
04年08月10日(火)
今月号の文學界の特集は『村上春樹ロングインタビュー「レイモンド・カーヴァー全集」を翻訳して』。村上春樹氏がレイモンド・カーヴァー
の全集の翻訳に着手して十四年、とうとうたったひとりで、カーヴァーのほぼすべての作品を翻訳してしまいました。年内、は無理だと思うけれど、来年中ぐらいにはこの全集を読破したい。
それにしても十四年。その間に村上春樹氏は、カーヴァーと出会い、彼の死に直面しました。氏とカーヴァーの関係は単なる作家と翻訳家以上のもので、ぼくたちはカーヴァーを読むと同時に、常にその背後にいる村上春樹を読んでいます。そういう意味でこの全集はふたりの共著と言っても良いのかもしれません。
僕はいま五十五歳だから、カーヴァーの最晩年でも、五つ年下なわけですね。こちらが年下だった時代の読み方と、年上になってからの読み方が微妙に違ってきます。昔はただ見事だなと感心していた作品も、今読むと「そうか、カーヴァーも精一杯がんばっていたんだ」と、心をふと打たれてしまうところがあります。昔にはわからなかった心の動きの瑞々しさが、今なら見えてくるというところもあります。そういう意味では彼の場合、完成された作品でも、決して閉じてはいないんですね。だから若々しさが、そのままのかたちで残されている。同じように個人的に愛好する作家でも、たとえばフィッツジェラルドなんかだと、ある意味では最初から固定されてしまった存在なんですね。ずっと昔の、歴史上の人だし。でもカーヴァーの場合は、僕の目の前で実際に動いてた人だから、余計にそういう時間差の感覚みたいなのが強くなるのかなあ「村上春樹、レイモンド・カーヴァーについて語る」より
THE COMPLETE WORKS OF RAYMOND CARVER
〈1〉頼むから静かにしてくれ
〈2〉愛について語るときに我々の語ること
〈3〉大聖堂
〈4〉ファイアズ(炎)
〈5〉水と水とが出会うところ/ウルトラマリン
〈6〉象・滝への新しい小径
〈7〉英雄を謳うまい
〈8〉必要になったら電話をかけて