04年07月07日(水)

 Amazonに注文しておいたAdrian Tomineの新作(といっても、今までの未発表の作品集だけど)『Scrapbook: Uncollected Work: 1990-2004』が到着。うれしー!

 夜、映画『21グラム』を観に行きました。監督は『アモーレス・ペレス』のアレハンドロ・ゴンザレス・ポコチン・イニャリトゥ・ハニャリテゥ・オーマンチン(嘘)。『アモーレス・ペレス』も面白かったけれど、この映画の方がずっと良い。この監督って、街の撮り方が半端なくかっこいい。

 この映画では、心臓の移植と患者の術後の変化が物語のキーワードのひとつになっているのですが、つい先日読んだ本(たしか『脳天観光』だったような)でも、心臓の移植を受けた患者の性格や記憶に変化が生じるという話を読みました。実際のところはどうなのかわかりませんが、心のすべてを脳に還元する悪い意味での「唯脳論(なんでもかんでも脳の機能で説明しようとするおばかちん)」よりは、よほど納得のいく話のように思いますが、いかがでしょう。

 それで今、書きながら先日図書館で読んだ吉本隆明氏と中沢新一氏の対談を思いだしたので(『群像』2004年1月「心と言葉、そのアルケオロジー」)、上の話とはあまり関係がないのですが、「脳」と「心」というものの考え方として興味深かったので引用します。対談の中で吉本氏は、遺伝子考古学の啓蒙書を読んでいて発見したことについて話しています。

吉本 (啓蒙書の著者は)臨床心理学を専攻している自分の学生さんたち百人を選んで、人間の脳と人間の心とは関係あるかどうかという質問を出した。そうしたらば、二十パーセントか三十パーセントか、そのくらいの学生さんは、人間の心の働きと脳のメカニズムとのつながりは、そんなの関係ないんだと言ったというんです。

 もちろん、この啓蒙書の筆者は、臨床心理学をやる学生が「百人のうち二、三十人も関係ないというのは、要するに、余りに観念的で、非科学的だと結論づけて」います。しかし吉本氏は、このことを逆説的に「人間の脳の働きと心の働きとは全然関係ないんだと言えるまで人間が進化してきたことは、考え方として随分進んできたことを意味するんじゃないか」と言います。

吉本 (啓蒙書は)関係ないなんていうのは観念論で、関係あるに決まっているんだ、関係あることは前堤なんだという言い方をしているわけです。それは全部。だから、きっと十冊読めば十冊ともそう書いているんじゃないかと思えるんだけども、関係ないように思えるようになったことは、まさしく人間だからだと言いたいほど、関係ないように思える方が妥当な見方なんじゃないかな。ぼくはそういうふうに思えてしようがなくて、専門家が書いた啓蒙書はちょっとおかしいんじゃないか。

 ここで吉本氏は、脳と心が実際にどのような関係にあるのかは問題ではなくて、「そんなこと関係ないと思えるまで本当にわからなくちゃった」こと、つまり、「これがつながっているなんて意識することもなくなっちゃったという方が、脳の働きはずっと進化してきている」と断言します。すごいでしょ。かっこいいでしょ。

吉本 一般に、レーニンが言う唯物論は本当の唯物論じゃないというのはおかしいけれども、それは表面だけで眺めて、ほら、脳の作用と関係あるじゃないかと言っているだけで、そんなことはどうでもいいと言ったらおかしいですけど、そんなことは当たり前と言えば当たり前だし、どうでもいいと言えばどうでもいいので、ただ、それが別々であるかのごとく思えるようになった人が、専門的な学問をやっている人で百人中に二、三十人もいるということは、一種の全体性みたいなものが脳の働きの中でできてきて、それは個々の細胞のある部分だけが励起したから、そう思えるということじゃなくて、何となく塊として評価していい部分、いい様相ができたから、関係ないように見えるということなんじゃないかなと思いました。

 こういうことをさらりと言ってしまうから、吉本さん好きです。


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大根雄
栃木生まれ。
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