02年07月19日(金)
ちょっと古いニュースですが
■「ムーアの法則は続く」——Moore氏、勲章を手に語る

 「ムーアの法則」とは、「チップに集積されるトランジスタの数は2年(18ヶ月じゃなかったけ?)おきに2倍になる」という恐ろしい法則でして、ぼくなんかはもうパソコンの技術の進歩は止まってしまっても良いのではないですか、と思っているのですが、いまだこの法則通りに進歩を続けているみたいです。

 パソコンの世界には、ビル・ジョイというとても偉い人がいるのですが、彼は「Why the future doesn't need us(未来は人類を必要としているか?)」というエッセーの中で「ムーアの法則」に言及して、「2030年までには現在のパソコンの100万倍の処理能力を持つマシーンがお目見えすることになりそうだ」と書いています。
 上記の記事によると、ムーア氏は「物質が原子でできているという事実から受ける制約は大きい」として、トランジスタの増加ペースの低減を示唆していますけれど、実際のところはどうなのでしょうね。100万倍のパソコンなんて、なにに使えばいいのかわからないわ。

 ところで、この素晴らしいエッセーは、Wired.comに掲載されたエッセーで、日本語の翻訳もMacLifeに掲載されました。
 最新のコンピュータ技術に携わる開発者であるビル・ジョイは、このエッセーの中で、その他先端技術の進歩を追及することよって生じる危険な側面を、さまざまな例(ロボット工学、遺伝子工学、GNRなど)を挙げて指摘しています。

 彼は、レイ・カーツウェルの著書『スピリチュアル・マシーン—コンピュータに魂が宿るとき』のなかで、彼の友人であり優れたコンピュータ設計者であるダニー・ヒリスが以下のように語っているのを読み、ショックを受けたと書いています。
誰もが自分の肉体が好きだし、私もそうだ。だが、もし200歳まで生きることができるのなら、シリコンの体に交換されてしまっても構わないと思う。
 現在のロボット技術は、人間のかわりに労働をするロボットを開発するという技術段階から、人間の意識をロボットにダウンロードして、人類に永遠の生命を与えようとする研究に発展しようとしています。
 人間の脳の構造を解析して、その状態をコンピュータ上に再現し、そこに人間の意識をダウンロードして近似的な不死を実現しようというのです。
 ビル・ジョイは以下のように書いています。
意識としての私たちがテクノロジーへとダウンロードされていくとなると、人類自身はいったい、どうやって人類でありつづけることができるのだろう。
 エッセーに書かれていることのすべてををここで説明することは不可能ですが、このエッセーの中でビル・ジョイが言っているのは、単なる先進的科学に対する根拠のない誹謗ではなくて、それらの技術の有用性は認めつつも、「ただ科学をやっているだけで、倫理的問題のことはお留守になってしまっていては困る」、それ故に「今後姿を現すと考えられる先進の技術に備えて、社会の準備を整える」べきであるということなのです。

 彼は、『森の生活』のH.D.ソローの言葉を引用して以下のように書いています。
「私たちが鉄道の上を通っているのではない。鉄道が私たちの上を通っているのだ(G.D.ソロー)」。これこそがいま、私たちが戦っていかねばならない対象だ。もんだいは、主導権を握るのがどちらになるのか、だ。人類は生き残れるのか。それとも生き残るのはテクノロジーなのか。
 映画『マンハッタン』で、「なぜ人生には生きる価値があるのか?」という質問に対して、ウッディ・アレンが自分自身の人生に価値をもたらしているものが何であるかを思い巡らせるシーンがあります。それは、グルーチョ・マルクス、ウィリー・メイズ、モーツァルトのジュピター交響曲第二章、ルイ・アームストロングの「ポテト・ヘッド・メイズ」、スウェーデンの映画、フローベールの小説「感情教育」、マーロン・ブランド、フランク・シナトラ、セザンヌ描くりんごやなし、サム・ウォーのレストランのカニ料理、彼の恋人トレーシー。

 ビル・ジョイは、続けて書きます。
人は誰しも大事に思っているものがある。そして、それを大事にすることによって、自分の人間存在の本質を知る。目前にある危機に人類はきっと立ち向かっていくはず、と私が期待するのは、つまるところ、人にはモノや人を大事に思うという、すばらしい能力があるからなのだ。
 このエッセーの分量は、Webで公開されているものを見れば分かると思いますが、結構長めです。ここでぼくが取り上げているのは、その中の本当にほんの一部、本当にさわり程度なので、これだけを読むと単なる科学批判のエッセーのように思われてしまうのではないかととても不安です。

 ところで、ぼくはエッセーというものが大好きで、下手すると小説よりもエッセーの方が読んでいるのではないかと思うのですが、エッセーの中でも、個人の考えや経験を滔々と書き連ねているだけのエッセーも確かに面白いですが、このように著者の博識がいやみではなく自然に挿入されているエッセーが大好きです。
 最先端の科学技術を説明するのに、アリストテレスからユナボマーまで、古今東西の様々な文献を参照し、彼の身近にいる優れた科学者達の発言を引用し、最先端技術に関する知識を全然持っていないぼくにでも理解できるように丁寧に書かれてあり、一度読み始めると止めることが出来ません。

 ぼくがもっとも愛しているエッセーは、トマス・ピンチョンの『Sloth(怠惰)』と、この『Why the future doesn't need us』なのです。

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大根雄
栃木生まれ。
鉄割パソコン担当。
いたりいなかったりする。

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