02年07月20日(土)
 ある時、尊敬する友人のひとりが、ドイツの思想家であるエルンスト・ブロッホの'Darkness of the lived moment'という言葉を引用しながら、休みの日は山や川のそばで、何もしないでぼーっと本でも読んでいるのが良い、ということを言っていました。
 「休みの日はぼーっとしたほうがいい」なんてことは、誰もが思っていることで、箴言でも何でもないわけですが、'Darkness of the lived moment'という言葉と一緒にそれを聞いた時、ぼくはなぜかとても感動をしてしまい、その言葉を心の中で何度も反芻しました。
 直訳すると、「生かされている瞬間の闇」ということになるのでしょうか、ブロッホがどのようなつもりでその言葉を述べたのかはわかりませんが、この言葉を口に出して言うと、気付いていない何かに気付かされたような気持ちになります。

 それで先日、その友人と久しぶりに会ってお話をする機会があったのですが、その時に夏休みの予定の話になり、ぼくが「ちょっと東南アジアへ行ってきます」と言ったところ、「なんで?」と聞かれました。
 心の中では、「いやあ、何もないラオスの川や海の近くで読書でもしながらぼーっとしていようかと思って。」などと答えて、「いやあ、君、なかなかいいね。感性がぼくと似ているんじゃない?」などと言われたいなあ、と思いつつも、日ごろの癖でついつい「まあねえ、本当はヨーロッパに行きたいのですけど、ヨーロッパって物価高いですからねえ、安くて馬鹿なアジアがお似合いですよ、ぼくには。ほら、馬鹿でしょう、アジア人。くせえっつーのね、あいつら、ねえ。」などと心にもないことを口走ってしまいました。
 小学生の頃のひねくれた性格が、いまだ直っておりません。

 貧乏性のぼくには、旅行先でハンモックに揺られながら何も考えずに一日読書なんてことはできそうにありませんが、それでも今回の旅行は、魂のお洗濯ということで、最小限の予定しかたてずに、できるだけゆっくりとしてこようと思っています。
 ぼくの行く予定の南ラオスは、本当に何もない地域で、そこに行くと言うと、ラオスの人にさえ呆れられるそうです。
 ラオスの方々は、みなさんとても心がやさしいということなので、この汚れた魂を少しでも洗い流せれば良いですけれど。
 とても楽しみ。
02年07月19日(金)
ちょっと古いニュースですが
■「ムーアの法則は続く」——Moore氏、勲章を手に語る

 「ムーアの法則」とは、「チップに集積されるトランジスタの数は2年(18ヶ月じゃなかったけ?)おきに2倍になる」という恐ろしい法則でして、ぼくなんかはもうパソコンの技術の進歩は止まってしまっても良いのではないですか、と思っているのですが、いまだこの法則通りに進歩を続けているみたいです。

 パソコンの世界には、ビル・ジョイというとても偉い人がいるのですが、彼は「Why the future doesn't need us(未来は人類を必要としているか?)」というエッセーの中で「ムーアの法則」に言及して、「2030年までには現在のパソコンの100万倍の処理能力を持つマシーンがお目見えすることになりそうだ」と書いています。
 上記の記事によると、ムーア氏は「物質が原子でできているという事実から受ける制約は大きい」として、トランジスタの増加ペースの低減を示唆していますけれど、実際のところはどうなのでしょうね。100万倍のパソコンなんて、なにに使えばいいのかわからないわ。

 ところで、この素晴らしいエッセーは、Wired.comに掲載されたエッセーで、日本語の翻訳もMacLifeに掲載されました。
 最新のコンピュータ技術に携わる開発者であるビル・ジョイは、このエッセーの中で、その他先端技術の進歩を追及することよって生じる危険な側面を、さまざまな例(ロボット工学、遺伝子工学、GNRなど)を挙げて指摘しています。

 彼は、レイ・カーツウェルの著書『スピリチュアル・マシーン—コンピュータに魂が宿るとき』のなかで、彼の友人であり優れたコンピュータ設計者であるダニー・ヒリスが以下のように語っているのを読み、ショックを受けたと書いています。
誰もが自分の肉体が好きだし、私もそうだ。だが、もし200歳まで生きることができるのなら、シリコンの体に交換されてしまっても構わないと思う。
 現在のロボット技術は、人間のかわりに労働をするロボットを開発するという技術段階から、人間の意識をロボットにダウンロードして、人類に永遠の生命を与えようとする研究に発展しようとしています。
 人間の脳の構造を解析して、その状態をコンピュータ上に再現し、そこに人間の意識をダウンロードして近似的な不死を実現しようというのです。
 ビル・ジョイは以下のように書いています。
意識としての私たちがテクノロジーへとダウンロードされていくとなると、人類自身はいったい、どうやって人類でありつづけることができるのだろう。
 エッセーに書かれていることのすべてををここで説明することは不可能ですが、このエッセーの中でビル・ジョイが言っているのは、単なる先進的科学に対する根拠のない誹謗ではなくて、それらの技術の有用性は認めつつも、「ただ科学をやっているだけで、倫理的問題のことはお留守になってしまっていては困る」、それ故に「今後姿を現すと考えられる先進の技術に備えて、社会の準備を整える」べきであるということなのです。

 彼は、『森の生活』のH.D.ソローの言葉を引用して以下のように書いています。
「私たちが鉄道の上を通っているのではない。鉄道が私たちの上を通っているのだ(G.D.ソロー)」。これこそがいま、私たちが戦っていかねばならない対象だ。もんだいは、主導権を握るのがどちらになるのか、だ。人類は生き残れるのか。それとも生き残るのはテクノロジーなのか。
 映画『マンハッタン』で、「なぜ人生には生きる価値があるのか?」という質問に対して、ウッディ・アレンが自分自身の人生に価値をもたらしているものが何であるかを思い巡らせるシーンがあります。それは、グルーチョ・マルクス、ウィリー・メイズ、モーツァルトのジュピター交響曲第二章、ルイ・アームストロングの「ポテト・ヘッド・メイズ」、スウェーデンの映画、フローベールの小説「感情教育」、マーロン・ブランド、フランク・シナトラ、セザンヌ描くりんごやなし、サム・ウォーのレストランのカニ料理、彼の恋人トレーシー。

