02年05月11日(土)
(続き)
無尽無究の大宇宙の大宇宙のまだ大宇宙を包蔵する大宇宙を、たとえば顕微鏡一台買うてだに一生見て楽しむところ尽きず
南方熊楠に関しては、神坂次郎の「縛られた巨人」という作品があります。
「クマグスのミナカテラ」が、史実を基にしたフィクションだとしたら、こちらは正確な資料をもとに、熊楠の実像に迫ったノンフィクションです。

「クマグスのミナカテラ」では、クマグスが明治24年にキューバにたどり着いたところで終了しています。
その後クマグスはアメリカに戻り、さらにロンドンに渡ります。
ロンドンでは、毎日のように酒を飲み、反吐をはき、自ら「馬小屋の二階」と呼んだ汚い下宿で、AからQまでしかない字引を使って書いた論文を科学雑誌「ネイチャー」に発表、大英博物館で嘱託職員として勤務、膨大な数の資料、文献を読みあさり、勉学に励みます。
当時はとにかく金がなくて、自分で浮世絵などを描いて売ったりしてなんとか糊口を凌いでいたようです。
それでも、土宜法竜や孫文など重要な人とお友達になったり、オクスフォードやケンブリッジの大学教授になることを夢見たりしますが、大英博物館のしゃれたイギリス人に侮辱されてぶん殴ってしまい、その一年後にもしゃれたイギリス人につばをぶっかけぶん殴ってしまい、大英博物館を辞することになります。
それで日本に帰ってくるのですが、父は既に亡くなっており、実家の酒屋の跡を継いだ弟とその嫁との折り合いが悪く、熊野にこもり、1916年に田辺に居を移すまで、そこで粘菌類、藻類、菌類、植物類などを丹念に採集、研究に没頭します。

何だかかわいらしいのが、熊楠が40才で初めて結婚する前に、お嫁さんの顔見たさに、子犬ほどもある丸々と肥えた灰猫を抱いてお嫁さんの家に来て、ちょいと猫を行水させてくれ、と言って猫をお嫁さんの家で行水させて帰り、また次の日には別の猫を連れて、ちょいと猫を行水させてくれ、と言って来たりと、なかなか純情なところもあるのです。

しかし、この熊楠という方、酒と喧嘩が大好きという無頼漢なのですが、にもかかわらず学問に対する情熱はほとんどキチガイ入っておりまして、当時はコピー機などというものがありませんから、子供の頃よりとにかく書を筆写するする。
子供の頃は、中村テキ斎の「訓蒙図彙」を読み、それを記憶して帰宅後に反古の裏面に筆写、さらに「和漢三才図会」百五巻、李時珍の「本草綱目」五十二巻二十一冊、貝原益軒の「大和本草」、「日本紀」「諸国名所図会」、「大雑書」「節用集」、さらに「太平記」五十冊を読破、筆写。
ロンドンでは、大英博物館の蔵書を読破、「ロンドン抜書」全五十二巻一万八百頁を五年がかりで書き上げています。

さらにこの方のすごいところは、例えば絶対にその場所で見つかるはずのない藻類などを、夢の中で亡き父親がその存在と場所を教えてくれたり、あるいはふと突然に、日本では存在し得ない藻類を「隣の裏の田水にあり」と感得し、発見したりすることです。
人類の中にたまにいるんですよね、こういう天才。天才とは、こういう直感を持った人のことをいうのです。
ここに一言す。不思議ということあり。事不思議あり。物不思議あり。心不思議あり。理不思議あり。大日如来の不思議あり。
余は、今日の科学は物不思議をばあらかた片づけ、その順序だけざっと立て並べ得たることと思う。(人は理由とか原理とかいう。しかし実際は原理にあらず。不思議を解剖して現象団とせしまでなり)心不思議は、心理学というものあれど、これは脳とか感覚諸器とかを離れずに研究ゆえ、物不思議をはなれず。したがって、心ばかりの不思議の学というもの今はなし、またはいまだなし。
次に事の不思議は、数学の一事、精微を究めたり、また今も進行しおれり。論理術なる学は、ド・モールガンおよびブール二氏などは、数理同然に微細に説き始めしが、かなしいかな、人間というものは、目前の功を急にするものにて実用の急なきことゆえ、数理ほどに明ならず、また、修むる者少なし。
(中略)
今の学者はただ箇々のこの心この物について論察するばかりなり。小生は何とぞ心と物が交わりて生ずる事(人界の現象とみて可なり)によりて究め、心界と物界とはいかにして相異に、いかにして相同じところを知りたきなり。
それでこの本を読み終えたあとに、下のサイトを見たのですが
■南方熊楠資料研究会
このサイトは、現在も進行形の熊楠研究のサイトでして、「縛られた巨人」では書かれていないこと、あるいは「縛られた巨人」で書かれていることと反対の事なども書かれていて、特に「南方熊楠邸調査の報告」などは、熊楠の所蔵していた書籍の書き込み等まで細かく調べていたり、研究内容だけではなく熊楠自身の人間性などにも触れていて、熊楠に興味のある人にはたまらないのではないでしょうか。

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大根雄
栃木生まれ。
鉄割パソコン担当。
いたりいなかったりする。

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