の調査を行う人、昔の恋人の近況を調べる人、「Googleなしでノンフィクションの本を書くなんて、とても考えられない」と断言する作家、危ないところで命を助けられた人など、ほんまかいなと突っ込みたくなるような人がたくさん紹介されています。まあ、一度Googleの便利さを知ってしまうと、他のロボット型検索エンジンを使う気にならないのは確かだけど。
雑誌『本とコンピュータ』2002年冬号には、『Googleに頼りすぎるな』という記事が掲載されています。これはまあ、さほど面白い記事でもなかったのですが、要約すると、ページランクによって検索結果の表示順が決定するGoogleを利用することによって、ユーザが「Googleをとおしたウェブ世界の見方」に閉じこめられてしまう、だからもっとメーリングリストなど人のつながりを大事にしなさい、という、ぼくの大嫌いな「あなたたちは馬鹿だから、もっと私のまねをしなさい」的な、いわゆる立花隆調記事です。
Googleを絶対視も神聖視もするつもりはさらさらありませんが、良くも悪くもGoogleのこの二年間の躍進ぶりは凄まじいものでして、ぼくもネットを使う日でGoogleを使用しない日はおそらく一日もありません。だって、なにか知りたいことがあったら検索すれば山ほどの情報が手に入るのですもの。その内の九割がうんこ情報だとしても。
例えば、昔見た映画で、ものすごく見たいのにどうしてもタイトルが思い出せない映画があったとします。ぼく、すげー昔に観た映画で、大竹まことが出ていて、ホテルで見知らぬ女性と相部屋になってしまい、大げんかをするけど次の日にその女性がチェロを弾いているという作品があるのですが、それがどうしても観たくなったので、Googleで「大竹まこと 映画 チェロ ホテル」で検索したら、一発で出てきました。『ボクが病気になった理由』です。思いつくキーワードを入力すれば、それが「情報」であるかぎりは、だいたいは知ることが出来るのよ。
ところで話は少しそれますが、2002年7月にネットレイティングス社によって発表された検索語ランキングを見ると、一位が「Yahoo」で、二位が「2ちゃんねる」、「アダルト」は五位にランキングされています。先日ある友人から、このランキングは、アダルト関係の検索語が排除されたものだ、と聞いたのですが、この五位の「アダルト」とは別に排除されているのかしら。ぼくはてっきり、インターネットで一番利用されているのはアダルトサイトだと思っていたので、このランキングを見たときはちょっと意外だったのですが、アダルト関連が排除されているとしたら、ランキングする意味はあまりないような気が。
スタンフォード大学の大学院生二人の研究から誕生したGoogleの今年の収益金は、株式を公開していないにも関わらず、推定で一億ドルだそうです。わずか二年足らずよ。一時期のYahooやNetscapeを思わせる成長ぶりです。