 ビル・ジョイは、続けて書きます。
人は誰しも大事に思っているものがある。そして、それを大事にすることによって、自分の人間存在の本質を知る。目前にある危機に人類はきっと立ち向かっていくはず、と私が期待するのは、つまるところ、人にはモノや人を大事に思うという、すばらしい能力があるからなのだ。
 このエッセーの分量は、Webで公開されているものを見れば分かると思いますが、結構長めです。ここでぼくが取り上げているのは、その中の本当にほんの一部、本当にさわり程度なので、これだけを読むと単なる科学批判のエッセーのように思われてしまうのではないかととても不安です。

 ところで、ぼくはエッセーというものが大好きで、下手すると小説よりもエッセーの方が読んでいるのではないかと思うのですが、エッセーの中でも、個人の考えや経験を滔々と書き連ねているだけのエッセーも確かに面白いですが、このように著者の博識がいやみではなく自然に挿入されているエッセーが大好きです。
 最先端の科学技術を説明するのに、アリストテレスからユナボマーまで、古今東西の様々な文献を参照し、彼の身近にいる優れた科学者達の発言を引用し、最先端技術に関する知識を全然持っていないぼくにでも理解できるように丁寧に書かれてあり、一度読み始めると止めることが出来ません。

 ぼくがもっとも愛しているエッセーは、トマス・ピンチョンの『Sloth(怠惰)』と、この『Why the future doesn't need us』なのです。
02年07月18日(木)
最近気になった記事やサイトなどを。

■The 50 Worst Movies of All Time
全時代、全ジャンルから選ばれたうんこ映画ワースト50。
栄えあるうんこ映画第一位に選ばれたのは『バットマン&ロビン』です。おめでとう。
うんこ入り確実の『バットマン対スーパーマン』ももうすぐ公開。

■モンティ・パイソン作の寸劇、初の一般上演へ
グラハム・チャップマンの未発表のスケッチが発見されて、それを上演するそうです。一本4分ぐらいで、三本。鉄割にもやらせて欲しい。
下のオフィシャルサイトに、スケッチの内容などが詳しく書かれています。
■"LOST" GRAHAM CHAPMAN SKETCHES TO PREMIERE AT EDINBURGH FESTIVAL
と思ったら、上のページが消えている。どうしてだろう。昨日見たときはあったのに。
(記憶が不鮮明だけど、病的な救世主の話とか、DNAが狂った猫の話とか、そんなだった気がする)

■Japan conquered, Puffy ready for U.S.
現在北米ツアー中のPuffyがCNN.comで取り上げられています。
アメリカには既にPuffyと呼ばれているおっちゃんがいるので、混同しないようにPuffy AmiYumiという名前で活動してるんだって。

■弟子の作品からラファエロの筆跡が発見される
特に思うところは無いのですが、ぼくは一応ラファエロ好きということになっているので。

■Today In Literature
世界文学史における「今日」を紹介。
ちなみ本日7月18日は、『高慢と偏見』のジェーン・オースティンが41歳でお亡くなりになった日です。

■Amazon Light
軽量型Amazon.com。すばらしい。Amazon.co.jp版も作って欲しい。

■「タイムマシン」43年ぶりに映画化
曾爺ちゃんの小説を曾孫が監督。
ウェルズのSF小説は大好きなので、とても楽しみ。全然期待はしていないけど。

■特定遺伝子増やしネズミの脳巨大化 米グループ
ねずみちゃんの遺伝子をいじったら脳みそがでっかくなっちゃったよ!っていう記事なんですけど、これちょっとこわいよ。
SF小説なんかでは、高度な知能を持った動物が人間を殺すというテーマの作品がよく書かれますけど、それが現実になりそうで。
映画「ディープ・ブルー」なんかも、高度な知能を持つサメに人間が翻弄されるという話でした。こわいこわい。こわいよー。

■鬼平犯科帳の彩色江戸名所図解
これはたまらない。このサイトを知ったときは、興奮で震えてしまいました。
池波正太郎さんが『鬼平犯科帳』を書くとき参考にした『江戸名所図会』『江戸買物独案内』と江戸の切絵図をもとに、『鬼平』の各章を解説しましょう、という趣旨のサイトなのですが、その他にも、当時の隠密が集めた情報を記録した「よしの冊子」や、鬼平の関連資料など、サイト内のどのページを観ても興奮しまくり間違いなしです。
今のところ、絵解きは第二巻までしかされていませんが、順次更新されていくようです。たーのーしーみー。

そんでスパイダーマンが踊る。
踊る蜘蛛

さらにみんなも踊る。
踊るアニメキャラ

Sub Content

雑記書手紹介

大根雄
栃木生まれ。
鉄割パソコン担当。
いたりいなかったりする。

最近の日記

過去の日記

鉄割アルバトロスケットへの問い合わせはこちらのフォームからお願いします

Latest Update

お知らせ

主催の戌井昭人がこれまで発表してきた作品が単行本で出版されました。

About The Site

このサイトは、Firefox3とIE7以上で確認しています。
このサイトと鉄割アルバトロスケットに関するお問い合わせは、お問い合わせフォームまでお願いします。
現在、リニューアル作業中のため、見苦しい点とか不具合等あると思います。大目にみてください。

User Login

Links