02年07月28日(日)
刺激のある生活を送りたくて、オリバー・ヒルシュビーゲルの『es[エス]』を観てきました。

 ドイツ映画は『ラン・ローラ・ラン』以来だな、と思いながら観ていたら、いきなり『ラン・ローラ・ラン』に出演していたモーリッツ・ブライプトロイが出てきたのでびっくり。『ラン・ローラ・ラン』の印象があまり良くなかったので、ちょっぴり不安になりました。
 けれども、そんなことはすぐに忘れて映画に集中してしまいました。もうね、映画を観てこんなに心拍数が上がったのはえらい久しぶりですよ。心臓がばくばく鼓動していました。本当に怖かった。つっこみたいところも多々ありますが、ここまでどきどきさせてくれれば文句はありません。

 さて、映画のストーリーですが
「被験者求む。模擬刑務所で2週間の心理テスト。報酬は4000マルク。」
始まりは、大学心理学部が出した小さな新聞広告だった…。ある日、その募集記事に目を留めたオレは、この実験に参加して詳しいレポートを書き、記者として復活を果 たそうと考えた。
 新聞に掲載された「被験者求む」の広告に集まってきた24人の男性たちが、実験という名のもとに、看守と囚人というふたつのグループに分けられて、二週間を刑務所と同じ環境で生活をすることになりました。
 実験の目的は、「正常な」人間の心理が、ある特定の状況下(この場合は抑圧する側(看守)と抵抗する側(囚人))に置かれた場合に、どのように変化していくのかを調査するというもの。当初は和やかな雰囲気で進行していた実験も、時間の経過とともに被験者達の精神状態が徐々に変化し、学者達の予想をはるかに越えた展開へと発展していきます。

 ストーリは、オフィシャルサイトでも読むことができますが、このサイトの方が詳しいですね。

 この映画の原作は、マリオ・ジョルダーノの『ブラックボックス』というフィクション小説で、1971年にスタンフォード大学で実際に行われた実験を基にデフォルメして書かれた作品です。このスタンフォード大学の心理学科が行なった実験は、最終的な結果こそ『es[エス]』と異なりますが、そこに行くまでの過程はほぼ同様で、学生を中心に集められた22人の被験者たちが、囚人と看守のグループに分けられ、『es[エス]』と全く同じルールで同じような環境のもと二週間を過ごし、その精神状態を観察するというものです。
 このサイトを読むと、その実験で被験者達に起こったことが、『es[エス]』の登場人物たちに起こったことと酷似していることが分かります。
 結局実験は、囚人役の被験者達の精神状態の悪化から、七日で中止となり、それ以降この実験は禁止されました。もしも七日以上実験が続けられていたら、あるいは『es[エス]』のラストと同じことが起こったかもしれません。

 このスタンフォード大学の実験の様子は、Webとビデオで公開されています。なかなか衝撃的ですよ。
■Stanford Prison Experiment

 『es[エス]』のサイトでも言及していますが、スタンフォード大学の実験と同様に、心理学上で有名な「アイヒマン実験」というものがあります。アイヒマンとは、ユダヤ人の無差別大量虐殺を事務的に処理していった、ナチスの有能な官吏の名前です。
 アイヒマンは戦後の裁判で、「私はただ上官の命令に従っただけだ」と主張しました。彼自身の思想や、善悪の感情に基づいて行なった行為ではないと弁明したのです。

 「アイヒマン実験」は、「正常な」人間が如何にたやすく善悪の判断無しに、「状況の力」に服従するかを調べる実験でした。ただし、被験者達にはその実験の目的は伝えられていません。彼らには「罰を与えることによって、生徒の学習能力があがるかどうか」を調べるための実験だと伝えられています。
 最初に、被験者をそれぞれ実験者、教師、生徒という三人に役割します。実験者の役は実際の学者が担当し、教師役と生徒役にはそれぞれ一般の被験者に担当してもらいます。
 まず、教師役が生徒に問題を出します。生徒が問題を間違えると、教師は電流を流します。流される電気の量は徐々に増やされていきます。
 生徒役の被験者は、電気が流されると大声で叫びます。実際には電気は流れていないのですが、そのことは教師役には伝えられていません。生徒役が質問の答えを間違えるたびに、電流のレベルはあがっていき、それに合わせて生徒役の叫び声も激しくなっていきます。
 教師役は、電気が実際に流れていると思っているので、叫び声を聞くと電気を流すことを躊躇します。しかしすぐに隣にいる学者が「大丈夫です、電気を流して下さい。」「そうすることが必要なのです。」「迷うことはありません。」などと、電気を流すことを促します。

 実験は、教師役40人中、電気を流すことをやめた人は0人という結果に終わりました。教師役全員が、実験者に促されるままに生徒に電気を流し続けたのです。実験終了後、教師役の被験者にこの実験の真意を伝えると、被験者達は口々に「私はただ実験者の命令に従っただけだ」「実験だから、言う通りにしないといけないと思った」などと弁解をしました。

 僕はこの実験のビデオを実際に観たことがあるのですが、教師役の被験者達は躊躇しながらも電気を流し続け、生徒役が悲鳴を上げると動揺のためか笑っている人さえいました。「これは実験だから」という考えが根底にあったために安心していたということも含めて、「状況の力」の恐ろしさ、その力によって、普通の人間が個人の善悪の価値観を越えた行動を起こしてしまうことの恐ろしさを強く感じました。もちろん、ぼくという個人も含めて。

 この「アイヒマン実験」に関しては、S・ミルグラムの『服従の心理(アイヒマン実験)』という研究書に詳しく書かれています。

アイヒマン君

 どうにもこうにも、より良く生きるということは難しいものです。

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大根雄
栃木生まれ。
鉄割パソコン担当。
いたりいなかったりする。

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