02年08月11日(日)

 午前十時起床。シャワーを浴び、ホテルをチェックアウトする。今日の夜にバンコクを出るので、それまでの間荷物を預かってくれませんか?と尋ねたところ、それは出来ないとのこと。では、荷物を預かってくれる場所を知りませんか、と聞くと、知らない、 とそっけない答え。

かおさん

 昼間のカオサン通りは、欧米人で溢れてはいるものの、夜のような騒々しさはなく、必要以上の寂しさを感じることもない。雨期だというのに、湿気を全く感じない。気温も丁度よく、風が心地よい。しばらくぶらぶらと歩く。ノーンカイ行きの寝台特急に乗るのは今夜八時四十五分なので、それまでの時間をどうやって過ごすか考える。何度来てもバンコクはやることがない。それはバンコクのせいではなくて、都市に興味を覚えないぼくの性格のせいなのかもしれない。途中、荷物を預かってくれるゲストハウスを発見、荷物を預ける。その後、とりあえず食事をするために、適当なレストランに入る。

 一時間ほどレストランで読書をするが、なにをするべきか一向に思いつかない。このままだと一日ここで読書をしてしまいそうなので、とりあえずレストランを出て、適当に歩くことにする。昨日はチャイナタウンに向かったので、今度は逆方向に行ってみることにした。

 少し歩くと、サナーム・ルアンにでた。たくさんの屋台が並んでいる。中央には、イベント用の土台らしきものが組み立てられている。近いうちにお祭りでもあるのだろうか?道路の脇で、おっさんたちが輪になってボールを蹴りあっている。ボールを落とさないように、足でキャッチボールをしているらしいが、めちゃくちゃ上手い。落とすのは大抵若いやつで、年をとっているおっさんほど落とさない。

おやこ 途中、右手に入る道があったので、入ってみる。道の左手には仏教関係の店が、歩道には仏像やレリーフを売っている人たちが並んでいて、一般の人たちや僧侶達が群がっている。どうやらこの通りは、仏教系の方々の通りらしい。店を覗いてみると、仏教だけでなく、ヒンディー関係の書物なんかも置いてある。とても良い仏像も置いてある。CDやテープなんかも置いてある。明らかにトリップ系のCDなんかも置いてある。店を巡回しているだけも面白い。もともとが観光客を相手にしている店ではないためか、あまり英語は通じない。タイは仏像の国外持ち出しが禁止なので、良い仏像があったけど買うのはやめた。

 道を進むと、船乗り場に突き当たった。仕方がないので戻ると、途中「National Museum Bangkok」を発見。そういえば、バンコクで美術館や博物館に入ったことがないなと思い、入館してみると、思った以上に広い。敷地内に建物がいくつも建っていて、テーマごとに分類されている。パンフレットを見て、仏像関係のフロアーを探すと、「ASIAN ART」というコーナーがあるので、そこに行ってみる。

 ぼくは日本の仏像に関しては興味も手伝って多少の知識は持っているつもりだけど、東南アジア系の仏像に関してはほとんど無知に等しい。前回の北部旅行でも多少は観てまわったが、それ以降で観るのはこれが初めてかもしれない。わくわくしながら展示室に入ると、そこにはたくさんの仏像が並んでいた。

 こうして仏像を観ると、どうしても日本の仏像と比べてしまう。この博物館に展示されているだけの仏像で南伝系のすべてを総括するつもりはないけれど、たとえば顔に関して言えば、日本の仏像の顔はやはり美しいと思う。南伝系の仏像には、感情の繊細さを感じることができない。日本の仏像は、たとえば聖徳太子の時代、つまり日本に仏教が伝来してすぐの仏像に関して言っても、表情の微妙な美しさ、繊細さがある。もっとも、あの時代の仏像は、大陸の影響を思いっきり受けているし、あるいは大陸から渡ってきた仏像そのものなので、日本というよりは、大陸の仏像、大乗の仏像と言った方が良いかも知れないけど。

