
サン・ベルナルディオのモーテルを朝六時過ぎに出発。半袖半ズボンという軽装でもまったく寒くありません。っていうか暑いです。
さて。
本日よりしばらくの間、おそらく一週間は走りつづけることになるであろうルート66が、いよいよお目見えです。実は昨日も少しだけルート66を走ったのですが、昨日までの彼と今日からの彼はちょいと違うみたいです。走り初めてすぐに気づきました。ぼくをくたばらせてやろうという野郎の気迫が、ひしひしと伝わってきます。負けてたまるものですか。
今日の目的地は砂漠の町Barstowです。予定走行距離は約130km。やる気まんまんすぎて気持ち悪いでしょう。本当は一日の走行距離は100kmぐらいで抑えておきたいのですが、途中に宿泊ができそうなちょうどよい町がないのです。I-15に沿って走っているルート66を、気合いを入れて走ります。
ルート66を走る車はほとんどありません。ときどき、トラックやらなんやらが通るくらいで、道路を走っているのは、ほとんどぼく一人だけです。楽しい。坂道が多くて少しつらいけど、楽しいです。ルート66は、山々の間を走っているので、風景にそれほどの変化はないのですが、ぼくはこういう景色が大好きなので、まったく苦になりません。この道路は、どこまで続くのかしら。左手に流れる線路は、どこまで走っているのかしら。上に広がる青空は、どこまで澄んでいるのだろう。奥村くんのちんちん(驚異的な長さ)は、いったいどこまで伸びるのだろう。
しばらく走りつづけると、フリーウェイI-15と合流しました。アメリカでは、基本的に自転車でフリーウェイを走ることは禁止されているのですが、場所によってはフリーウェイでしか通過できないところが結構あり、その場合はその区間のみ、特別に自転車でフリーウェイを走ることが許されています。ここから先、しばらくの間は、フリーウェイ上を走ります。日本でいえば高速道路を自転車で走るようなものですが、日本と違って路肩が非常に広いため、走っていてもそれほど恐くはありません。
I-15を走り始めてしばらく経つと、前方にとんでもない坂道が見えてきました。今回のアメリカ旅行、最初の峠、Cajon pass標高4190フィート(1361メートル)です。空には太陽がぎんぎらぎんに輝いています。すぐ横を、車がびゅんびゅんに飛ばしています。気温と排気ガスで、すでにのどがからからです。途中の自動販売機で、水を2リットル分ほど買い込んでおいたのですが、足りないかもしれません。
十回以上の休憩を経て、水もほとんど飲み干して、ようやく登頂。Tシャツが、汗でびっしょびしょです。これから先、いったいいくつの峠を越えることになるのだろう。楽しみな気持ちよりも、不安な気持ちの方が強いです。
このフリーウェイは、barstowまで続いています。このままフリーウェイを自転車で爆走してしまおうかしらとも考えましたが、やはりルート66を走ったほうが面白そうなので、大量の水を買い込んで、フリーウェイを降りました。Victorvilleを過ぎると、それまで並走していたI-15から大きくはずれ、再び人通りも車通りも少ない、素敵な道が現れました。
ここから先、しばらくの間はセメント工場が続きます。土地が広いので、工場の規模も馬鹿でかくて、まるで自分が小人になったみたいな感じがします。
ごほんごほん!!突然、風と共に道路が石灰で覆われました。道路が真っ白になって、息ができないぐらいほどです。風景が一分前と完全に変わってしまいました。しかも坂道だったので、息はできないは石灰は体にまとわりつくはで大変でした。
工場地帯を過ぎると、さらに視界が広がります。一直線に伸びる道路を、「気持ちEー!」と叫びながら、走りつづけます。
この、VictorvilleからBarstowに至る道は、ぼくが人生で走ってきた道路の中でも、ほとんど一、二を争うぐらい素敵な道路でした。本当に楽しくて、走っているだけで嬉しくて、いつまでもどこまでもこの道路が続けば良いのに、と思いました。あまりの幸せに泣きそうになりましたが、涙を流すには、魂があまりにも汚れすぎていました。
まだ二日目なのに。こんなに楽しくていいのかな。
見渡す限りに広がった、あのそーらーをーみよーと大声で歌ってみたり。本当に大声で。
そんなこんなでBarstowに到着。砂が、風に乗って道路の上を舞っています。
モーテルの受付のお兄さんに、チャリでどこからどこまで行くのか聞かれたので、目的のコースを教えると、「まじかよ、お前きちがいだろう」と言われました。イエス、アイムキチガイと答えると、「おい、こいつきちがいだぞ」と外にいる他のスタッフに声をかけます。外にいたスタッフが二三人やってきて、「おまえきちがいなのか」と聞いてきたので、「イエス、アイムキチガイ」と答えました。「そうか、きちがいか。ならしょうがないな」と言われました。今後一ヶ月間、同様の会話を何度も何度も繰り返すことになるので、この会話のパターンを、「会話A」と記すことにします。
明日はいよいよモハベ砂漠です。今日はゆっくり眠りましょう。
今年は、とにかくたくさんのナチュラリストの本を読みました。ほとんど、ナチュラリストの本しか読んでいないかもしれません。その中でも、一番感動したのは、エドワード・アビーくんの文章です。
双眼鏡越しに目の届くかぎり遠くまで北のほうを見た。10マイル、20マイル、いや40マイルほども先を。ぼくは注意深く見ていった。古代インディアンの廃墟、意味ありげなケルン、廃鉱、想像を絶した富をもたらす秘宝、根源中の根源・・・・・なんてものがあるかと思って。
だが何もありはしなかった。何もだ。あるのはただ砂漠。沈黙の世界だけだった。
これだ、探していたものは。
エドワード アビー『グレート・アメリカン・デザート』
そういうわけで、アメリカン・デザートを体験するために、やってきました、ユナイテッド・ステイツ。もちろんチャリ持参です。これから一ヶ月の間、なーんにもないアメリカの道路を、ただひたすらに走りまくる予定です。
今日は初日なので無理はしません。LAXからオンタリオ空港付近まではバスでのんびーりとやってきて、一ヶ月お世話になる自転車を愛情を込めて組み立て、ロス郊外ののどかな風景を楽しみながら、先への期待と希望を胸にゆっくりとペダルを踏みます。
二ヶ月も前の日記を今さらアップするのは若干気がひけるのですが、おつきあいのほどなにとぞよろしくお願いします。
新しく引越してきた町は、今まで住んでいた町よりも静かで、雰囲気も良いので、公園に池がないこと以外はとても気に入っています。
特に嬉しいのは、猫の数がやたらと多いところ。
家のすぐそばの子育て地蔵には、夜になると二匹の猫が常駐しているし、マンションの玄関にもたいてい二三匹の猫がうろうろしています。
ちょいと散歩をすれば、あちらこちらで猫に出会います。
ほとんどの猫は簡単には近づいてきませんが、中には「チッチッ」と話しかけると、全速力でこちらに走って来て、すごい勢いでゴロゴロいいながら体をなすりつけてくる子もいます。
そんなに簡単に人を信用すると、皮をはがれて三味線にされてしまいますよ、と警告しても、やはりゴロゴロ。
せっかく猫と共棲が可能なマンションに引っ越したのですが、まわりにこれだけ猫がいるなら、無理して一緒に住まなくても良いかな。と思ったり。少しだけ。
夜、梨木香歩著『家守綺譚』の続きを読書。
ベッドに横になってこの本を読むと、夜の感じがとても良くなります。