02年11月16日(土)

ちくま書房が、内田百間さんの集成の刊行を始めました。

 この、ちくま文庫の集成・全集というのは、本当に嬉しいものです。ハードカバーで作家の作品をある程度まとめて読もうと思ったら、風呂に入って、洋服をきれいなものに着替えて、耳栓をして、携帯電話の電源を切り、三時間ぐらい瞑想して、コーヒーと紅茶を用意して、座り心地の良いイスに座ってからじゃないと読めないでしょう。
 文庫だったらうんこした後にはなくそとかほじりながら読めるし。どんどん全集の文庫版を刊行して欲しいものです。

 それでさっそく第一巻、噂の『阿房列車』を購入し、読み始めました。誰だったか忘れたのですが、百間さんといえば阿房列車でしょう、と言っておりました。戌の字だか、藤の字だか、そこらへんの方だと思うのですが。それで読み始めたらこれがすげーおもしれーじゃーん!!

 先日、太宰治の『津軽』などを読んで、それはそれで面白かったのですが、もっとバタ臭くない、愉快な紀行文学はないかしら、などと思っていたところでして、これこそまさしくぼくの求めていた紀行文学でございます。日本全国を列車に乗って行ってみよう、ただし到着したらそのまま電車で帰ってこよう、というのが『阿房列車』の概要でして、それだけでも十分にたまらないのですが、内田さんの書く文章がとにかく面白い。随筆の面白さで言えば、町田康も相当面白いとおもうのですが、内田さんの方が面白いのではないでしょうか。天然、っていうのですか、こういうの。旅行に同行するヒラヤマ山系君(平山三郎)というぼけ役とのやりとりが、とても素敵なのです。こんな旅行をしてみたい。

 で、具体的にどんな旅行かと申しますと、ぼくが説明するよりも、百鬼園先生が新潟で土地の新聞記者に無理やりにインタビューをされた、その時のやり取り読んだほうが解るのではないかと。

「もう少し話して下さい」
「何を話すのです」
「何でもいいです」
「頭の中が散らかっていて、なんにも話す事はない」
「新潟へなぜいらしたのです」
「なぜだか解らないが、来た」
「目的は何です」
「目的はない」
「何と言う事なく、ただふらりと、そう言う事もありますね」
「あるね」
「まあそう言う風にやって来られたとして、しかしこうして新潟に着かれた上は、これからどうなさるのです」
「どうするって、どう云う事」
「つまり、御計画を聞かせて下さい」
「そんな君、無理な事を云って、計画なぞと云う気の利いたものは、持ち合わせていないから駄目だ」
「何かあるでしょう。例えば明日はどうするかと云う様な事」
「それは今晩寝てから考える」
「新潟をどう思いますか」
「どうも思わない」
「何か感想があるでしょう」
「汽車が着いて、自動車に乗せられて、ここへきたばかりだから、ないね」
「萬代橋を渡られたでしょう」
「それは今渡ったばかりだからな。萬代橋は長いね、と云えば感想の一端になりそうだが、もうよそうじゃないか。下らないから」
「新潟は初めてですか」
「初めてではない」
「この前来られたのは、いつですか」
「それがはっきりしないのだが、何十年も昔の話で、大正十二年の大地震よりまだ何年か前の事だ」
「その時の御感想はどうでした」
「余り古い事なので、忘れてしまった」
「何か思いだして下さい」
「やっぱり萬代橋を渡ったが、木の橋だった所為か、今より長かった様な気がする」
「雪中新潟阿房列車」より

あほーれっしゃ

 わたくしの中で、内田さんブームが微妙な感じに燃え上がりつつあります。とりあえず、内田っちに見習って、あちらこちらに借金をして、そんで日本全国を旅してみませう。


Sub Content

雑記書手紹介

大根雄
栃木生まれ。
鉄割パソコン担当。
いたりいなかったりする。

最近の日記

過去の日記

鉄割アルバトロスケットへの問い合わせはこちらのフォームからお願いします

Latest Update

  • 更新はありません

お知らせ

主催の戌井昭人がこれまで発表してきた作品が単行本で出版されました。

About The Site

このサイトは、Firefox3とIE7以上で確認しています。
このサイトと鉄割アルバトロスケットに関するお問い合わせは、お問い合わせフォームまでお願いします。
現在、リニューアル作業中のため、見苦しい点とか不具合等あると思います。大目にみてください。

User Login

Links