02年08月08日(木)

 本日八月八日は、日本を代表する民俗学者、柳田国男さんの命日でございます。

 柳田さんは、見かけによらず厳格な人でしたから、御年八十七歳になっても、食事をするときは正座をしてしっかりと御飯をいただきました。けれども、その日は少し様子が違いました。お食事をしていた柳田さんは、不意にパサッと倒れ込み、そのまま静かに息を引き取りました。享年八十七歳。大往生でございます。

燃えたものが灰になっても、灰のままその形を保っているときがある。その灰が崩れるように床の上にパサッと倒れてしまった。
鎌田久子さんの回想より

 柳田さんは、皆さんもご存知の通り『遠野物語』を編纂したお方でして、民族学者として有名ですが、もともとは文学を志していて、花袋君や島崎君、独歩君や有明君などと「イプセン会」なるサロンを開いたりもしておりました。しかし、柳田さんが文学を志した明治時代は、自然主義が文学の主流になろうという時代でして、私小説という文学形態が、柳田さんの周辺をどんどんと埋め立てていきます。さて、困りました。柳田さんは、自然主義的な狭隘の世界ではなくて、もっともっと広々とした世界のことに興味があったのです。

 明治四十一年十一月四日。柳田さんは遠野出身のストーリーテーラー佐々木喜善君と出会います。佐々木君は、柳田さんに故郷の伝承を伝え聞かせます。柳田さんは興奮しました。佐々木君の語るお話には、柳田さんが当時唱えていた「山男=異人種説」を解明する鍵になるような山人伝説が多く含まれていたからです。

 それだけではありませんでした。佐々木君の語る物語群は、それがたとえ山人伝説に関係なくても、そのすべてが柳田さんの心を魅了するのに十分な力を持っているものだったのです。

 ザシキワラシ、河童、猿の経立、神女、デンデラ野とシルマシ、マヨイガ、山男、オシラサマ、オクナイサマ・・・。

 柳田さんは、佐々木君の口から発せられる言葉のひとことをも聞き漏らさないように集中して物語を聞き、遠野の村を夢想しました。そして、そのすべてを『遠野物語』に書き記すことを決心します。

此話はすべて遠野の人佐々木鏡石君より聞きたり。作明治四十二年の二月頃より始めて夜分折々訪ね来り此話をせられしを筆記せしなり。鏡石君は話上手には非ざれども誠実なる人なり。自分も一字一句をも加減せず感じたるまゝを書きたり。思ふに遠野郷には此類の物語猶数百件あるならん。我々はより多くを聞かんことを切望す。
『遠野物語』序文より

 柳田さんは、その生涯を通して多くの土地を旅しました。草鞋を履き、笠をかぶり、日本全国を歩き続けました。農道を歩き、農民たちを観察し、その風土の底にある「微妙なもの」を肌で感じようとしました。

 そんな柳田さんは、旅で農村を歩くことを「しんみり歩く」と表現しました。そして、旅そのものを「ういもの、つらいもの」であると言いました。柳田さんは、旅で何を見たのでしょう。旅で何を感じたのでしょう。

ヤナギダくん
旧家にはザシキワラシという神の住みたまふ家少なからず。此神は多くは十二三ばかりの童児なり。折々人に姿を見することあり。土淵村大字飯豊の今淵勘十郎と云う人の家にては、近き頃高等女学校に居る娘の休暇にて帰りてありしが、或日廊下にてはたとザシキワラシに行き遭ひ大いに驚きしことあり・・・・
『遠野物語』「十七(ザシキワラシ)」より
02年08月07日(水)

 以前から個人のサイトを開きたいと思っていたのですが、それはちょっと大変そうなので、この雑記をそのままウェブログの形式にしてみようかと思い、さっそくちょっと作ってみました。

■SLEEPWALK

 内容は鉄割の雑記そのままですが、個人的に使いやすいリンク集のようなものにしようかと思っています。どこまで続くかはわかりませんが。

 おまけ。
 ちょっと最初は怖いのですが、途中から素敵なメーティング・ダンス
■get your freak on

 早速ですが、明日からしばらくは更新がなくなります。ぼくのことを忘れないで。

02年08月06日(火)

