02年11月04日(月)

 黒沢明の遺作『まあだだよ』を観ました。

 数年前にも一度観ているのですが、内容を100%忘れていたので、改めて観てみました。内田百間(『けん』の字違います。後述。)という人に興味があったということもありますが、すげーおもしろかった!

 実際のところ、多少内田さんを理想化しているような感じを受けないでもなかったですが、尊敬される先生とそれを慕う生徒達の交流は観ていて気持ちが良かったし、中島君も言っていましたが、「魔阿陀会」のシーンなんかは会の盛り上がりなんかは、相当によろしいのではないかと。観ているとなんだかわくわくしてしまいます。

 それで、ものはついでということで、以前から興味を持っていたけど読んでいなかった百間さんの本を購入してきました。こういうことって勢いが大切ですから。今年に入ってから出たばかりの『百鬼園随筆』と、岩波文庫の『東京日記』の二冊。『阿房列車』シリーズが面白いらしいのですが、まあ始めはここら辺が妥当でしょう。

 『東京日記』には『サラサーテの盤』という短編が収められています。内田さんの作品の中でも有名なものだと思うのですが、演奏の途中にサラサーテの声が入ってしまっている「チゴイネルヴァイゼン」という曲を収めたレコードをめぐるお話なのですが、これが静かな感じにちょっぴりホラーが入っていて、とてもおもしろかった。ホラーっていっても、全然ホラーじゃないのですけど。始まりと終わりがとても良いのです。始まり。がたがたと雨戸を揺らした風がやみ、静かになった夜。屋根の棟の天辺でコロコロとなにかが転がるような音がする。

宵の口は閉め切った雨戸を外から叩く様にがたがた云わしていた風がいつの間にか止んで、気がついて見ると家のまわりに何の物音もしない。しんしんと静まり返ったまま、もっと静かな所へ次第に沈み込んでいくような気配である。机に肘を突いて何を考えていると云う事もない。纏まりのない事に頭の中が段々鋭くなって気持ちが澄んで来る様で、しかし目瞼は重たい。坐っている頭の上の屋根の棟の天辺で小さな固い音がした。瓦の上を小石が転がっていると思った。ころころと云う音が次第に速くなって廂に近づいた瞬間、はっと身ぶるいがした。廂を辷って庭に土が落ちたと思ったら、落ちた音を聞くか聞かないかに総身の毛が一本立ちになる様な気がした。気を落ちつけていたが、座のまわりが引き締まる様でじっとしていられないから立って茶の間へ行こうとした。物音を聞いて向こうから襖を開けた家内が、あっと云った。
「まっさおな顔をして、どうしたのです」

 文体が淡々としていて、恐い話を書くぞ!という気負いがないので、とても読みやすいし、それが逆に幻想的な雰囲気を出していて、とてもおもしろかった。この『サラサーテの盤』は、鈴木清順監督の「ツィゴイネルワイゼン」の原作にもなってます。西岸良平の『鎌倉物語』第13巻の『沙羅砂阿手の盤』というお話も、この『サラサーテの盤』がヒントになっています。『鎌倉物語』、非常にゆるやかなペースで連載が続いていて、この間19巻が出てました。大好き。西岸。

 鉄割の中では内田さんを読んでいる方が結構いるようなので、今度面白いものを教えてもらおうっと。

うっちー

 ところで、ほらがい内田百間の紹介のページを見ると、「けん」の字がちゃんと出ています。「?フ」の字。これ、MacOSXだと見れたけど、OS9では見えませんでした。みなさんは見えますか。内田百?フ


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大根雄
栃木生まれ。
鉄割パソコン担当。
いたりいなかったりする。

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