04年06月10日(木)

 明日からの旅行にそなえてというわけではないけれど、堀辰雄の『大和路・信濃路』を読みました。もう何度読んだのか知れないほどに読みかえしたこの随筆(と恋人への手紙)は、今でも読む度に新しい感動を与えてくれます。ぼくにとって、とても大切な一冊。今の時代では、堀辰雄と言う作家はダサい作家の分類に入っているのかもしれませんが、ぼくはあらゆる意味において、未だにこの方の影響から抜け出すことができません。『雪の上の足跡』なんて、ほとんど暗記できるほどに読んでいるけれど、何度読んでも涙なくしては読めましぇん。こんなキザなチビが身近にいたら、絶対にいじめてしまうと思いますけれど。

さあ、わたしもあの石仏のことは何もきいておりませんが、どういう由緒のものですかな。かたちから見ますと、まあ如意輪観音にちかいものかと思いますが。……何しろ、ここいらではちょっと類のないもので、おそらく石工がどこかで見覚えてきて、それを無邪気に真似でもしたのではないでしょうか?
『大和路/樹下』

 「石工がどこかで見覚えてきて、それを無邪気に真似でもした」ような石仏に、奈良で出会えますように。そして恋人に手紙を書きましょう。未来の恋人に。

04年06月07日(月)

 どうやら梅雨が始まったようです。さっさと安吾に入りたいものですが、日々の繁雑な生活に追われる身としては、そういうわけにはいきません。本日も繁雑な私用のために銀座へ行きました。

 用事をすませた後、時間があったので、なにか映画でも観ましょうかと銀座をぷらぷら。最初にみつけた映画館で『みなさん、さようなら。』を観ました。映画としては、人によってかなり意見に相違が出る作品だと思います。映画の登場人物たちの人生や行動、主人公であるレミの最後の選択、あるいは全体に漂うスノッブな雰囲気などなど。けれども、ぼくはとても感動しました。

 物語は、余命いくばくもない父親レミと、破天荒な父の人生を許すことのできない息子セバスチャンと、その友人たちのお話。しんみりとしたお話かと思いきや、出てくるおじさんはホモとか巨乳好きばかりだし、出てくる女性も元やりまんだったりジャンキーだったり。主人公であるレミも、元は大学の教授ですが、手を出した女生徒は数知れずというやりちんおじさん。大学では歴史学を教え、キリスト教とナチスが大嫌いという素敵なじじいです。レミは、収入は少ないけれど、ワインと映画と書物と女性に囲まれた、とてもうらやましい人生を送ってきました。そして、とてもうらやましい最後を迎えます。

 前半は、レミとセバスチャンのやりとりがとても面白く、後半はレミの友人たちとの会話が絶妙です。雑談のひとつで、レミは人生で愛した女性について述べます。初恋の相手はイネス・オルシーニ。ムッチリとした白い太股を持つイタリアの女優。次に愛したのが、フレンチ・ポップスのアイドル、フランソワーズ・アルディ。次が女優のジュリー・クリスティ。その次がテニス・プレイヤーのクリス・エヴァート。そしてバレリーナのカレン・ケイン。頭の中で彼女たちと愛し合い、まあようするにオナニーをして、とても幸せだった、とレミは言います。ああ、なんかいいなあと思いました。そして最後、レミは薄れて行く意識の中で、イネス・オルシーニの映画のワンシーンを思い浮かべます。海に入って行くイネス・オルシーニ。はずかしげにスカートを捲くり上げ、その奥から美しい太股があらわれる。レミが初めてオナニーをした映画のシーンです(たぶん)。ただのえろおやじと言われてしまえばそれまでなのですが、その場面がとても良くて。うう。

 ちょっとだけ気になったのは、不治の病(劇中で病名は出てきませんでしたけれど、おそらく癌)におかされているはずのレミが、まるまると太っていてとても健康そうだったこと。それから、レミのために集まってくれた仲間たちにはこれから順にお迎えが来るわけですが、最後のひとりになってしまった方はとても寂しいだろうなとも思いました。それは、いやだなあ。

