

戌井さんに借りたデイヴィッド・グーディスの『ピアニストを撃て』読了。最高に面白かった。本当に面白かった。いわゆるパルプノワール系、セリ・ノワールの小説なのですが、始まりからラストまで、セリフも物語の展開もほとんど完璧なぐらい面白かった。話を要約すると、キレると恐いピアニストが、極悪兄弟のいざこざに巻き込まれて雪の中をにげまくるという、コーエン兄弟が映画にしたらとても良いコメディになりそうな物語ですが、笑いなどまったくなく、ハードにボイルドされた物語です。とにかくもう、物語の展開がうますぎてかっこよくて、突然に過去のフラッシュバックなどが挿入されるのですが、それがまた効果的で良くて、ぐいぐい引き込まれます。読み終わった後、気持ちがクールなピアニストになってしまって、実生活に戻るのに少々苦労しました。
このグーディスという作家の存在をぼくはこの小説で初めて知りました。調べてみると全部で20冊の長編小説を書いているのですが、翻訳されているのはこの『ピアニストを撃て(Down There)』と『狼は天使の匂い(Black Friday)』、それからすでに絶版になっている『深夜特捜隊』(Night Squad)と『華麗なる大泥棒』(The Burglars)の四冊だけ。ペーパバックでも良いので、他の作品も読んでみたいです。ちなみに、翻訳者をみると『バイク・ガールと野郎ども
』の訳者である真崎義博
さんでした。この人って本当に面白い小説ばかり訳してますよね。ハヤカワ文庫でもたくさん翻訳しているのに、『森の生活
』なんかも訳しているという、なかなか魅力的な翻訳者さんです。要チェック。
「なにが起こるって?何を言おうとしているんだ?」
「衝突よ」『ピアニストを撃て』より
グーディスの作品は映画化もたくさんされているので、ぜひとも観てみようと思います。とりあえずはトリュフォーの『ピアニストを撃て』を観てみましょう。

長島さんの新しい写真集『not six』の展覧会のオープニングパーティーに行ってきました。今回の写真集では旦那さんである南辻くん(鉄割の役者さんでもあります)がモデルになっているのですが、これがもう、ちょー素敵な写真集なのです。とても良い小説を読んだ後のような気持ちになりますよ。1月16日まで表参道のNadiffで写真が展示してあるので、鉄割リトルモア公演とセットで是非ともよろしくお願いします。
オープニングパーティー終了後、みんなでお食事に行きました。馬鹿な話とえろい話でとても楽しかったけど、人生をもっとがんばらなくちゃなーと、久しぶりに思いました。酔っ払ってると楽しいけどね、もっと充実するためにも、精進精進。
映画監督の矢崎さんの誕生日をお祝いをするために、山梨にある矢崎さんの実家へお泊まりに行きました。せっかくの遠出です、自転車で行かないわけにはいきません。
朝の六時に、自宅を出発して、目的地までは、片道160キロ。ひたすらに甲州街道を走ります。車も人もほとんど通らない大垂水峠をひいひい言いながら上って、相模湖で戌井さんと合流です。
下の写真は戌井さんのピスト車です。とてもかっこいい。固定ギアで長距離ツーリング、一緒に走るぼくの方まで気合いが入ります。
天気がとても良くて、走る道々がとても気持ちよい。いくら進んでもひたすらに昇り坂なのが少々気にはなりますが、紅葉を楽しみながら走り続けます。途中で朝食をとろうと思ったのですが、早朝ということもあってか、10km以上走ってもお食事処がありません。仕方がないので、唯一開いていた、というか開ける準備をしていたホウトウ屋さんで無理矢理にホウトウをいただきました。間違えてカレーほうとうなどというジャンクなものを注文してしまい、戌井さんに「旅情もくそもあったもんじゃありませんよ」と叱責されました。
大月を越えて、さらにひたすら西進します。途中、戌井さんをみると、髪の毛から体まで、シャワーを浴びたみたいにびしょびしょに濡れています。「いつのまにシャワーを浴びたのですか」と聞くと、「汗です、ばか野郎」とのこと。この人、脱水症状で死ぬのではないかしらと思いつつ、昼すぎぐらいに笹子に到着、いよいよ本日最大の難関、笹子峠を昇ります。
最初は峠を避けてトンネルを通ると言っていた戌井さんも、土地の雰囲気の良さにひかれたのか、峠をのぼることにしました。とはいえ、標高1000mを越える峠をピストでのぼるのは相当に大変なことです。ある意味、苦行です。心の中では、こいつきちがいじゃねえのとか思っていましたが、口には出しませんでした。
峠をおりたところで待ち合わせることにして、お互いのペースで峠をのぼります。人はほとんどいません。紅葉に彩られた山の細道を、ただただのぼり続けます。無心にペダルを回します。ああ、本当に楽しい。坂をのぼることがこんなに楽しいなんて、ぜんぜん知らなかった。このままいつまでものぼり続けたい。
しばらくすると、トンネルが現れました。旧笹子トンネルです。じつはぼく、トンネル恐怖症でありまして、トンネルに入ると、意識が遠のいてふらふらしてしまうのです。今では通る人の少ないこの笹子のトンネルには、電灯がついていないので、中は真っ暗です。電灯のあるトンネルでも意識を失いそうになるのに、そんなところに入っていって大丈夫かしら。戌井さんを待とうかとも思ったのですが、彼はピストですから、今ごろ峠の中腹でぶったおれているに違いありません。下手すると死んでいるかもしれません。そんな人のことを待っていても仕方がないので、とりあえずトンネルの中へ進みます。
けど、やっぱりやめておけばよかった。トンネルの中は、自転車のライトの光さえも飲み込んでしまうような暗闇で、足元すら見えません。がたがたとダートな感触に転ばないように、遠のきそうになる意識をどうにか保ちながら、数百メートルのトンネルを走ります。実際にはもっと短いのかもしれないけれど、とても長く感じました。
ようやくトンネルを抜けて、今度は下りです。のぼりは暑くて上着を脱ぎましたが、くだりは寒過ぎて手袋をはめました。死ぬほど楽しい。大声でサントワマミーを歌いながらくだり坂をかっ飛ばします。
そんなこんなで峠を越え、戌井さんと合流。ここから先はのぼりも少なく、緩やかな道のりになります。勝沼あたりでワインでも飲みましょうなどと言っていたのですが、ワインを飲めるところがまったくありませんでした。それでしかたなく中途半端な温泉に入って汗を流して、中途半端な定食屋さんでごはんを食べて、笛吹川に沿って南進、夕方五時すぎに矢崎さん宅に到着しました。
矢崎さんの家では、食い切れないほどの馬刺をごちそうになり、奥さんの手作り料理までごちそうになってしまい、お誕生日のお祝いにきたはずが、すっかりもてなされてしまいました。お酒を飲んでたらふく食べて、一日の疲れを癒すべくぐっすりと眠り、我が家以上に寛いでおやすみなさい。矢崎さん、お誕生日おめでとうございます。これからも鉄割共々よろしくお願いします。