03年11月21日(金)

 ネットの古本屋さんなどでよく買物をするので、郵便受けに冊子小包みの郵便物が届いていることは珍しくないのですが、ここ一週間ばかりは毎月好例の金欠の時期、本を注文した記憶はないのに、郵便受けに冊子小包み。差出人の名前をみても、はて、このような名前の友人は存じ上げません、しかしながら斎藤茂吉の切手がとてもかわいらしい。

 どこぞの古本屋さんに注文したのを忘れていたかな?と思いながら包みを開けてみると、以前にぼくが向さんにお貸しした本と木村敏著『異常の構造』が出てきました。ということは、包みに記されているこの見知らぬ名前は、もしかしたら向さんの本名なのかしら。今まで二つ三つの名前をお聞きしましたが、これはまた新しい名前。

 同梱されていた『異常の構造』は、やばいくらいに面白そう。表紙の「著者は、道元や西田幾多郎の人間観を行きづまった西洋流の精神医学に導入し、異常の世界を真に理解する道を探ってきた」という紹介を読んで驚いたのは、実は今週を通してぼくが読んでいたのが里見とん著『道元禅師の話』、秋月龍みん著『道元入門』、岩田慶治著『道元との対話』、鎌田茂雄著『正法眼蔵随聞記講話』などの道元禅師に関するものばかりだったからで、もちろん仏教の素養もないのにその偉大を理解など出来るはずもありませんが、しかし分からないなりにも得るところはあり、いろいろと思うところを探っていたときにこの『異常の構造』が届いたのは、どうにも偶然というよりも完璧な偶然のように思えて仕方がない。人はとかく因果に理を見つけようとするもの、道を外さないように、気をつけて、気をつけて。

 そういえば、以前に向さんに教えてもらった『猿の本—われらが隣人サルをめぐる物語』という本も面白過ぎて驚きました。もしもぼくが自由に本を編纂できて、かつそのような仕事への能力があったならば、このような本を造ってみたいと思いました。古今東西の文人才人の猿に関する文章が収録されており、頁の各下にはこれまた古今東西の素敵な猿の絵が判を押したようにぺたりとあります。収められている文章も、子母澤寛からフローベールまで、おもしろいものばかり。

それから女は酒を出して自分も飲み、猿にも飲ませました。すると猿めは立てつづけに十回ほども逸物をぬきさししましたので、女は悶絶してしまいました。猿はそのまま女の体に小蒲団をひっかけて自分の席にもどりました。そのときてまえは部屋のまん中へおどりこんでいきました。猿めはてまえに気がつくと、いまにもてまえの五体をずたずたにひき裂かんばかりの形相をしました。が、こちらはやにわに包丁をぬいてずぶりとお腹につきさしましたので、たちまち臓物が飛び出してしまいました。
『千夜一夜物語』より

 週末は、『異常の構造』を熟熟読して過ごしましょう。向さん、たぶん向さんだと思うのですが、ありがとうございました。大切にお借りします。

03年11月20日(木)

 朝、死ぬほど眠い。毎朝毎朝、死ぬほど眠い。もともと睡眠時間が少ないので、常に眠い人間だけど、ここ数週間の眠さは尋常でない。歩いていても眠い。電車に乗っていても眠い。仕事をしていても眠い。本を読んでいてもうつらうつら、勉強をしていてもうつらうつら、人と話をしていてもうつらうつら、食事をしていてもうつらうつら、どんな場所でもどんな時でも三十秒で眠れる程に眠い。体が冬眠しようとしているのかしら。眠いから、いつもカフェインを飲んでいるので、気分が悪い。でもカフェインを飲まないと、立っていられないくらい眠い。ところで、寒山と言えば昔の中国の素敵な詩人さんですが、これは有名な寒山図。

かんざん

 以前から思っていたのですが、鉄割の中に寒山さんがいませんか。笑顔の素敵な、とてもかわいい寒山さんが。

かんざん

 とにかく眠い。寝ても覚めても眠い。寒山も眠いし、拾得も眠いし、豊干も眠いし、虎も眠い。

かんざん

 夜更かししないでさっさと寝れば良いだけの話なのですけれど。

03年11月19日(水)

 保坂和志氏の最新作『書きあぐねている人のための小説入門』を買おうか買うまいか迷っていたのですが、本屋さんでぱらぱらとめくって立ち読みをしたところ、「小説の書き方」のような技術的な小説作法ではなくて、「小説を書くということはそもそもどういうことなのか」という内容のようなので、購入。

 保坂氏のデビュー作『プレーンソング』に言及して、内田百けんさんのことが書いてあったので、ちょっと引用します。なるほどと納得。

 内田百けんは小説も随筆のような感じだが、随筆もまた小説のような趣き(面白み)がある。随筆の名手と言われているある人から直接聞いた話しによると(個人的な会話だったので、名前は伏せておきます)、随筆やコラムをたくさん書かなければならなかった時期に、お手本として漱石、鴎外、荷風などいろいろな作家を真似てみたことがあったけれど、どれも型が決まっていて、すぐにマンネリに陥ってしまい、自分でも書いていて退屈してしまった。しかし、百けんだけは型らしいものがなく、自由で、いくら真似てもマンネリ化することがなかったと言っているくらいで、内田百けんの文章は何とも説明しがたい魅力に富んでいる。『阿房列車』の面白さは、電車に乗って窓から外を眺めているような、そのまま電車に乗っているような面白さだった。ついでに言えば、外の景色を眺める面白さに、同行者とくだらない話をしたり、駅弁を買って食べる楽しみも織り込まれている。
 私のデビュー作『プレーンソング』の直接のヒントは、『阿房列車』のこの雰囲気だった。

 夜、鍋島さんと戌井さんと戌井さんのいとこさんと御鮨を食べに。とても久しぶりの御鮨、がつがつ食べてしまいました。とても楽しかったです。いつもいつも、ごちそうさまです。


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大根雄
栃木生まれ。
鉄割パソコン担当。
いたりいなかったりする。

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