
04年05月06日(木)

最近、どうにも体が怠け気味なので、できるだけ走るようにしているのですが、帰宅してから走るとなるとどうしても深夜になってしまい、そんな時に走りながら聞いているのが深夜12時からJ-waveで放送しているZero-Hourという番組です。この番組は、週ごとに一冊の本を選んで、朗読をするという番組なのですが、マラソンをしながら聞くととても良い感じです。今週は作品は、宝生舞さんの朗読で、林芙美子さんの紀行集『下駄で歩いた巴里』。宝生舞さんの声で聞く林芙美子さんの文章に、最初は違和感を感じたものの、聞いているうちにそれがなんとも心地よくなってきて、たとえば、
ところで、今朝はね、紅い封筒の厚い銀行からの手紙をもらったのですよ。まるで御伽話でしょう。巴里で打った電報に改造社から言っただけの金を送ってきたのです。全く奇蹟です。私は何も手につかなくて、豹のようになってしまいました。人間にはなかなか複雑な現象があるものです。ピヤノのふたをあけて、一直線に指を走らせましたが、私の今の心のままに鳴ってくれないのです。まるで、井戸の底へ石を投げるようだ。軽い、風の吹くような音というものはこの世の中にはないものでしょうか。私は思いきりこのピヤノをけいべつしてやりました。(番組では若干省略されていました)
なんていう素敵な手紙の文章を読み上げる室生さんの声があまりにもかわいらしくて、特に最後の「私は思いきりこのピヤノをけいべつしてやりました」が素敵で、ピアノをけいべつするその気持ちにも強く共感できて、走りもおのずと早くなります。という話を戌さんにしたところ、「おめえ夜中に走ると死ぬぞ!」と諌められました。
ところで、小説の朗読で思い出したのですが、アメリカの作家トバイアス・ウルフは、ある農民と話をしたときに、次のような話を聞いたそうです。その農民は、農作業のできない冬などに、いろいろな作家の短篇小説を図書館から借りてきて、自分で作品を朗読してテープに録音し、春になるとそれを聞きながら農作業をしている。面白いものは何度もくり返し聞き、つまらないものは消去し、そうやって彼なりのベスト・コレクションを作っている。トバイアス・ウルフが喜んだのは、その彼のコレクションの中に、彼の作品が残っていたことだそうです。
そんな風に小説を愛したいものです。