03年04月27日(日)

 古本屋さんのただで持ってけコーナーで、1992年7月のSWITCHを発見しました。特集『ウィリアム・バロウズ[異境にて]』。へへ。もうけ。

 表紙を飾るギンズバーグとバロウズの写真、よく見るとふたりとも禅定印を結んでいて、とてもかわいい写真です。この雑誌が出版された時、お二人はもちろんご健在でしたが、ちょうどカウントダウンが始まった頃ですね。

なかよし

 特集は、バロウズの家にギンズバーグが遊びに行くというものなのですが、ギンズバーグ君がバロウズ君の家に入ると、さすがスーパーじじいです、ちょうどインディアンのシャーマンを呼んで、変な儀式やっているところでした。次の日に、その儀式のことなどを足掛りとして、ギンズバーグ君がバロウズ君をインタビューするのですが、その内容は儀式のことから映画『裸のランチ』のこと、最近読んでいる本のこととか、影響を受けた作家と作品、などに様々に言及していて、とても面白かったです。

ギンズバーグ「うーん・・・ウィルスっていったい何だ?」
バロウズ「うん、先ず第一に、特定の環境だけで生存できる細胞の寄生菌だ。」
ギンズバーグ「細胞の中に入っていく寄生菌。それじゃ、どういう風に、ウィルスという言葉を君は使っているの?」
バロウズ「ウイルスは、自ら自らを複写する。だが、文字通り、『言葉のための言葉』を複写するのみだ。ウイルスが複写するのは、ウイルス自体のイメージ、すなわち『言葉のための言葉』を複写するんだ。」

 その特集とは別に、ノーマン・メイラーの短中編『売春婦の亡霊についての聖話』が掲載されていて、今まで彼の作品は一冊も読んだことがなかったのですが、この短編はとても面白かった。先日Salon.comノーマン・メイラーの新作が紹介されていていて、新作と言っても過去の作品や批評、エッセイなどを未発表のものも含めて集成したものなのですが、この記事を読んでちょうど彼のことが気になっていたところで、バロウズもギンズバーグとの会話の中で、ノーマン・メイラーの作品を褒めていたことだし、良い機会なので彼の作品をまとめて読んでみようと思います。今の時代だからこそ『なぜぼくらはヴェトナムへ行くのか?』などを読んでみよう。

 他にもティモシー・リアリーやポール・ボウルズに関する文章とか、ロバート・クーヴァーの『女中の臀』の書評とか、なんだか時代を感じさせる内容が盛りだくさんで、池澤夏樹さんがヴォネガットとバースとピンチョンのことを書いているエッセイなども掲載されていて、八十年代のアメリカ文学ブームの最後の晩餐を目撃したような気持ちになりました。今ではなかなかないですよね、こんな特集。

 そんな感じで、ただでもらった本なのに相当楽しませていただいたのですが、その中で一番びびったのが田口賢司さんという方で、どうも小説家らしいのですが、この方の書いた文章がすごすぎて、ここ数年に読んだ文章の中でも相当衝撃を受けました。

 自分にとってもっともチャーミングなたたずまいをさがしながら、ぼくはワード・プロセッサーのキーボードをたたく。文学とか、小説とか、そういった「ライティング」へのアプローチはそうやってはじまり、いまも続いている。ほかにたいそうな目的はない。たったそれだけ。うまくいっているような気もする。ぜんぜんだめ、っていうかんじもある。
 だけど、チャーミングな方向はまちがっていないような気がする。耳の奥のほうで、ぼくはそう判断する。そこでは、ライ・クーダーのスライド・ギターやフラーコ・ヒメネスのアコーディオンや、トム・ウェイツのしゃがれ声が響きわたっている。なによりもぼくが、そんな耳の奥の住人たちの音楽を信頼している。心の底から愛してる。文学とか小説とかいったものへのアプローチは、彼らなしにはありえない。ほんのこれっぽちだって、ない。意味をなさない、といってもいい。ほくのなかでは、音楽を聴くという体験と文章を書くという体験が、キュートに癒着している
 愛とか悪とか、しあわせとかいじわるとか、すべて音楽から学んだ。もちろんいまも学んでいる。「ライティング」はその整理と編集のようなもの。ときどきややこしい気持ちにさせられるけれど、「ライティング」ってたのしいな、と思う。
 このアコースティックなマシーンは、そんなしあわせをめいっぱいアンプリフィケイションしてくれそうな気がする。耳のなかでビューティフルな昼寝ができそうだ。

 すごくないですか、この文章。「チャーミングなたたずまいをさがしながら、ぼくはワード・プロセッサーのキーボードをたたく」ですよ。「耳のなかでビューティフルな昼寝ができそうだ」ってなんですか。「音楽を聴くという体験と文章を書くという体験が、キュートに癒着している」って。癒着かよ!っと突っ込みいれたくなります。80年代がまだ抜け切れていない、微妙な時代だったのですね、92年。

 それでは、コンピュータのキーボードをたたくのにもタイヤードなので、チャーミングなうんこをして、ビューティフルにおやすみなさい。


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大根雄
栃木生まれ。
鉄割パソコン担当。
いたりいなかったりする。

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