03年11月09日(日)

 遅い起床の日曜日。お給料をもらって初めての休日なので、どこかへ遊びに行こうかしらとも思ったけれど、天気が悪かったので一日を読書して過ごします。カフェイン飲んで、集中して。

 ここのところ、ギャング映画ばかり観ていてなんだか男気を刺激されてしまったので、垣芝折多著『偽書百撰』を読んで心をおちつけましょう。『偽書百撰』は「明治・大正・昭和の奇書・珍書・偽書百冊を総覧する奇想天外の書」でありまして、もしかしたらぼくにとって世界で一番面白い本かもしれません。

 例えば第六十九書『ホラや』。昭和十五年に慎重社より刊行、著者は家葉一軒。家葉氏の家に住み着いた犬でも猫でもないホラ噺をする「ホラ」。百けんさんの『ノラや』と同様に、楽しげな著者と妻とホラとの暮らしが綴られています。始まりも内容も『ノラや』にそっくりで、普通に考えればこの書は『ノラや』のパロディかと思いますが、選者である垣芝折多氏は次のように書いています。

だが、あらためて考えれば奇妙なことに気づく。百けんの『ノラや』は昭和三十二年の作品。本書はそれよりもずっと古い、昭和十五年の話だ。だとすると、これは『ノラや』のパロディではあり得ない。むしろ『ノラや』が本書のパロディということになる。

 百けんさんの『ノラや』と同様に、ホラも突然に姿を消してしまいます。もちろん著者は熱心にホラ探しをします。ホラが見つかったという情報を得て著者が出かけて行くと、「贅沢は敵だ」「八紘一宇」「臣道実践」「南進日本」「一億一心」「報国産業」などといった立派なシンジツ(この書は昭和十五年のもの)ばかり、中にはウソやデマもおりましたが、ホラは「どこにでもゐるありふれた駄ホラ」であり、夢の様に小さいもの。

 『ノラや』と大きく異なるのはその結末です。最終的にホラは帰ってきますが、以前のようにすばやく動くことはありません。

 ホラは以前の様に独り言も吐かない。只黙つてゐるばかりだ。
 ホラやホラやと呼んでも返事もしない。このまま生きのびるだらうと考へると、切なくて仕方ない
『ホラや』より

 タネを明かせば、垣芝折多氏の正体はぼくの大好きな方の偽名でありまして、さらにタネを明かせば、ここで紹介されている百冊はすべてその氏による創作であります。こんな素敵な偽書百撰を創作してくれた氏に、心より敬意を。偽のない世の中なんて、ちーっとも面白くありません。

03年11月08日(土)

 夜中深くまで飲んでいたので、ひっじょーに眠い。眠い目をこすってお仕事へ、存分に勉強できる環境がとてもありがたい。するしないは別として。

 お給料が入ったので、岩波から出ている西田幾多郎哲学論集を購入しておこうと思ったのですが、第二巻だけどこに行っても手に入りません。Amazonで注文しようとしたら品切れの様子。岩波のサイトで調べても、やはり品切れ。えー、まさか絶版ですか。古本屋さんを何軒かまわったところ、哲学論集は発見できなかったものの、『自覺に於ける直觀と反省』を発見、即購入。

 夜、『仁義なき戦い・代理戦争』と『頂上作戦』と『完結編』を連続で観ました。松方弘樹が何度も違う役で出てきて、何度も殺されるのでびっくり。映画としてとても面白かったのですが、話の展開がよく分からなくなってしまったので、『実録「仁義なき戦い」外伝—血の抗争の鎮魂歌』を読んで復讐ではなくて復習しましょう。

03年11月07日(金)

 夜中に『ノラや』を読んで、やはり泣いて、いつの間にか寝て、起きて家を出て電車の中で読んだら泣いてしまいそうなので読むのを止めていたのだけれど、思い出してやはり涙が出てくる。ノラを思う内田のじいさんのことを思うと悲しいのは当たり前だけど、家を出たノラがもしや迷子になって家に帰ることが出来ずに、内田さんや内田の奥さんのことを思って鳴いているのではないかと思うと、本当に悲しい。見たことも抱いたことも一緒に暮らしたこともないノラのことを思うだけで、これほどまでに悲しい気持ちになるのだから、ましてや共に生活をしていた内田のじいさんと奥さんはの悲しみはいかほどなのだろう。

猫は煙を気にする様である。消えて行く煙の行方をノラは一心に見つめてゐる。彼がもつと子供の時は、家内に抱かれてゐて私の吹かす煙草の煙にちよつかいを出し、両手を伸ばして煙をつかまえようとした。しかし今はもう一匹前の若猫だからそんな幼穉な真似はしない。ぢつと見つめて、消えるまで見届ける。
「こら、ノラ、猫の癖して何を思索するか」
「ニヤア」と返事をしてこつちを向いた。

 夜、看護婦さんたちとお酒を飲みに下北沢へ。阿呆ほど酔っぱらって気持ち良く、二件目へ、梅酒をがぶ飲み、とても楽しい会でございました。また遊びましょうね。


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大根雄
栃木生まれ。
鉄割パソコン担当。
いたりいなかったりする。

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