

なにやら空がどんよりと。
図書館で、文學界やら群像やら新潮やらを読んで過ごす夕方、今月号の文學界は内田百けんさんを特集している。しかも、大好きな松山巌さんが百けんさんについて座談してるし。わお。
座談会の中で松山氏は、百けんさんの文章について、少なくとも二十代を過ぎて暇にならないと分からない面白さ、と言っている。それを読んで思ったのだけど、例えばぼくが今、百けんさんの文章、特に随筆などを読んで面白いと感じるのは、奇妙なおやじがいるなあという風な、いわば百けんさんとその文章を外から眺めたような、少し距離を置いた楽しみ方で、その奇妙な面白さを楽しんではいるけれども、それは身に染むような楽しみ方ではなくて、例えば漱石の小説や随筆を読んだ時のような体が震えるほどに身に染む感じを、百けんさんの文章から感じることはあまりない。それを感じるには、松山氏の言うように、ぼくはあまりにも(精神的に)若過ぎるのかもしれない。この距離を隔てた楽しみ方が嫌かと聞かれればそんなことは全然ないし、あと何年かしてあらためて百けんさんの文章を読んだ時に、それまでと異なる面白さに気付いたとしたら、ああわたしもとうとうこの面白さが身に染む歳になったのかとしみじみ実感するのでしょうから、それはそれで楽しみだし、若合春侑さんも今回の特集で書いておりますが、百けんさんの作品のすべてを老後にゆっくりと読みたいと思っているわけです。そんなわけで少しでもひねくれた翁になるべく、日々を精進。
ニキ・カーロ監督『クジラの島の少女』を観ました。伝説と伝統に生きる、マオリ族の一家に生まれた少女のお話。物語もキャストも演出も、最高に良い映画でした。こういうほのぼのとした映画、大好き。おじいちゃんの大人げない振る舞いがむかつきを通り越してかわいい。良い映画を観ると、帰りの電車まで楽しくなる。