03年10月22日(水)

 新しく創刊した雑誌『Ku:nel』を立ち読みしていたら、武田泰淳・百合子夫妻の娘である武田花さんが両親のことを語っている記事を発見。子供の頃、花さんは母親である百合子さんに「すぐに迎えに来るからここで待ってて」と言われてそのまま忘れられてしまい、周りになにもない石切り場で数時間ひとりきりで放置されたことがあるそうです。現在写真家として活躍する花さんですが、今の彼女が撮る写真の風景は、その時に母親を待ってひとりで見ていた風景と似ているような気がする、と記事の中で言っています。なんとなく心に残るお話。

 戦場カメラマンであるジェームズ・ナクトウェイを追ったドキュメンタリー映画『戦場のフォトグラファー』を恵比寿の写真美術館で観てきました。映画自体は面白かったし、ナクトウェイの写真もさすがに衝撃的でしたが、ナクトウェイ氏の姿勢や発言が、最初から最後までなんとなく釈然せず、うーん、頭がごちゃごちゃしているので、このことについてはまた後ほど。

 写真美術館で現在開催中の『〜士(さむらい)〜日本のダンディズム』展がめちゃくちゃ観たい。今日は時間がなくて観ることができなかったので、また今度ゆっくりと観に来ることにしましょう。11月15日は、普段は高知でしか見ることができない「坂本龍馬像(一番有名な龍馬の写真)」が写真美術館にやってくるらしいので、その日に行こうかな。

03年10月21日(火)

 なにやら空がどんよりと。

 図書館で、文學界やら群像やら新潮やらを読んで過ごす夕方、今月号の文學界は内田百けんさんを特集している。しかも、大好きな松山巌さんが百けんさんについて座談してるし。わお。

 座談会の中で松山氏は、百けんさんの文章について、少なくとも二十代を過ぎて暇にならないと分からない面白さ、と言っている。それを読んで思ったのだけど、例えばぼくが今、百けんさんの文章、特に随筆などを読んで面白いと感じるのは、奇妙なおやじがいるなあという風な、いわば百けんさんとその文章を外から眺めたような、少し距離を置いた楽しみ方で、その奇妙な面白さを楽しんではいるけれども、それは身に染むような楽しみ方ではなくて、例えば漱石の小説や随筆を読んだ時のような体が震えるほどに身に染む感じを、百けんさんの文章から感じることはあまりない。それを感じるには、松山氏の言うように、ぼくはあまりにも(精神的に)若過ぎるのかもしれない。この距離を隔てた楽しみ方が嫌かと聞かれればそんなことは全然ないし、あと何年かしてあらためて百けんさんの文章を読んだ時に、それまでと異なる面白さに気付いたとしたら、ああわたしもとうとうこの面白さが身に染む歳になったのかとしみじみ実感するのでしょうから、それはそれで楽しみだし、若合春侑さんも今回の特集で書いておりますが、百けんさんの作品のすべてを老後にゆっくりと読みたいと思っているわけです。そんなわけで少しでもひねくれた翁になるべく、日々を精進。

 ニキ・カーロ監督『クジラの島の少女』を観ました。伝説と伝統に生きる、マオリ族の一家に生まれた少女のお話。物語もキャストも演出も、最高に良い映画でした。こういうほのぼのとした映画、大好き。おじいちゃんの大人げない振る舞いがむかつきを通り越してかわいい。良い映画を観ると、帰りの電車まで楽しくなる。

03年10月20日(月)

 山形二日目です。

 帰りは、行きとは別のコースを選び、障子ガ岳を経由して出発地点であるバカ平を目指しました。前半はほぼずっと稜線歩き、絶景と紅葉に囲まれながら、それぞれのペースでゆっくりと。昭人さんはたばこを吸いたい、うんこしたい、虫に刺されたと大騒ぎ、奥村君はオナニーしたい、登山は装備だ、エフェクター欲しいと大騒ぎ、はて、このような状況は以前にもありました、そうだ、三年前に軽井沢で。

 下山後、汗を流しましょうということで古寺鉱泉へ。その道中、道を間違えて約三十分ほど山道を迂回してドライブ、走る車の周りには秋に色付く山の風景のみ、曲がり道ひとつなく延々と続く山道に、これまでの人生で経験をしたことがないような至福、このドライブが今回の旅行で一番心に残っております。

 古寺鉱泉は、朝陽館という朝日連峰登山口にある旅館で、駐車場から渓流に沿ってしばらく歩くと、森の中にぽつねんと、とても良い雰囲気で建っており、入り口には元ヤンキーと思しきあんちゃんが玄関を掃掃除、鉱泉に浸かりたいと声をかけると、一度に五人は入れないので、交代で入ってくれとのこと。茶褐色の鉱泉に登山の疲れを癒します、紅葉の思い出にひたります、このままここで眠りたい。

こでら

 早くに隠居して、このような場所で時を過ごしている自分を想像して、にやにやとしているとお腹が減ってきました。空には地面に一直線の飛行機雲、墜落かアクロバットかと騒ぎながら蕎麦屋さんへ、出てきたのは馬鹿でかい板に蕎麦、日本酒の一杯も飲みたいなあと思いつつ、今飲んだらそのまま眠ってしまうことは必至ですから、お茶で我慢して板蕎麦を堪能。

 幸せな気分のまま、車の運転は人に任せて東京へ。なんとまあ、長閑な旅行だったことでしょう。また近いうちに行きましょう、山形。少人数で。


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大根雄
栃木生まれ。
鉄割パソコン担当。
いたりいなかったりする。

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