 帰りに、駅の構内から外を眺めると、空は晴れているのに小雨が降っています。雨の降り方がいい感じ。キツネの嫁入り、ってやつですね。

04年06月06日(日)

 今頃、鉄割の野郎共は関西で暴れているのだろうなーなどと考えると寂しく虚しく悲しくなるので考えないようにして、本日はカフェでゆっくりと読書の日。

 まず一冊目は、白洲正子著『かくれ里』。今から五・六年前、彼女の著作『十一面観音巡礼』におさめられている「湖北の旅」を読んで感動し、そのまま湖北へ十一面観音巡礼の旅行に行きました。そして旅先で恋に落ち、心に傷を負って帰って来たのです。というのは嘘ですが、今回はこの『かくれ里』を読んで、奈良の葛城あたりへ行こうかと思っております。京都はどこへ行っても人がごみごみとしているのでいけません。奈良の、観光地から離れたあたりの小さな村を、ゆっくりと散索したいと思っています。雨だけど。

 二冊目は久住昌之作・谷口ジロー画『孤独のグルメ』。本屋さんのお薦めコーナーに平ずみになっていたので買ってみたのですが、やられました。素晴しい作品です。物語は、主人公である井之頭五郎が、仕事で訪れた先の町々の飲食店で食事をするというだけのものなのですが、これが最高におもしろくて、最高にうまそうなのです。登場するお店は大仰な店ではなく、ほとんどがグルメ雑誌などには載らないような飲食店ばかり。井之頭五郎は常にひとりで、何を食べようか考えながら町をぶらつき、その時に思い付いた一番食べたいものを食べます。ぶた肉いためライス、廻転寿司、豆かん、焼きまんじゅう、シュウマイの駅弁、たこ焼き、焼き肉、江ノ島丼、ウィンナー・カレー、コンビニ・フーズ、デパート屋上のさぬきうどん、などなど。そして心の中でこっそりと(うまい)と思うのです。声には出さずに、余計な修飾語を付けずに。読んでいて面白いのが、この、食堂にたどり着くまでの、そしてたどり着いてからの井之頭五郎の心の中で、あれにしようかこれにしようかと考える心の独白を読んでいると、それだけでお腹が空いてきます。はらへった。

 うれしかったのが、井之頭五郎が石神井公園にも来ていることで、彼は公園を歩きながら「こりゃあ井之頭公園や代々木公園とはまるで違う雰囲気だ。やぱりどこの駅からも遠いし、近くに大きな繁華街がないせいかな。来ている客層が違うよ。年齢層もファッションも」などと思い、公園の休憩所「豊島屋(作品中では豊玉屋になっていましたけど)」でカレー丼とおでんを食べます。そして食後に一服、眠くなるのをこらえながら公園を後にし、帰りのバスのなかでうたた寝する。これです。石神井公園の正しい楽しみ方。なんだかうれしくなっちゃう。

 さらに巻末に掲載されている、「入ったことのない飲食店に入る時、ある種の『勇気』がいるのはなぜだろう」という書き出しで始まる久住昌之氏の『釜石の石割り桜』というエッセイがまためちゃくちゃ素敵です。この本、十冊ぐらい買って友だちに配ろうかしら。と思うぐらい、面白い本でした。全一巻じゃ物足りないよ。

 さて、ちょっと一休み。今号の『ku:nel』を読みます。宮脇彩という主婦の方の「ただいま食事中。」というフォト日記がとても面白い。というよりも、美味しそう。ああ、料理ができたら、ぼくの人生はもっともっと充実していたのだろうに。無器用で味覚音痴のこの身がうらめしい。

 その後はいろいろと調べ物や勉強の時間です。まったり、まったりと。一週間のうちで、一番に脳を酷使するとても楽しい時間。

 夜、今年初めての桃をいただきました。うまい。鉄割のやつらは今頃、まさにこの時、関西で暴れていることでしょう。悲しい。でも、桃がおいしいので幸せ。


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大根雄
栃木生まれ。
鉄割パソコン担当。
いたりいなかったりする。

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