 楽しみにしていたダニエル・クロウズ原作の『ゴースト・ワールド』をようやく観ました。

 映画『ゴースト・ワールド』は、アメリカのオルタナティブコミック作家ダニエル・クロウズの作品が原作の、イーニド(ソーラ・バーチ)とレベッカ(スカーレット・ヨハンスン)という性格の悪いふたりのハイティーンの女の子を描いた青春映画?です。

 性格の悪いイーニドとレベッカは、文句と愚痴の日々を過ごしています。町を歩いて見かけのおかしいカップルを見つければ悪魔主義者呼ばわりをしたり、出会い系雑誌でおもしろそうな記事をみつければ、いたずら電話したりと、十代の皆さんが過ごしているであろう日常をこのふたりも過ごしています。この映画が普通の青春ものと違うのは、出てくるキャラクターがみんなとても面白くて、その面白さもなんといいましょうか、微妙な面白さなのです。行き過ぎていないのに、十分奇妙、という感じの人々がイーニドとレベッカのまわりにたくさん現れて、見ていてとても楽しかった。

 数年前に、日本で女子高生ブームのようなものが起こって、村上龍が『ラブ&ポップ』を書いたり、知識人はこぞって女子高生論を書いたり、朝まで生テレビでは「女子高生」そのものがテーマになったりした時期があったじゃないですか。その頃にトゥナイトで、ある女子高生が日常の不満を書きつづったエッセイが発売されて、それがたいそうな売れ行きを見せているという特集がやっていました。さっそく本屋でその本をぱらぱらとめくってみると、なんだかよくわからないけど、なんだかんだと大人に対する文句ばかりが書かれていて、これはぼくが読んでもおもしろくないのではないかと思い購入するのをやめたのですが、結局のところイーニドが『ゴースト・ワールド』の中で言っていることも、その女子高生がエッセイの中で言っていることも、その内容にたいした差はないように思います。けれどもどうしてぼくがこんなにも『ゴーストワールド』を楽しめるのかといえば、そこにある差は、原作のダニエル・クロウズあるいは監督のテリー・ツワイゴフの手腕による語り口であり、それがたんなる文句で終わるか、作品として人を楽しませられるかの違いなのでしょう。優れた作品を評価する際に、「面白さに気づかされた」なんてことを言いますし。

 原作を書いたダニエル・クロウズは、1961年シカゴ生まれ。86年に「Lioyd Llewallyn」でデビュー、その後「Eight Ball」を中心に、「Like A Velvet Glove Cast In Iron」「Caricature」「Devid Boring」などを発表。「クロウズが性を描写すると途端にしがらみめいた空気が発生するのは不思議な現象だが、垂れた乳首を描くのも上手だ。郊外生活の、退屈きわまりない日常の中にひそむ狂気や、強迫観念めいた不安感、ファインアートに対するフクザツな思い、悪夢のような不条理、孤独、暴力・・などのネガティブなキーワードでクロウズを読み解くのは誤解を招くであろう。『ゴースト・ワールド』の中で主人公のイーニドがはくこんなセリフに、以外とクロウズの本質があるように思えるのだ。『ねえ、ぶさいくなカップルが愛し合っているのを見るとこの世も捨てたもんじゃないってきぶんにならない?』(スタジオボイス2002年1月号より)

 さて、スタジオボイスといえば、今月号のスタジオボイスの特集は『レッツ・ガールズ』でして、その特集で取り上げられていたガールズ系ウェブサイトで面白かったものをちょっとだけ引用させていただきます。

■SucideGirls
 最近、Wiredでも取り上げられたゴス、パンク系の女の子のセルフヌードサイト。  この「ゴス系」という言葉をぼくはよく知らないのですが、このサイトを見たときはびびりました。サイトのデザインがすごくかわいいし、女の子たちの写真もとても素敵です。でも有料なのがちょっと悲しい。

■Dame Darcy
 アルタナティブ系コミックアーティストのデイム・ダーシーのオフィシャルサイト。オフィシャルなだけコンテンツは豊富ですが、怖いです。

■less rain
 イギリスのウェブサイト制作集団。だまされたと思って見てみて下さい。ウェブデザインの仕事をしている人であれば、びびると思います。

クロウズ

ちなみに、『ゴースト・ワールド』でとてもブシェミが演じていたシーモアという人物は、映画オリジナルのキャラクターで、原作には登場しません。


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大根雄
栃木生まれ。
鉄割パソコン担当。
いたりいなかったりする。

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