 とはいえ、これだけの数の南伝系の仏像を一度に観るのは初めてだし、博物館に納められているだけあって、なかなか良い仏像が揃っているので、さすがに興奮する。ロンパリの仏像がある。体型的にガネーシャっぽいその仏像は、大きなものと、小さなものとふたつあるが、その両方とも素晴らしい。ガネーシャを想像してもらうと分かりやすいが、頭がでかく、目がロンパリなので、多少コミカルな印象を受けるが、じっと目を凝らして観ていると、何とも言えない神々しさがある。これはなんという名前の仏像なのだろう。
 進むと、釈迦如来蔵と思われる仏像が続く。それらの両手の形が気になる。日本の仏像は、釈迦如来像に関して言えば、たいていの場合右手はこちらに手のひらを向け(施無畏印)、左手はひざの上において何らかの印を結んでいる。少なくとも、僕が観てきた釈迦如来像に関しては、ほとんどがそのような形をしていた。けれども、ここに並んでいる南伝系の釈迦如来像と思われる仏像は、右手を右膝の上に手のひらを下にして乗せ、左手は腹の下辺りに手のひらを上にしている。すべてがそうだというわけではないけれど、そのような形の仏像が非常に多い。これらの仏像は、釈迦如来像ではないのだろうか?そもそもこの印は、なんという名前の印なのだろうか?そういえば僕は、仏像のリリーフの指輪をひとつ持っているのだが、そこに描かれている仏像も同じような形をしている。特に冠を有するわけでもなく、光背を持つわけでもなく、特徴のある法衣を着ているわけでもない。やはり釈迦如来だとしか思えないのだが、もしかしたら、南伝系特有の如来像、あるいは観音像なのかも知れない。日本に帰ったら、調べてみよう。

 別のフロアーでは、手のひらをこちらに向けて、足を一歩後ろに引いている仏像を見つけた。これは一体どのような仏像なのだろうか。日本では、たとえば湖北の十一面観音などは、衆生を救おうと今一歩歩みでんとする姿が描かれている。それと比べると、この仏像は「ちょっと待った!」とまるで一歩引いているように見える。説明がほとんど書かれていないので、いったい何を描いているのか、検討がつかない。さらに、乳首が異様に立っている仏像もあった。奈良の興福寺の金剛力士像などは、乳輪が異様にでかくて 、セックスの時萎えるなこれ、などと思ったものだけど、それでもさすがに乳首は立っていなかった。どうして仏像の乳首を立たせる必要があったのだろう。知りたい。そして、この仏像は美しい。

*日本に帰国後、インターネットで調べてみたところ、以下のようなサイトがありました。
■タイの仏像(タイ語で書かれているので、読めません)
■東南アジアの仏像(日本語)

たとえば、ぼくが釈迦如来かどうかわからなかった仏像は、このページの上段に掲載されている形の仏像で、一歩引いている形の仏像は、同じページの真ん中より下ぐらいにあります。それらの仏像が一体どのような系統に属するのかは、まだ調べていないので分かりません。

 帰り際に、中央の建物に入ると、ガネーシャ特集をやっていた。フロアー全体がガネーシャで埋め尽くされている。そう言えば、さっき通った仏教通りには、仏教だけでなくてシヴァやガネーシャ、ヴィシュヌ神に関する書物やポスターもたくさん売っていた。一時間近くうろうろする。

おっさん 閉館ぎりぎりまで博物館を逍遥し、その後カオサンに戻る。マッサージを一時間程してもらい、荷物を受け取り、ファランポーン駅まで歩く。昨日歩いた道なので、道順は覚えている。今日は、結局一度もトゥクトゥクに乗らなかった。歩くと、いろいろなことを考えることができる。明日からも、出来るだけ歩くことにしよう。

 チャイナタウンで夕食をとり、八時にファランポーン駅に到着。駅の掲示を見ると、電車の遅れはないようだ。売店で水とお菓子を買い、電車を待つ。八時半に構内に入り、電車を見つけて乗り込む。

 八時四十五分、定刻通り電車が出発する。出発するとすぐに車掌が寝台を組み立てに来る。ぼくは上の台なので、寝台になると外が見れなくなる。仕方がないので『日本的霊性』と『姑獲鳥の夏』の続きを読む。『日本的霊性』は、思ったよりも過激で、「万葉集」などの平安文化の日本的宗教性を完全に否定している。「万葉集」を、「ただのなげきでしかない」「淳朴」だと断言する。さらに「思想において、情熱において、意気において、宗教的あこがれ・霊性的おののきにおいて、学ぶべきものは何もない」と身も蓋もない。なんだか心臓に悪い。『姑獲鳥の夏』に切り替える。昨日、三分の一程度まで読んだ。物語の中で、京極堂の語る存在や記憶、時間、そして幽霊に関する説は、真新しさはないもののとても面白い。そんな彼が量子力学について語る場面がある。
「量子力学が示唆する極論はーこの世界は過去を含めて<観察者が観察した時点で遡って創られた>だ」
 ぼくは、このセリフが気になって仕方がない。もちろん、この一文でもって量子力学を理解したとは思っていないし、理解できるわけもない。そもそも、この一文は京極堂が物語の語り手である関口に、ある事実を示唆するために極論的に言った台詞なので、どこまで真実なのか分からない。けれども、どうも気になる。

ぶっだー

 昨日あまり眠っていないせいか、やたらと眠い。明日はいよいよラオス入国。ようやく本当の旅行が始まる。今日はもう眠ろう。


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大根雄
栃木生まれ。
鉄割パソコン担当。
いたりいなかったりする。

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