04年08月19日(木)
夏休み明けから自転車通勤を始めちゃいました。朝目を覚ますとまず窓を開けて、気温と天気と風を確認します。ちゃり通勤にとって一番困るのは逆風です。風がない日は一安心。なんだかこんな自分、以前にもどこかで経験しているような気がします。そうだ、リック・バスの素晴しい短篇小説『見張り』に登場するジェシーの行動だ。
朝目ざめると、ジェシーはまず空模様を点検した。それから、裸のまま裏手のベランダに出て、風を調べる。風がなければリラックスし、自分の人生に満足した。もし少しでも風があると、毛を剃ったくるぶしや丸っこい脚をかすかに撫でるだけでも、にわかに険悪な、思いつめたような顔になって、家に戻ってコーヒーを淹れた。いったん風が吹いたら、もうその日は絶対止まない。朝のうちに微風だったら、昼過ぎにはかならず本物の強い風に変わっている。野原の温度が上り、冷えて、また元に戻る。自転車用ウェアみたいにつるつるの空気の塊が、滑るように自転車を行き来し、木々のあいだをくねくねと通り、吹き抜けられる場所を探し、もっとも抵抗の少ないルートを求めながら進んでいく。リックバス『見張り』より
以前から大好きな作品ではありましたが、今こうして自転車を乗るようになってから読み返してみると、これまで単なる脇役だったジェシーの存在が、なんとまあ素敵でおもしろく感じることでしょう。物語の主人公は、ホリングズワースでもバズビーでもなくて、このジェシーだったように思えてきます。「風がなければリラックスし、自分の人生に満足した」という気持ち、とてもよく分かりますよ、ジェシーさん。風が吹いている日には、とりあえずコーヒーを淹れる気持ちも、とてもよく分かる。ただその前に、部屋着ぐらいは着た方がいいと思う。
あいつらきっとみんなオカマだ、か弱い奴らさ、何しろこんななよなよした女々しい名前をつけられちまうんだからな、とホリングズワースは考えた。でもジェシーのことは好きだった。そしてそれ以上に、ジェシーの自転車が好きだった。黒のシュウィン。重くて古いその自転車に乗ったジェシーは、フランス人たちについていくのにひどく苦労していた。
ジェシーの乗っていたこの黒のシュウィン、是非とも見てみたい。そして乗ってみたい。