

十月になりました。お庭の彼女にこんにちは。
数年前、ビル・ゲイツが訪問先のブリュッセルでパイを顔面にぶつけられた事件がありました。犯人はパイ・アナーキスト、ノエル・ゴダン率いるチームで、今までに五十人以上の著名人にパイをぶつけてきたパイ投げのプロ集団です。これまでの彼らのパイ投げによる犠牲者は、小説家であるマルグリット・デュラス、映画監督のジャン=リュック・ゴダール、フランスの哲学者であるベルナール・アンリ・レヴィ、映画女優のキャサリン・ドヌーブ、ファッションデザイナーのカール・ラガーフェルト、歌手のケニー・ロジャースなどなど錚々。面白いのはターゲットとなる相手を選ぶときの基準で、ひとつは「Powerful」、ひとつは「Self-Importance」、そして最後のひとつは「Lacking of Humour」。要するに、精力的で自尊心が強くてユーモアのセンスのない野郎はパイでもかぶってろ!ということです。
どうしてこの事件を覚えているのかというと、この「ユーモアの欠如」という基準が気になったからで、常々ユーモアに生きたいとは思っている身ではありますが、うーん、ユーモアに生きるというのは、なかなか大変なことなのです。思うに、ユーモアのセンスというものは、ぼくが誰かに対して示す場合だけではなくて、誰かの行動をぼくが受け止める時にも問われるもので、ユーモアに包まれた発言や行動に対して、そのユーモアの外装をすべて剥ぎ取って意図を判断しようとするのが、Lacking of Humour、けれども、どこからどこまでがユーモアで、どこからどこまでが不謹慎なのか、その境界は非常に微妙なところなので、それを粋に推し量るのが、ユーモアのセンスというもの。
世界のすべてをユーモアに受け止めるには、あまりにも生き難い時代ではありますが、みなさんお元気で。そういうわけで、今月のぼくの生活の目標は、ユーモアに生きるということで。
九月最後の日、むにゃむにゃと寝ぼけ眼でテレビを見ていたら、日本の企業が慰安旅行で行った先の中国で、数百人規模の集団買春を行ったとして中国政府から抗議を受けているというニュースが流れていました。
ううむ、ひどい話だなあ、でもこれ本当かしら、そりゃそれだけ大勢で旅行に行けば、そんなことをする人も何人かはいると思いますが、いくら何でも数百人はないのではないかしら、などと思っていると、テレビのコメンテーターが「残念ですが、本当だと思います。こういうホテルぐるみで、日本の男性に売春を斡旋しているという事実は昔からありますから」などと言っています。アジアの諸国で体を売る女性が大勢いることは知っているし、ぼくも旅行先で声をかけられたことは何度もあるし、確かにそのような事実があることは否定しませんが、ここで問題になっているのは、買春が数百人という集団で行われたということで、これがもし、ひとりやふたりだったらニュースになるようなことは絶対になかったはずです。それをあっさりと、なんの裏付けも無く、単にアジアでの売春・買春が日常的であるという理由だけで、数百人による買春という信じがたい話を「残念ですが、本当だと思います」などと言ってしまうこのコメンテーターは、自分が何を言っているのかを分かっているのかしら。ぼくのまわりにもこういう人はいますけれど、まるで彼は、この事件がどうしても事実でなくてはならないような、そのような印象を受けてしまいます。
おそらく今後、ろくに調査もせずに印象だけで物事を判断しようとするおばかちんこたちの活躍によって、この事件の真相がいかなるものであれ、集団買春が行われたことは事実であるという認識だけが世間には残ることになるでしょう。様々な意味でいろいろな問題を含んだ事件でありますから、出来ればどこかのメディアに詳しくレポートを続けて欲しいものです。償うべき罪は償い、はらすべき汚名ははらさなくては。
ちなみに、こんな記事も。
知人の会社にお手伝いに行って、とんかつ御膳をごちそうになり、午後には昭の字と烏山から成城学園を経由して芦花公園までマラソンをして、公園で降りたり昇ったり膝を曲げたりいろいろと運動をしていたら夕方になり、風神亭でビールを飲みながら山談義、落としたカロリーのすべて取り戻して、帰路にアイスクリームを買っていたら勉の字がとぼとぼとと、折角ですからとカモシダのビルでレゲエの話なんかを伺ったものの、何を言っているのかさっぱり分からず、分かった振りをして頷いておりました。
帰宅後、『殺人マニア宣言』に収録されているピーター・ジャクソンの初期の頃のインタビュー(『乙女の祈り』に関するもの)を読んでいたら、無性に『ブレインデッド』が観たくなったのでビデオレンタルで借りてきて観ました。今でこそ『ロード・オブ・ザ・リング』の大御所監督でありますが、1992年に発表された『ブレインデッド』は『ロード・オブ・ザ・リング』の千倍ぐらいおもしろいのです。いわゆるゾンビ映画なのですが、最初から最後まで笑いっ放し。主人公はマザコンの頼りない青年で、彼のお母さんがゾンビになって、助けに来た看護婦さんがゾンビになって、顔見知りの神父さんがゾンビになって、からんできたパンキッシュな若者がゾンビになって、ゾンビになった看護婦さんと神父さんはところ構わずセックスをして、ゾンビ子供が出来て、ゾンビを隠していた家に大勢が押しかけてパーティーをして全員がゾンビになって、仕方がないから芝刈り機で全員を切り刻むというお話。十年ぶりぐらいに観たけれど、やっぱり最高のスプラッター・コメディでした。