
旅行の準備をするのは楽しいものですが、一番楽しいのは持っていく本を選ぶことです。
今回持っていこうと思っている本は、アントニオ・タブッキ『夢のなかの夢』、ラテンアメリカ文学のアンソロジー『美しい水死人』、川端康成『掌の小説』、ウィリアム・ギブソン『ニューロマンサー』、鈴木大拙『日本的霊性』、それとこの間Amazonから届いたばかりのジョン・リドリーの『愛はいかがわしく』などなど。ちょっと多いかしら。
アントニオ・タブッキの『夢のなかの夢』は、タブッキ自身が尊敬する、多くの芸術家のひとりひとりが見たであろう夢を、タブッキが想像して書き綴った短編集です。彼が夢を想像した芸術家は、ダイダロスからラブレー、チェーホフ、フロイトなど、さまざま。
最初に引用されている中国古謡がとても素敵で。
恋人の胡蝶の木の下に立ち、
八月の新月が家の裏手からのぼるとき、
もし神々が微笑んでくれるなら、
きみは他人の見た夢を
夢に見ることができるだろう。
『美しい水死人』というアンソロジーは、最近某友人からいただいたもので、収録されている作家のうちガルシア=マルケスやオクタビオ・パスなどはさすがに知っていますが、他の作家はほとんど知りません。かなりの絶賛とともに譲り受けた本なので、丁寧に読みたいと思っています。
川端康成の『掌の小説』は、以前にも日記に書きましたが、ウィリアム・T・ヴォルマンが強く影響を受けた作品です。ヴォルマンはこの小説にインスパイアされ、同じ手法を用いて「The Atlas」を書き上げました。ぼくはお恥ずかしながら未読なので、これを機に読んでみたいと思っています。かるくぺらぺらページをめくってみると、なかなかいい感じ。独立した短いお話が集合して、ひとつ世界を作り出す。ポール・オースターが同じ手法で小説を書いたら、すごく面白くなりそうだと思いませんか。
ウィリアム・ギブソンの『ニューロマンサー』は、なんで今更と思われるでしょうが、先日本屋さんで『90年代SF傑作集』を立ち読みしたところ、やたらと面白かったので、そこらへんの作品を読んでみようかと思っているのですが、実はぼくは80年代のサイバーパンクを全く経験していないので、せめて『ニューロマンサー』ぐらいは読んでおかなくてはいけないかな、と思いまして。ラオスで読むサイバー・パンクはなかなかおつなものではないでしょうか。
鈴木大拙の『日本的霊性』は、かなり昔から我が家にあるのに読んでいない本の一冊で、なんども完読をとチャレンジはしているのですが、毎回挫折してしまっています。旅行先のような、邪魔をするものがまったく存在しない場所でないと、これを読むことは不可能です。
実は、ぼくは相当昔から西田幾多郎という人の思想に興味があるのですが、彼の著書を読んでも全く理解できません。本当であれば、彼の著作を持っていくべきなのでしょうが、彼の作品は、たとえ旅行先であっても、難解すぎて読むことはできないでしょう。そこで、替わりというわけではありませんが、彼の親友でもある鈴木大拙さんの本を読もうという思惑でもあるのです。
長々と書いてしまいましたが、実際に旅行に持っていく本は旅行当日の朝になるまで決定しません。とにかく、こんなふうに本を選ぶことが、とてもとても楽しいのです。